第28節:総力戦①
「ーーー《黒の銃撃》」
戦闘の狼煙は、黒の一号と弐号による弾幕射撃から始まった。
敵対する三体、シープ、黒殻体、白殻体が散開する。
本来的に補助型の性質を持つ黒の一号と、遠距離戦闘に特化した弐号の支援を受けた状態で、参式と肆号が各個撃破する。
それが以前、襲来体事件が起こった時にまだ四人しか存在しなかった《黒の装殻》が編み出した、鉄板のフォーメーションだった。
「ヒヒッ! 纏身!」
後ろに跳んだシープが悪魔の姿を模した外殻を纏い、広げた羽を触手と化して、黒の一号が放った直撃軌道の銃弾を叩き落とす。
「出力解放! 《悪魔の触手》!」
そのまま、ドリルのように回転する鋭い触手を長く伸ばして《黒の装殻》へ振り向けるシープに、黒の一号らは散開した。
参式がシープへ向かい、弐号が触手を複数射出したワイヤーブレードで切り裂いて二人を援護する。
伍号が白殻体、肆号が黒殻体の元へ。
そして二人の霊号、零式と零号が空へ飛んでアナザーへ一直線に向かった。
「―――時空改変」
アナザーが呟くと同時に時空震が起こり、アナザーを中心に空間が歪むと、二人の霊号とアナザー自身を取り込んで姿を消した。
「虚数空間の形成を関知したわん」
「……自ら消えてくれるなら好都合だ。時空改変でこちらの邪魔をされない」
「そうね」
黒の一号は、双銃を操って参式から逃げようとしたシープを牽制し、弐号へ言った。
コウとアイリ―――今にして思えば、全ての始まりだったフラスコル・シティであの二人と出会ったのは、行幸に思える。
出会った頃には考えられなかった。
あの二人なら、安心して全てを任せられる―――そう思えるようになるなどと。
「前衛三人は俺が援護する。準備を」
「任されて。さっさと終わらせましょう」
弐号の言葉に頷いて、黒の一号は援護に集中した。
※※※
「雷殻形成!」
『命令実行』
伍号は、通常形態でも本来ならば一号・参式の巨殻形態に匹敵する性能を持つ自身の装殻を、強大なコア出力にモノを言わせた強化形態へ移行する。
漆黒の外殻の上に縁取るように黄金の外殻が現出し、両手足の外殻が強固なナックルガードとレッグガードを纏った。
一本角の先端にある二股がさらに伸び、コーカサスオオカブトのようにさらに一対のツノが形成される。
「極限機動!」
そのまま、霊号以外には誰一人追従出来ない極限領域へと突入した伍号だが。
『極限模倣機動』
歪んだ補助頭脳の声音と共に、白殻体も極限機動を行なった。
「何!?」
「クク、今までは体の方がついて来なかったがな。忘れたのか? 私は元々『私』なのだ。時空改変を操る素地を持つ私に、これが出来ないと思ったか?」
白殻体は、嘲りの言葉と共に地面を蹴る。
「……なんてな」
だが、伍号は笑みを含んだ声でそう言うと、余裕を持って白殻体の安易な突撃からのグレイヴの刺突に捌きを合わせた。
そのまま伍号はグレイヴをへし折り、そのままスラスター全開で白殻体の顎へ向けて膝蹴りを放つ。
「……!」
「あいにくとな、シミュレーションは終わってるんだよ。ニーナ姉ぇの頭は、お前らよりよっぽど賢くてなぁ!!」
ニーナは、事前に知り得た襲来体の情報から、相手が取りうるありとあらゆる戦略・戦術の予測を立てていた。
その中に、相手が極限機動を行う可能性も含まれていたのだ。
「何で俺と肆号がシープじゃなくてお前らの相手だと思うんだ? お前らが装殻を複合させる可能性は、シープの存在が既に示していた……なら、極限機動に耐え得るコア・コピーがいりゃ、そりゃ俺かアイリの装殻コピーだよなぁ!?」
「グッ……」
先手を取られたと見せて強烈なカウンターを放った伍号に、吹き飛ばされながらもマント型に収納されたブレード・スラスターを飛ばす白殻体。
「《黄の雷鳴》!」
伍号は、両手から放った極太の雷砲によってブレード・スラスターを焼滅させながら白殻体に迫り、空中で横に回転しながら次の一撃を胸元に叩き込む。
「《黄の回脚》!」
「がぁああああッ! 鬱陶しい!」
胸元に蹴り落とされた極限の電撃を纏う蹴りに、白殻体は痺れによって動きを鈍らせるが、それで止まりはしない。
胸を蹴り砕かれながらも、白殻体が両手を薙いだ。
「《悪魔の爪》!」
周囲に残ったブレード・スラスターが全てを引き裂く超振動を纏い、伍号を襲う。
