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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『最終決戦篇』
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第1節:帰省


「……気持ち悪い」


 おえっぷ、と青い顔で飛行機から転がり落ちるように地面に降りたミツキは、そのままその場に座り込んだ。


「大丈夫? 本当に乗り物に弱いね」


 続いて降りたコウが声を掛けると、ミツキは、大丈夫だ、という返事の代わりに軽く手を振った。


 フラスコル・シティの西エリアにある私設飛行場。

 以前、アンティノラⅦ、そしてⅧとの死闘を繰り広げた場所でもあるそこは、今日、コウ達の貸し切り状態となっていた。


「『青蜂』や肆号を装殻してる時は、ビュンビュン飛び回ってるのに」

「それはそれ、これはこれや。大体、自分の意思で飛ぶんとは訳がちゃうやろ……」

「そうかな?」


 乗り物酔いとは縁のないコウは、いまいち良く分からないまま首を傾げた。

 そのままアヤが降りるのに手を貸していると、ミツキがぼんやりと飛行場の周囲を見回しながら訊いてくる。


「ここが、コウ達が元々住んどった辺りなんか?」

「住んでたところは、もうちょっとシティの中央寄りかな」

「ミツキさんは、フラスコルシティに来た事ないんですか?」


 アヤが尋ねると、ミツキはうなずいた。


「ないなぁ。てか俺、あんま大阪区から出た事ないわ」

「お前の両親は、大阪隕石を監視する役目があったしな」


 飛行機の中から荷物を差し出して来たのは、ジンだった。

 ミツキとコウは、それぞれに荷物を受け取りながら肯き合う。


「今になったら納得やけど、そのとばっちりで俺、旅行とかあんま行った事ないんよな」

「なら何で、自分が船とか飛行機に酔うのを知ってたの?」

「中学高校の修学旅行」

「……ああ、なるほど」


 そのあたりにあまり良い思い出のないコウが微妙な顔をすると、アヤが首を傾げる。


「電車とかはどうなんですか?」

「酔うで。やから使わん」

「通学は?」

「中学はチャリ、高校は原付」

「……校則違反じゃないの?」


 旧態依然としているが、実は高校の校則には未だに自動二輪での通学を禁じる項目がある。

 理由は簡単、公共交通網を利用するための徒歩区間の移動は装殻化で事足りるので、わざわざ変える必要がないからだ。


 飛行型装殻は希少な上に別枠で所持許可証が必要な為に一般には出回っていないが、飛行能力がなくとも装殻化して走れば普通に歩くより数倍早い。

 乗り物と違って多少疲労はするようだが。


 ……ようだが、と言うのは、実際にコウが体験した訳ではないからである。

 元・非適合者であるコウは青春を装殻調整に捧げて、調整士の資格を取ったのだ。


「校則違反やけど法律違反ちゃうしな。Lタウンに放置されとったのイジッて無免で乗ってた。家も学校もLタウンの近くやったし」

「いや、それ法律違反だろ」


 無免も登録なしの改造も立派に罰金対象だ。

 そう言うコウに対して、ミツキは立ち上がりながら肩を竦めた。


「Lタウンは法治外区域やし」

「そもそも法治外区域に侵入するのが違反ですよ……というか、危なくなかったんですか!?」

「んー、あの辺りで俺と絡みがあったのって、気の良いおっちゃんばっかやったしなぁ……多分、あの人らって元は『黒の兵士』やったんやろ。あ、おとんに俺の何故か行動が筒抜けやったんはそのせいか」


 今気づいた、と、ぽんと手を打つミツキに、自分の荷物を持って降りたジンが呆れた顔をした。


「お前は割とマトモかと思ってたけど、やっぱりマトモじゃねぇな」

「いやいや、マトモですやん。真面目とはちゃうかもせーへんけど」

「……アヤ。俺、マトモだよな?」

「んーと、変わってはいる、かな?」


 変わり者に含まれたコウがアヤに尋ねると、アヤは目を泳がせた。


「大体、そういうジンさんこそ俺より無茶してそうですやん」

「校則違反とかした事ねーよ」

「マジで!?」

「生活自体がマトモに出来るようなトコに住んでなかったからな。そもそも中学すら行ってねぇ」

「……それは校則違反をした事がないだけで、無茶してない事にはならないんじゃ」

「何だよコウ、今更だろ。大体俺らは存在自体が違法だろうが」

「俺は(ちゃ)いますよ?」

「『黒殻(アンチボディ)』の構成員って時点でマトモでも真面目でもねー上に、四国に行く前のお前の戦闘遍歴は立派に犯罪者レベルだ」

「しもた! それ忘れてた!」


 わざとらしいやり取りを無視して、コウは歩き出した。

 他の面々は、別枠でそれぞれにフラスコルシティに入っている。


 コウ達が三手に別れてフラスコルシティに入った理由は、お互いに違う目的があったからだ。

 《白の装殻(クルセイダー)》の面々も、遅れてフラスコルシティに来る事になっていた。


 レンタカーに乗り込んだコウは、緊張した顔をしているアヤに声を掛ける。


「大丈夫か?」

「うん……」


 これからコウ達が向かうのは、アヤの生家でありコウが育った、義実家だ。

 最後の戦いの前に会ってくると良い、と、ハジメが言ったのだ。


 コウとアヤは、その言葉に甘える事にした。

 これで、家族が揃うのが最後になるかも知れないからだ。


「お父さんもお母さんも、『黒殻』の本当の目的を知ってたのかな……」


 何処かアヤが複雑そうな顔をしているのは、これから向かう義実家で会う両親が隠していた事を、事前にハジメから知らされていたからだった。


「多分……知ってたんじゃないかな」


 だからこそ、アヤを迎えに行ったジンとアヤ自身の選択を受け入れて、送り出してくれたのだろう。

 結局、コウが元々使っていた工房も整理してくれたのは義両親だったようで、コウが生きている事も知っているらしい。


 連絡を取ることは禁止されていたので、コウ自身も彼らに会う事に緊張を感じていた。

 義両親が元は『ラボ』の研究員であり、死んだコウの両親に助けられたという事だけは、コウも知っていたが。


「……俺の本当の両親が、まさかハジメさんの協力者だったとは思わなかったよ」

 

 『ラボ』から逃れたハジメが傷付いて倒れていたのを発見して保護し、参式の父親であり当時警官だった花立キヘイに伝えたのが、当時研究者だったコウの両親だったと。


『南原博士は人体工学の博士号を持っており、ニーナの祖父だったイワンとも親交があったらしい』


 その縁で、コウの両親はハジメの体の秘密を知った後に、キヘイを説得して彼の存在を公にしないよう彼を説得するのに協力してくれたと。


「全部、ゴウキさんの計らいかもな」


 運転席に座っているジンが言い、助手席のミツキが頷いた。


「あの人、そういうイタズラ好きそうやったもんな」


 自分の前世とも呼べる南原ゴウキ。

 奇しくもゴウキと同じ名字の父は親類がいなかったが、実際にはゴウキと血縁者だったのかも知れない。

 

 コウの両親は、コウの年齢にしてはかなり年老いていた。

 彼を拾った時で、既に祖父母くらいの年齢だった。


 アヤ達の両親も、コウの両親ほどではないが高齢だ。

 

 出会う前から存在した全てが、黒の一号に繋がる。

 コウはそこに、ゴウキにとってどれほどハジメが大きな存在だったかが表れているような気がした。

 

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