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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
3/58

第2節:弐号誕生


 かつて存在した、『飛来鉱石研究所(フラグメント・ ラボラトリィ)』第2支部を襲撃した黒の一号は。


 その、戦闘訓練所だった部屋で。


「終わりだ……出力解放(アビリティオーダー)

実行(レディ)


 コアからエネルギーを引き出して、拳に込めた。


「―――《黒の打撃(ナックルブレイク)》」


 彼は容赦無く目の前の装殻者に拳を撃ち放って、その胸板を貫く。


「ぐぁああ……!!」


 黒の一号が、断末魔の叫びを上げる装殻者から腕を引き抜いて飛び退くと、エネルギーが炸裂して装殻者が爆散した。


「お前の名は忘れない。……アンティノラNo.3、市東アズマ」


 殺した装殻者の名を呟き、研究施設の最奥へ向かおうとする黒の一号に。


「あらん。まさかNo.3が負けちゃうなんてねん」


 声を掛けながら姿を見せた、その黒い装殻者は。

 今倒したNo.3同様、彼自身に酷似していた。


 全体的に彼より細身で、体のラインは女性的な印象。

 左腕に、短いブレードを備えた追加装殻(アームドシェル)を付けている。


 全身を走るのは、鮮やかな出力供給線(ブルーライン)

 顔を覆うのは、一ツ目(モノクル)タイプの頭部外殻(フルフェイス)


 胸元には、『Ⅱ』の刻印。

 彼女が、アンティノラNo.2なのだろう。


 黒の一号は、その声に聞き覚えがあった。


「……ニーナ」

「そうよん。どう、驚いた? 時間が掛かったけど、あなたを再現出来たからねん」


 彼女は軽く言いながら、腰に左手を当てて右手を胸に這わせる。


「……何故」

「それは愚問よねん?」


 彼女は。

 軽く両腕を広げて、体に力を込め。




「私を捨てた愛しい人(モイ・リュビーモイ)に―――復讐する為よん!」




 アンティノラNo.2となった女性は、彼に向かって跳んだ。

 黒の一号は、放たれた蹴りを両手を交差して受ける。


 No.3よりも強烈な一撃に、彼の纏う外殻が軋んだ。


「……馬鹿な事を」

「そう思うなら、一緒に連れて行くべきだったわねん!」


 蹴り足をたわめて脚部スラスターを吹かし、宙返りして遠く離れる彼女に。

 ハジメは、即座に追撃を仕掛けた。


「あらん? 動揺もしないで素早い対応ねん?」


 弐号は空中で姿勢を整えると、腕のブレードを射出した。


「……敵になったなら、容赦はしない。例えお前が相手でも、だ」


 その一撃は、避けるまでもなく黒の一号の体を逸れて彼の後方へと飛び。


「出来るかしらん? それに、先に敵になったのはハジメでしょん?」


 黒の一号は、ブレードが細いワイヤーで弐号の腕と繋がっているのを見て、咄嗟に身を沈ませた。

 ブレードが、備えられたスラスターにより円の軌道を描いて、直前まで黒の一号の首があった空間を細いワイヤーで締め上げる。

 反応が一瞬でも遅れていれば、首を刈られるところだった。


「流石ねん! 一人でラボに逆らうだけの事はあるわん!」


 ブレードを回収しながら悠々と着地した彼女は、手を振り上げてから正面へ向ける。

 すると、部屋の中に仕掛けられていた設置型遠隔射撃兵器(コンパクトファランクス)が出現し、一斉に黒の一号へと射撃を開始した。


 その弾幕を躱しながら跳躍した黒の一号は、壁を蹴って弐号へと肉迫する。

 しかし。


「……!?」


 黒の一号の拳が、弐号の体をすり抜けた。

 弾幕に体を叩かれながら床を転がった黒の一号は、壁を背に、身を小さく屈めて周囲を伺う。


「やっぱり、弾丸くらいじゃ外殻を抜けないわねん」


 言いながら、弾幕の届かない部屋の角の空間を揺らがせて、弐号が姿を見せた。


「……光学迷彩か」

「そうよん。ホログラフと迷彩による隠密戦闘。単純なハジメには効果的でしょん!?」


 駆け出した弐号は体を横に振ると、二体に分身して左右に展開し、床をブレードの刃先で撫でながら黒の一号に迫る。


「熱源反応探知……」

実行(レディ).左方向(レフト)


 補助頭脳(サポーター)によって即座に本体を看破した黒の一号が、真正面から分身ではない方へ足を踏み出すと。

 その足元で、電磁地雷(スタン・マイン)が起動した。


 全身を走り抜ける高圧電流に、黒の一号の動きが止まり。


「顔がお留守よん☆」


 弐号の言葉と共に、膝蹴りが叩き込まれた。

 吹き飛んだ黒の一号に、分身が体当たりする。


 ホログラフ映像に実体はない、が。


 不意に掻き消えた映像に隠されていた極小誘導推進弾(フィンガーミサイル)が、黒の一号を直撃して爆発した。


「ぐぅ……!」

「これでもダメなのん? 呆れるくらい頑丈ねん」


 外殻が僅かに溶けている程度の損傷しかない黒の一号を見て、弐号は再び分身した。

 今度は、両方に熱源反応。


「熱源反応くらい、幾らでも騙す手段はあるのよん? ……もう少し、頭を使いなさい」

「―――出力解放(アビリティオーダー)

実行(レディ)


 迫り来る二体を見据えながら、エネルギーを拳に込めた黒の一号は。


「―――《黒の打撃(ナックルブレイク)》」


 大きく体を捻りながら、一纏めに分身と本体を薙ぎ払う軌道で拳を振り抜いた。


 手応えは、ない。


 どちらも分身―――そう気付いて踏み留まる黒の一号だったが。


「それじゃ遅いのよん」


 留まろうと踏み下ろした足の下に、地雷(マイン)が二つ、滑り込んだ。

 かちり、と音を立てて作動した地雷は。




 凄まじい噴煙を吹き出して、黒の一号の視界を塞いだ。




「ハジメ。先を読めない人間は、戦場では生き残れないわよん? じゃーねん♪」


 その段になって、ようやく。

黒の一号は、弐号の目的が最初から戦闘ではなく逃走にあったのだと気付く。


 噴煙が建物の強制排気装置によって晴れた後、そこには誰の姿もなかった。


 ―――この日から。

 自らを実験台とした、『人体改造計画』の主任責任者であり、彼の恋人でもあった女性は。

 彼と、同じ存在となった。


 その事実に関する、自身の心情を押し殺した黒の一号は。

 自分の足元に、目を向けた。



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