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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『最終決戦篇』
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第7節:発つ者、送る者。


 全ての準備を整え、最終決戦の為に発つ日。

 巨大外殻『黒殻』の前に集ったのは、《黒の装殻(シェルベイル)》《白の装殻(クルセイダー)》の面々だけだった。


 管制室にシノ・カヤ・おやっさん・ヤヨイが居て、特別にアヤも管制室で状況を見守っている。

 集まった11人を、ハジメは一度見回してサングラスを外した。


 20代前半に見える、鋭い目の青年―――人体改造型装殻者になった時からまるで変わらない姿の彼は、おもむろに口を開く。


「我々は正義ではない」


 人体改造型を擁する違法組織の総帥にして。


「我々が人類を救わんと望むのは、あくまでもそれが己の願いであるからだと、魂に刻まねばならない」


 世界最初の人体改造型装殻者。


「自らが望む事を為す。他人にその責を押し付ける者に、理想を騙る資格はない……」


 己の死をもって全ての連鎖を断ち切ろうと志した男は。


「今、この場で。心から己の為に死地へ発つ気概のない者は、去れ」


 その生き様と覚悟の全てを、短い言葉の中に込めた。

 しかしそんなハジメの言葉を受けても、誰一人として、立ち去ろうとはしない。


 ニーナは、それが当然であるかのように涼しげに。

 花立は、誰よりも覚悟を決めた顔で。


 ミツキは不敵に笑い。

 ケイカは、いつも通りに真面目な顔で頷いた。


 ジンは、滅多に見せない静かな顔で。

 そしてコウは、決意と共に、口を開いた。


「我ら、正義を騙る修羅……」


 意外な事に、その言葉に応じたのは、《白の装殻(クルセイダー)》の最年長、ミチナリだった。


「従うものは、己の心」


 それぞれに唱和するのは、リリスとルナの双子。


「「律に背き、権を拒み」」


 その言葉を皮肉に引き継ぐのは、ケイタ。


「力を以て望みを通す、だろ?」


 そんなケイタの太ももをつねりながら、ミカミがアイリに目配せをする。

 アイリは、一度息を吸い込むと、胸に手を当ててハジメを見た。


「我ら、黒の一号の名の元に」


 コウも、ハジメに目を向けて逆十字(アンチクロス)を切る。


「理不尽な運命と、襲い来る敵に」

「知恵と」

「意志と」

「意地と」

「協調と」

「勇猛を以て」


 《黒の装殻(シェルベイル)》が次々に言葉を発して、同じように逆十字を切る。

 そしてハジメ以外の全員が、彼に対して唱和した。


『人類に、救いを!』


※※※


 そして彼らは、(そら)へ発つ。


 日本国の首都近海から飛び立つそれらは、幾つかの国にある衛星によって観測され、日本国への問い合わせがあったが、日本国首脳部は沈黙を保った。


 彼らは知っていた。

 飛び立った者達が人類の希望であり、また同時に、表舞台から今日をもって消える存在である事を。


 日本国で、『日米装殻争乱』よりも前から首相を務め続けた男……元『黒の兵士(シェルアシスト)』であり、復興の立役者と呼ばれた男は。


 黒の一号を表向き指名手配しながらも協力者であり続けた男は……首相官邸から見える光に向かって、黙って敬礼した。


※※※


 また、彼らを見守る管制室にいる者達も。


「……お兄ちゃん」


 祈るように、光を見上げながら指を組むアヤの横で、カヤが眉をしかめて歯がゆそうに言う。


「出来れば、私も共に行きたかったがな」

「仕方がないでしょう。私達は、ただの人間です。……幾ら訓練しても、結局は」


 カヤに反論しながらも、その実内心で同じ思いを抱いているだろうシノに、おやっさんは優しく声を掛けた。


「俺たちは、確かに一緒には戦えねぇ。それでも、俺たちはここにいるから意味があんのさ」


 三人の女性が、おやっさんに目を向けた。

 おやっさんの足元ではキョウスケとユナが纏わり付いて遊んでいたが、彼らも管制室の雰囲気を察したのかハジメらが遠ざかるのを見上げている。


 おやっさんは二人の頭を撫でながら、軽く首を傾げた。


「奴らには、守るべきものが必要なんだ。顔のない誰かじゃねぇ。今、奴らの心の中に根付いてる誰かがな。なぁ、ヤヨイ」

「そうだ。シノ、カヤ。あたし達には、奴らを見守る責任がある」


 通信席の一つに座ったヤヨイが、椅子を回転させておやっさん達に向き直った。


「それも、あたしたちにしか出来ない事だ。人は、誰とも知れない相手の為に踏ん張れないんだよ。生きてようが死んでようが、絆を結んだ相手がいない奴は、脆いんだ。見ず知らずの誰かを助けようと頑張る人間の根っこにはね、家族や友人という、『同じ危機に晒されたかも知れない自分の身内』がいる。そして『誰かに託された何か』を持っているもんだ」


 ヤヨイは、ついに彼方へ消えた光点のあった方向を親指で指差した。


「ハジメさんには、ゴウキさんが。ニーナさんにはハジメさんが。トウガには『黒の兵士(シェルアシスト)』とケイカが。ミツキとケイカには、お互いとあたし、トウガとカズキが。ジンには、カオリや死んだ親友が。アイリにはトウガと鯉幟さんが。コウにはアヤが。奴らが持っているもんの上に、この世界に暮らす全員が乗っかってる。……あたしたちは、ここにいる事に価値があるのさ」

「だから待つんだ。待つのもしんどい戦いだよ。奴らが生きて戻って来た時に、ここがお前らの居場所だと言ってやるのが、俺たちの戦いだ」


 二人の言葉を噛みしめるようにシノが頷き、カヤが息を吐いた。


「「そうですね」」


 真反対の性格なのに、こんな時だけハモる二人に、おやっさんとヤヨイが笑みを浮かべる。


 カメラからレーダーに切り替わった画面には、スイングバイに入った戦士達が、加速しながら迫り来る襲来体に向かおうとしている軌道が映し出されていた。


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