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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
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第29節:総力戦②


「強纏身、真・殻装(フルベイルド)!」


 両腕で逆十字を切って鬼の巨殻を纏いながら、参式がシープに襲いかかるのを、黒の一号は見ていた。

 参式がワイヤー式遠隔操作円月輪を横薙ぎに払うとシープは空へ飛んでそれを避ける。


「ヒャハハ! 空戦能力のない貴様が、俺とやりあえると思ってんのかァ!?」

 

 そのまま、シープの生成した機関銃の乱射を避ける参式。

 だが、空中のシープが展開した羽を、黒の一号が即座に狙いを定めて放った銃弾が射抜く。


「ギッ!?」

「空戦型は同じような事を言わないと気が済まないのか? 一人で相手をするのでなければ、やりようは幾らでもある」


 ケルベロスを構えた黒の一号が、銃口から白煙をたなびかせながら言う間に。

 参式はラムダやエータのガンベイルを相手した時同様、弐号から受け継いだ空間遮断領域を空中に展開し、それを足場にして空へと駆け上がっていた。


「そもそも、ただ空中に留まる程度の芸当で偉そうにするな」


 一瞬にしてシープの背後を取った参式が、円月輪でその両翼を半ば辺りで薙ぎ斬った後に背中の中心へ向けて拳を叩き付ける。


出力解放(アビリティオーダー) The First―――《黒の打撃(ナックルブレイク)》」


 黒の一号が参式に与えた灼熱の拳が、宙を舞う能力を失ったシープを地面に突き落とす。

 轟音と噴煙。


 しかしシープの肉体は即座に再生し、彼は参式の追撃を逃れて横へと跳ねた。

 同じタイミングで極限機動を脱した白殼体がシープに合流し、追撃を仕掛けようとした参式をブレード・スラスターで牽制した。

 伍号も、限界機動状態のまま地面に激突した肆号と黒殼体に阻まれて二人を逃す。


 やや形勢有利な状態での仕切り直し。

 それは決定的な隙とはならないーーー筈だった。


「キヒヒッ!」


 シープが嗤い、今度は先程の形の違うロングバレル型の拳銃を両手に生成すると、肆号と伍号へ銃口を向けた。

 悪足掻き……そうとも思える行為だが、黒の一号の脳裏に警戒心が湧く。


 フラッシュバックするのは、一度、伍号がシープを殺した、と思った飛行場での出来事。

 コウが銃弾に撃ち抜かれた光景。


「「「限界機動(ブレイクアップ)!!」」」


 不測の事態に備えていた黒の一号は、自身の予感が命じるままに超高速状態へと移行する。

 同時に、シープと参式も。


出力解放(アビリティオーダー)……《悪魔の弾頭(イヴィルヴェノム)》!」


 スラスターの全開噴射で、黒の一号と参式はシープの放った銃弾の射線上に割り込んだ。

 参式の防御障壁展開は、間に合わない。


 黒の一号と参式が受けた弾丸は、凄まじい螺旋回転と共に、二人が構えた腕の追加外殻を射抜き、体内へと潜り込んだ。


「……ッ!」

「グッ……!」


 黒の一号は、参式と共に痛みに呻くのと同時に、全身に火傷のような灼熱感を覚える。


「Eg……!?」

「ふざけた真似を……!」

「ヒィハハハッ! 驚きましたかァ!? 今の俺にとっては、体内で調合を知っている薬物を生成する程度、造作もないんだヨォ!!」


 Egは本来、伍号タイプの装殼者が持つ『生体移植型補助頭脳(インナーベイル)』を人体に馴染ませるための融和薬を基礎として開発された、装殼過剰適合を引き起こす悪魔の薬物だ。


 装殼者に過剰適合し、霊号という魂なきままに制限を解除された装殼……流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)は装殼者の魂を喰らい尽くし、その暴虐極まる力を無尽蔵に周囲に撒き散らす化け物、寄生殼(パラベラム)と化すのだ。