咄嗟に両腕でガードを固めた伍号の分厚い装甲に食い込むが、全身に纏う電熱によって溶かされたそれらは中の本体であるジンには届かなかった。
それでも、装殻自体は神経系と繋がっているために激痛がジンを襲う。
「ッテェなこのボケ!」
スラスターを吹かして無理やり姿勢を整えた伍号は、宙に寝そべるような姿勢の白殻体の上に片足で立つような姿勢になり、さらにエネルギーを足に注ぎ込む。
「《黄の蹴撃》ッ!!」
出力解放の連続励起、その最後の一撃は極限機動により霊子還元直前にまで存在を希薄にした白殻体の胸元に大穴を開け、同時に伍号の脚部外殻にも無数のヒビが走る。
「ぐぉおおお……!」
痛みに耐えながら、伍号は技を放ち切って地面に螺旋のクレーターを描きながら着地した。
『極限機動解除』
極限領域から脱した伍号の全身から冷却剤の白煙が吹き出し、周囲に広がる。
「ッ……貴様ァ……」
胸に大穴を開けながらもなお生きている白殻体が、ぐにゃりと体を歪ませた。
パイルの能力である液化によって、最後の《黄の蹴撃》の威力を
逃がしたのだ。
そのまま触手を翼に戻して、白殻体が建物の方へ後退しつつ両腕のガトリングガンを連射した。
「ッ待ちやがッ……」
それを防いでから、なおも白殻体を追おうとする伍号の眼前の地面に。
限界機動状態の肆号と黒殻体がもつれ合うように激突して、爆風で伍号を吹き飛ばした。
※※※
「出力解放!」
『承認!』
肆号装殻者であるミツキの声に、肆号装殻そのものである自身の肉体を制御するケイカが応え、紫の燐光が外殻を包み込む。
「ーーー《紫の万化》!」
解放されたコア・エネルギーはその大半を限界機動に注ぎ込まれ、肆号は長時間限界機動状態に突入した。
同じタイミングで、肆号が目指した黒殻体が言葉を呟く。
「《模倣万化》……」
『認証』
《黒の装殻》の装殻複合体である黒殻体は、肆号に最もよく似ていた。
「「強襲!」」
お互いに触手を伸ばし、絡め合い、空中でもつれ合うようにお互いの首を狙いながら上昇した二体は、不意に体を捻って近接戦闘を仕掛けた肆号が先手を取った。
両手の爪を伸ばして振るう肆号の攻撃を、腕に生えたヒレを伸長した黒殻体が防ぐ。
「……地撃!」
伍号と違い、そもそも素体から高速機動に特化した肆号は軽い。
絡めあった触手をさらに巻き合うようその場で縦に回転し、さらに黒殻体と密着した肆号は、巨大な黒殻体の太ももに立つように両足を付けて、その胸元にエネルギーを伴う両手の浸透頸を撃ち込んだ。
「……指向弾頭」
触手の絡み合いによって逃げれず、確実に内部を損傷しているはずの黒殻体は、痛みを感じない襲来体の特性故に冷静に次撃を放つ。
弐号の能力、最小旋回により背後から襲う追尾性極小ミサイルを、背後に長く背筋に並ぶヒレを爆発的に広げて伸ば事で、ケイカが防いだ。
『させないわよ! 風撃!」』
「……《雷の拳帯》」
お返しとばかりに、自身の操る触手を解きながらブレード・スラスターを放つケイカに、黒殻体は伍号の特性である雷撃を纏う拳で、それらを迎撃する。
「まだまだ行くで! 水撃ッ!」
少し距離を離して両腕を前に伸ばした肆号は、内部が脆くなっている筈の胸郭へ向けて両腕のガトリングガントレットから水流鞭を放つが。
「……《赤の連撃》」
参式の出力解放によって電熱に加えて炎熱を纏い、さらに熱量を増大した両腕で捌く事で、黒殻体は水流鞭を蒸発させる。
その間に加速して黒殻体の頭上に回り込んだ肆号は、踵のカットソーを伸ばして大上段から蹴りを降り下ろした。
「炎撃―――!」
「《黒の天蓋》」
宣言と同時に、黒殻体に迫る肆号の刃が炎を纏い、黒殻体が頭上で防壁を展開する。
炎の踵落としと防壁が相殺され、お互いに無防備になるが。
「オオオオオッ! ―――大針ッ!」
反発を殺さずに逆立ちするように蜻蛉を切った肆号は、そのまま右腕のスティングを展開して、大出力スラスターで黒殻体に突撃した。
その場に留まろうとスラスターで姿勢を制御していた黒殻体はそれに反応仕切れず、スティングが黒殻体の肩口を貫く。
そのまま重力とスラスターの出力に任せて黒殻体を地上まで押し込んだ肆号は。
勢いを殺さず、伍号の目の前の地面に自分の体ごと黒殻体を叩き付けた。




