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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『最終決戦篇』
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第12節:オーファン、到達。


「マザーβ、アナザーβ、反応消失(ロスト)


 ニーナの宣言に、ミツキが悪態をついた。


「くそ……!」

「ミッつん。【黒殻】の制御が乱れてるわ。集中して」


 弐号の冷静な声音が、ミツキに注意する。


 【黒殻】は、母体の間を抜けた直後に長時間限界機動に入っていた。

 オーファンに辿り着くまで、二人のお陰で少しの余裕がある。


「二人が何するか、あんたら分かってたんやろ! 何で……!」

「今はそんな事言ってる場合じゃないのよ!」


 黒の一号は自分を罵倒するミツキの言葉を甘んじて受け入れるつもりだったが、ミツキの言葉を遮ったのは相棒のケイカだった。

 彼女の声には泣きの色が滲んでいたが、ミツキよりは冷静さを保っているようだ。


 ……それが表面上の事だけだとしても。


「今【黒殻】の制御が崩れたら、オーファンを倒せないでしょうが!!」

「……ッ!」


 歯噛みするミツキに、黒の一号が掛けるべき言葉など一つもない。

 参式(トウガ)が何をしようとしていたのかは、黒の一号も弐号も理解していた。


 そして伍号(ジン)も。

 オーファンに辿り着く為に、それは黒の一号が受け入れるべき罪だった。


「……見えたぞ」


 自分の感情を押し殺して呟く黒の一号の視界に、オーファンの姿が映る。

 同時に、脳裏に声が響いた。


『霊号ニ滅ビヲ与エル……時空ノ輪廻ヲ正常ニ……全テ、ハ、デウス、ノ、意志、ノ、ママニ……』


 そう繰り返される波動と共に、オーファンの周囲に居た襲来体が一斉にこちらへ向かって来る。

 限界機動の力を与えられた襲来体が、こちらに群がるのを、長時間限界機動とサテライト制御を同時に行う肆号が削っていくが、当然限界がある。


 幾度か襲来体に突撃されて【黒殻】が徐々に損傷していく。

 幾度めかの《黒の進撃》による振り払いの直後、ケイカに異変が起こった。


「くぅぅぅ……!」


 苦しげな呻き、そして共鳴する四つの意識から徐々にケイカの存在が薄れていく。

 融和限界だ……黒の一号はそう感じた。


 参式のサポートと伍号による【黒殻】の出力補填が失われた状態での限界機動が、ケイカにかつての第一次襲来体殲滅戦と同様の、装殻に取り込まれかけた状態を引き起こしている。


「ケイカ!」

「大丈夫……まだ……!」


 ミツキの焦りに、応えるケイカ。

 しかし黒の一号は、即座に判断した。


「……ニーナ」

「ええ、限界ね。ミッツん。ケイカを頼むわねん」


 オーファンはもう眼前だ。

 内部に入り込む事さえ出来れば、【黒殻】は崩壊しても構わない。


「どういう意味や!?」

「こういう事よん」

「ーーー時空改変(レコードブレイク)


 肆号(ハイブリッド)を対象に、黒の一号は空間跳躍能力を行使した。


「待って、私は……!」

「ニーナさん!」

「ダメよん。コウくん達がもうすぐ来る。……あなた達は、無事に帰りなさいな」


 【黒殻】内部から、襲来体が存在しない後方の衛星軌道上へ。

 共鳴から剥離し、霊子反応の消えかけたミツキ達が怒鳴る。


「無事に帰ってけぇへんかったら……二人とも許さんからなァ!」

「ハジメさん……!」


 肆号の反応が消滅し、サテライトが消滅。

 代わりに黒の一号は【黒殻】の両足を殻弾機関砲に変化させて弾丸をばら撒きながら突き進み、弐号も鞘翅の射出口から通常弾頭の散弾を放ち始める。


「……大丈夫か? ニーナ」


 【黒殻】そのもののコアであるハジメに、今以上の事は出来ない。

 外殻の維持を一手に担う弐号は、そんな極限状況を微塵も感じさせない優しい声音で言った。


「あらん。私は最後まで貴方と一緒よん、愛しい人(モイ・リュビーモイ)

