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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『最終決戦篇』
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第2節:司法局の待ち合わせ。


 実家へ一泊したコウ達は、結局両親に事の真実を尋ねなかった。


 今更尋ねた所で意味のない事だったし、両親が自分たちを愛し、育ててくれた時間や記憶が消え去る訳ではない。

 ただ、再会を喜び、遠慮するジンらと共に実家に一泊した後に、待ち合わせ場所へ向かった。


「フラスコル・シティ司法局……」


 アヤが待ち合わせ場所の表示を見て、複雑そうな顔をした。

 一度、自分の意思とはいえ、犯罪者として赴いた場所だ。


「……本当に、来なくても良かったんだぞ?」


 アヤは、最後の戦闘に参加する訳ではない。


「私も、『黒殻(アンチボディ)』の一員だよ。それに……何も出来なくても、お兄ちゃん達の最後の戦いを、見届けたいもの」


 コウはアヤに実家に留まるように言ったが、彼女はその時も同じように首を横に振った。

 

 彼女の開発した装殻解除薬は既に世界中に無料で撒かれ、大々的に画期的な新薬として連日メディアを賑わせていた。


 アヤは、自分を開発者だと明かさなかった。

 私一人の力で完成した訳じゃない、と言って。


「お姉ちゃんも、助けたかったな……」


 実家で、薬の報道を見たアヤは、コウに小さくそう呟いて、少しだけ泣いたが、それ以降はいつものアヤだった。

 コウはそれ以上アヤには何も言わず、ジンに尋ねる。


「それで、どうするんですか?」

「先にケイカさん達は着いてる筈なんだが」


 司法局の入口付近に姿は見当たらない。

 

「ほんなら、連絡入れよか?」


 ミツキが尋ねる間に、入口が開いて誰かがこちらに手を振った。


「おーい」


 見ると、アイリとおやっさん、そして黒髪ロングの日本美人がそこに立っていた。

 アナザーを倒した後、一度だけ会ったがすぐに本土に戻ってしまった元『黒の兵士(シェルアシスト)』の女性、現フラスコルシティ司法局局長である、空井カヤだ。


「お待たせしてしまいましたね。歓迎しますよ、【黒の装殻(シェルベイル)】の方々、そして、アヤさん」


 シノの笑みに、おやっさんが頷く。


「無事に着けたみてぇだな」

「そら司法局のトップがお墨付きを出した専用機で来たんやから、逆に止められたらビビるやん」

「違ぇねぇな」


 おやっさんとは昔から顔馴染みのミツキが気安く言うと、おやっさんは笑った。


「アイリ。……司法局の制服は?」


 ジンがニコニコとそれを見ているアイリに尋ねると、アイリはあっさり答えた。


「あ、僕、司法局辞めたから」

「は?」

「いや、僕、事が終わったらどーせ司法局にはいられないしさ。シノさんの好意で無期限休職扱いだったけど、綺麗さっぱりしとこーと思って」

「……それで良いのかよ?」

「うん」


 アイリは、どこか吹っ切れたような笑顔で笑った。


「僕が捜査員じゃなくなったって、おやっさんも室長も、《白の装殻(クルセイダー)》の皆も居るんだ。居場所がちゃんとあるから、僕はこの後も頑張れる」

「……そうか」


 頭を掻くジンが口元に笑みを浮かべると、アイリは少しだけ恥ずかしそうに付け加えた。


「……ジンも」

「ん?」


 小さくアイリが呟いた言葉をジンは聞き逃したようで、首を傾げた。


「なんか言ったか?」

「何でもないよ、ね、コウ」


 話を振られて、アイリの呟きを聴き漏らさなかったコウは、曖昧に首を傾げる事しか出来なかった。


「そろそろ良いか? もう行こうや」


 無煙タバコをくわえたおやっさんがコウ達に声を掛けて、シノに頷き掛ける。

 シノは微笑みを絶やさないまましとやかに頷き、司法局の中に向けて踵を返した。


「では、ご案内致します」

「どこに行くん?」


 シノの後に続きながらミツキが首を傾げるのに、シノは答えた。


「司法局の地下に、フラスコル・シティを支える基幹シャフトに続く直通エレベーターがあります。そこで、ハジメさんとニーナさん、トウガさんにヤヨイさん、それに、ケイカが待っています」