「さぁ、どこまで抵抗出来るかなァ!?」


 策を成功させたシープが耳障りな声を上げるが、黒の一号は反応出来ない。

 暴走しつつある、自身の一号装殼の制御で手一杯の状態だった。


警告(ワーニング).出力制限推奨(リミット・レコン).実行(レディ)?………!』


 補助頭脳の音声にノイズが混じる。

 ハジメに対してゴウキは、補助頭脳を『もう一つの魂』と称した。


 成長した補助頭脳は、装殼侵食の影響を受けるのだ。

 このままでは不味いと、全身の痛みに耐えながら手段を模索する黒の一号の耳に。


『ーーーケイカ。Dgの生成を』


 冷静な弐号の声が、肆号装殼と化しているケイカに命じるのが聞こえた。


『Dg……?』

『ハジメとトーガが、Egを注入されたわ。処置しなさい。ジン。その間、私達で連中を抑えるわよ』


 訝しげなケイカに弐号が応えると、ケイカとジンが息を呑んだ。


出力解放(アビリティオーダー)ーーー《黒の禁則(ダウンブレイク)》」



 ニーナが、限界機動を抑える領域を戦場に展開し、同時に驚きを押さえつけたケイカと伍号が動く気配がした。


「《黄の雷撃(サンダー・ボルテクス)》!」

『ミツキ! 私を花立さんの元へ!』

『おぉ!』


 遠くから再びシープと白殼体が放った銃弾を、参式と黒の一号を庇うように立った伍号の雷撃陣が防ぐ。

 雷撃陣から逃れた黒殼体にブレード・スラスターによる追撃を仕掛けながら、肆号が未だ発動状態の雷撃陣の中に飛び込んだ。


『《紫の万化(カレイドスコープ)》!』


 ミツキがその卓越したエネルギー制御能力を駆使し、雷撃陣をいなしながら黒の一号らの居る安全領域に入り込む。


「ケイカさん! やれんのか!?」

『ジン、誰に向かって言ってるの!? 忘れてるんじゃないでしょうね。アヤと一緒に装殼解除薬を作ったのは、私とヤヨイさんよ! Dgの調合なんて、暗記するほど見たんだから!』


 その後、ケイカの指示に従って黒の一号と参式の肩に手を置いた肆号、ミツキが出力解放を宣言する。


「《青の分封(スウォーム・スウェア)》!」


 肆号装殼に取り込まれている『青蜂』の防御領域を、周囲に展開したミツキがケイカに問い掛ける。


「こっからどないすんねん!?」

『そのままスウェアを維持して! 私が領域内に満ちる霊子を、鎮静物質に変化させるわ!』

「むざむざやらせると……ギッ!?」


 雷撃陣が収まるのを待ってスウェアに攻撃しようとしたシープを、後方の弐号が放った数条のワイヤー・ブレードが阻害する。


「邪魔はさせないわよん。……ジン?」

「分かってるよ! 《黄の拳帯(ボルトナックル)》!」


 伍号が再び腕に雷撃を纏うと、弐号と共にシープらに応戦し始めた。


「ケイカ! どんくらい掛かるんや!?」

『すぐに終わらせるわよ! ハジメさんも、花立さんも、絶対に寄生殻なんかにさせないんだから! ―――出力変更オーダー!』


 ケイカの宣言と同時に、黒の一号の体を襲っていた灼熱感が軽減された。

 と同時に、何かが体内に染み込むような感覚を覚える。


『ハジメさん! 聞こえてますか!? 聞こえてるなら、リンクをお願いします!』


 ケイカの言葉に、黒の一号は食い縛っていた口を開こうとして、体を折った。

 【黒の装殻シェルベイル】の核たる存在は、黒の一号自身だ。

 コアリンク形成許可は、黒の一号以外の【黒の装殻】では出せないのだ。


 ―――痛み如きで阻まれる程、俺の、ゴウキさんの悲願は、……人類の命運は、軽くはない。


 体を折ったまま、黒の一号は微かに声を漏らした。


「……装殻心核ベイルド・コアーーー」

「ーーー共鳴励起ストリームレイド!!」


 声を正確に拾ったケイカが、即座に黒の一号と参式にコア・リンクを形成し、ポンプのように肆号コアから大量の変質させた霊子を送り出す。

 途端に痛みが鎮まり、同時に全身で勝手に蠢いていた流動形状記憶媒体が再び補助頭脳の支配下に置かれた。


装殻状態モード正常化セーフティ


 補助頭脳のクリアな声音を受けて、黒の一号は体を起こした。

 横で、参式も同じように体を起こし、首を鳴らす。


「……ケイカ。助かった」

「感謝する」

『当然の事をしただけです』


 参式は、黒の一号を見た。


「本条。落とし前は、付けるんだろう?」

「ああ。……邪悪は、滅ぼす」


 拳を握りしめた黒の一号と参式は、交戦する伍号と三体の襲来体目がけて駆け出した。

 

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