第13節:絶望
『ハジメェーーーッ!』
オーファンの外皮近くで起こった爆発と同時に弐号の悲鳴を聞いたコウは、即座に彼女の位置を特定してそちらへ向かった。
オーファンの外皮へと向かおうとする巨大な羽衣の突き出した砲身を掴んで引き止める。
「ダメです、ニーナさん」
『離せッ!』
今まで見せた事がないような剥き出しの激情を伴う声で、弐号がコウに向かって吼えた。
『ハジメがッ! このままじゃ、ハジメの目的が!』
『落ち着け、ニーナさん。今突っ込んでも死ぬだけだ』
コウに抱えられた参式も、ニーナを止める。
オーファンの外皮は再生する様子はないが、周囲を守る襲来体が目に見えて増え始めていた。
コウに追いついたアイリと《白の装殻》、肆号の面々を代表して、伍号が問い掛ける。
『どうなったんだ?』
「多分……ハジメさんがやられた」
その言葉に、ルナとリリスが反応する。
『ウソでしょ……?』
『ここまで来て……嫌な展開』
続いて、オーファンと増え続ける襲来体を眺めながら、ケイタとミカミが呻く。
『どうすんだよ……』
『総帥が死んだって事はぁ〜……円環が』
ミカミの言葉に、コウは眉をしかめた。
もし仮に黒の一号でなくコウらがオーファンを殺しても、円環は閉じない可能性がある。
霊号が複数存在する状況というものがそもそも特殊過ぎて、黒の一号の存在消滅と同時に次代の霊号が生まれている可能性があるからだ。
順番が逆であれば、装殻者自身が自分の存在を消滅させる事、あるいはコウとアイリがゴウキに授けられた作戦によって円環を閉じる事が出来たのに。
歯噛みするコウに、アイリが言った。
『……滅ぼそう、オーファンを』
「それで全てが終わる可能性があるか?」
『だからって放置するの?』
「……」
それは出来ない。
もし仮に新たに、さらに強大な襲来体が生まれる事になったとしても、オーファンを殺さなければ次は霊号を生む可能性のある人類がいる、地球を潰そうとするだろう。
コウが覚悟を決め、アイリに賛同しようとした、その時。
『なんかおかしない?』
肆号、ミツキの言葉に、ケイカが反応した。
『何がおかしいの?』
『いや、ハジメさんが死んどるんやったら、何で装殻生きてるん?』
ミツキの言葉に。
コウは、目を見開いた。
ミツキの言葉の意味を図りかねたのか、ミチナリが訝しげに言う。
『……我々の霊子力は、コウくんとアイリから供給されているのでは?』
「違う……」
ミチナリの言葉を、コウは否定した。
「この世界の装殻は……言うなればハジメさんの使徒だ……霊子力の供給は関係ない」
霊号として覚醒し、アカシックレコードに触れた今だからこそ体感として分かる。
装殻者と使徒装殻の関係は、母体と襲来体と同質なのだ。
元がマサトの使徒である《白の装殻》はともかく、《黒の装殻》は、外殻が崩壊しないまでも稼働できなくなっておかしくない。
機械と人体と融和させているのは、ゴウキのコアのカケラからの霊子供給で培養されたゴウキの外殻、パウダーなのだ。
そのゴウキのコアのカケラを所持しているのは、人体改造型装殻者・黒の一号。
『ハジメが……生きてる?』
ポツリと呟いた弐号の言葉を受けて、アイリが叫んだ。
『時空改変ッ!』
アイリが、オーファンが纏う霊子的防御の内側と、自身の通信機器の間に霊子回路を形成し、全員とリンクさせた。
「ハジメさん! 無事ですか!?」
コウの呼びかけに、少しの間、沈黙が降りて。
『……ああ』
黒の一号から、返答があった。