 言った後少しだけ間を置いて、それまでとは違った嫌そうな顔でシノは告げた。


「……後、忌々しい我が姉も、来ています」

「カヤとお前さんは本当に仲が悪いな。今度は何があった?」

「別に何もないですよ。ただ、理由を付けてはトウガさんの手を煩わそうとするので。こちらとしても最終準備で忙しいので、トウガさんに手伝って欲しいのに」


 拗ねたような口調で言うシノに、おやっさんは溜息を吐いた。

 コウがミツキとジンに目を向けると、二人は妙に生暖かい目でこちらを見返して来る。


「つまり、や」

「美人の双子が花立さんを取り合いしてる、と」

「……私情を挟んでるって事?」


 二人の視線の意味が分からずにコウが首を傾げると、二人は舌打ちした。


「天然系朴念仁め」

「お前はえーよな、アヤちゃんが側におるしなぁ。俺なんかこの件が終わるまで返事すらお預けやっちゅーのに」

「ちょ、ミツキさん何を言ってるんですか!?」

「何の話?」

「お兄ちゃんは黙ってて!」


 何故か顔を赤くしているアヤに、ますます首を傾げながら、コウはアイリを見る。


「アイリは、意味分かる?」

「えーと……多分、コウよりは」

「そうなんだ……」


 コウは、自分が鈍感だとはあまり思っていないのだが、どうも周りから見ると違うらしかった。


「まぁ、良いか」

「それで済ませちゃうからダメなんだと思うよ」


 アイリは呆れた顔で言うが、それより気になっている事がコウにはあった。


「結局、俺はハジメさんに、どんな所に向かうか教えられてないんだけど。これからどこに行くの?」


 エレベーターに乗り込みながら問い掛けるコウに、アイリは、んー、と微妙な顔で悩んでから、答えた。


「研究所、かなぁ。一番近いのは」

「研究所?」

「そう。それも政府直轄らしいんだけど、その研究所でカヤさんとシノさんが使った物が開発されたんだってさ」


 シノがエレベーターの多重認証をクリアしてボタンを押すと、エレベーターが下降を始めた。


「アウターベイルと、サイクロプス、だっけ?」

「そうです」


 アイリの言葉を、シノが引き受けた。


「シャフト付近に秘密裏に作られたその施設は、本来はメンテナンス・ハンガーと培養設備しかなかったのです。ですが、『黒の兵士』の頭脳陣は、Lタウンでなくこちらで保護していました。その間にカヤに唆されて、彼らは独自に研究を行っていたのです。あの時の兵装はその副産物ですね」


 コウからしてみれば、黒の一号に協力した人々が政府の中枢に近いこんな場所で研究を行っているのすら意外だったが、よくよく考えれば、黒の一号は最初から指名手配犯だった訳ではない。


 むしろ英雄であり、政府中枢との繋がりがあっても何もおかしくはないのだ。


「一体、何の研究ですか?」


 エレベーターの長い下降時間の雑談兼、自分の興味を満たす目的でコウが何気なく聞くと、シノは振り返って意味ありげに笑った。


「ある意味では、貴方たちの研究、ですね」

「俺たち?」

「そう、僕とコウ……霊号の研究だよ。ただ、直接そのものの研究をしてた訳じゃない。初めて見た時は、僕も呆れたけど」


 アイリは、勿体つけるように明後日の方向を見ながら、ふふ、と喉を鳴らす。


「きっとコウは、あれを見れば、三日はあれに没頭し続けられるんじゃないかな」



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