「……キョウスケはどうする気だ?」

「あらん? 生きて帰るでしょ? コウくん達が、上手くやってくれるのを信じましょ!」


 弐号の……ニーナの楽観に、いつも救われた。

 どうにかするわよ、と。


 目の前事に走り回るしか能のないハジメを、黒の一号になる前から支えてくれたのは彼女だった。


「……ありがとう。愛している」


 今まで伝えた事のなかった言葉に、ニーナは絶句し。

 直後に、嬉しそうな声音で答えを返す。


「似合わないわねん、ハジメ。……でも、私も愛してるわ」


※※※


『……花立さん』


 呼び掛けられて花立が意識を取り戻すと、目の前に巨大な外殻を纏う龍のような意匠のフルフェイスが見えた。


「コウくんか」

『ええ。生きていて良かったです』


 《紅の一撃》の直後、爆発に巻き込まれた瞬間に空間跳躍の反応を肌で感じたが。


「……君が、助けてくれたんだな」


 また生き残った。

 そう思う花立に、こちらの内心を察したのか、コウが口を開く。


「貴方が死ねば、悲しむ人は多い。違いますか?」


 花立は微かに、頭部外殻の下で笑う。


「死ぬのにも気を使う。一体いつからこんな面倒臭い事になったのか、まるで分からん」


 カズキやスミレの元へ向かうのはまだ早いらしい。

 案外、花立が死にかける度にあいつらが結託して蹴り戻しているのかも知れなかった。


 ありそうな事だ。


「ジンは?」

『無事ですよ。アイリが救いました』

「そうか」

『もう少し先に、ケイカさんとミツキがいます。彼らを回収して、ハジメさんの所へ』

「……どうなった?」

『……まだ、戦闘は続いています』


※※※


 【黒殻】は、半壊しながらオーファン目掛けて突っ込んだ。

 オーファンの表面に衝突して穴を穿った【黒殻】が、半分オーファンの中にめり込んだまま鞘翅にさらの射出口を生み出し、マザーやアナザーよりも巨大なその体を、自身の下半身を全て領域弾に変化させて撃ち込む。


 喰い合う激しさに反して、音の響かない宇宙空間では酷く静かな光景だ。

 自身すらも巻き込む領域弾による自爆は、オーファンの体の半分を巻き込み、抉り取った。


 ぐらりと傾ぐオーファンだが、【黒殻】の捨て身の一撃はコアまでは届いていない。

 空洞のような内部を晒したオーファン……外形はともかく、あれだけの襲来体を生み出していたからか、内部の密度は低かった。


 その、オーファンの体に開いた大穴目掛けて。



 自爆の前に【黒殻】から離れていた黒の一号と弐号は……開いた大穴へ向けて慣性移動を行なっていた。




『上手くいったわねん』

「ああ、後は……」

「! 《黒の天蓋(キャノピースフィア)》……!」


 羽衣を纏った弐号が、黒の一号が言葉を発している途中で防御障壁を展開した。

 その表面に体当たりしたのは、かつて地上で対峙したマザー、そしてアナザーと同じ装殻者の姿をした襲来体。


 目は不気味に赤く光り、しかし知性は感じない。


『こ……の……!』

「ニーナ!」


 弐号が、襲来体に押し込まれてオーファンへの軌道から外れて黒の一号から離反し、流されていく。


「ーーー出力変更(オーダー)狙撃特化(スナイプモード)

変更(メイキング)

 

 黒の一号は追加武装を纏い、長距離狙撃砲(ケルベロス)を構えた。


 一体を、流されたニーナ自身が《黒の断絶ラインスフィア》によってマザーに似た個体を両断して振り切る。

 その間に黒の一号は射軸を合わせ……アナザーに似た個体へ向けて必殺の弾丸を放った。


「出力解放ーーー《黒の狙撃(サイレントブレイク)》」


 反動をそのままに、オーファンへ向けてさらに加速を加えながら放った一撃により、アナザーに似た個体の頭が吹き飛ぶ。


『ハジメ……!』

「お前は帰れ、ニーナ」


 追加武装を解除しながら穿たれた穴に、飛び込もうと体を反転させた黒の一号に。

 周囲を漂う、オーファンの砕けた外皮の陰から、ただ一体残った襲来体が黒の一号に抱きついた。


「……ッ!」


 そのまま、抵抗する間も無く、襲来体が自爆した。

 


 

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