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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
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第24節:復讐の女(前編)


 ジンが山の道で対峙したそのコア・コピーは、燃えるような炎色の装殻を身に纏っていた。

 伍号装殻によく似たそれを見て、ジンは自分の心が怒りに染まるのを自覚する。


「テメェ……ふざけた真似をしてくれるじゃねぇか……!」


 現れたコア・コピーが纏うのは、伍号A型(アナザータイプ)と呼ばれる装殻。

 彼の師であり、同時に《黒の装殻(シェルベイル)》の5番目を競い合った女性、森宮カオリが纏っていた装殻だった。


「黒の伍号……やはり入り込んだネズミどもは《黒の装殻(シェルベイル)》か」


 ジンのよく知る声で、A型コピーは言った。

 しかし声の響きは、彼の知る実直過ぎた彼女とは違う、悪意に歪んだもの。


「だったらどうだっつーんだ?」

「随分と疲弊しているようだ。好都合だな」


 A型コピーは、軽く足を広げた。


「嬲り殺してやろう。元々、私の擬態したコイツよりも、貴様の方が弱いのだろう?」

「言ってやがれ。たかが戦闘技術をコピーした位で……」


 ジンは山道を覆うひび割れたアスファルトを爆ぜさせながら跳び、自分からA型コピーに挑みかかった。


「あいつほどの強さが得られると思うなよ!?」

「貴様らの言動は、いつも理解に苦しむ」


 飛び込み様にフルスイングで叩き付けられたジンの拳を右足を跳ね上げて受けながら、A型コピーは嘲笑うように言葉を紡ぐ。


「戦いに、戦闘能力以外の何が必要だと言う?」


 雷と炎を周囲に撒き散らしながら離れたジンとA型コピーは激突し……ジンはスラスターを全開にして、無理やりその蹴りごとA型コピーを吹き飛ばした。


「やれやれ、乱暴だな」


 難なく着地したA型コピーは、地面を炸裂させた後にゆらりと立ち上がったジンを余裕の態度で見ていた。

 その態度に、さらにジンは苛立ちを強める。


「その様子では、限界機動もさほど長時間は継続出来ないだろう。勝ち目があると思っているのか?」

「勝ち目だぁ? 雑魚相手に、そんなモン考える必要がーーー」


 と、ジンが何かを言いかけたところで、不意にA型コピーが動いた。

 キキキン、と蹴りによって何かが弾かれて宙にきらめくものに目を凝らしたジンは、それがスラストナイフである事を見て取る。


「あの時も随分と虚勢を張る男だと思ったが、一目見てわかるくらい、貴様は成長がないな。真正面から力任せにぶつかるしか能がないのか」


 不意に、A型コピーとは違う声が間近で聞こえ、ジンはそちらを見た。


「いつの間、に……!?」


 そして、どうやら光学迷彩で自身を隠蔽(ハイド)していたらしいその装殻者を見て、ジンは言葉を失う。


「黒の一号か」

「いいや、違う」


 黒い装殻者は首を横に振った。

 両手に下げた短剣を逆手に持ち替えた装殻者は、ジンの横をすり抜けてA型コピーの前に出た。


「私は、アンティノラ(ナイン)……米国軍の装殻者だ」

「米国だと?」


 アンティノラⅨはA型コピーから目を離さないまま、ジンに言った。


「撤退の途中なのだろう? この場は私が引き受ける。さっさと下がれ」

「何故、お前が?」


 ジンが懐疑的な目を向けると、アンティノラⅨは肩を竦めた。


「我々が奴らの欺瞞に気付いていないとでも思っていたのか? 本国は既に『トリプルクローバー』側から現在の愛媛がどのような状況にあるか、情報を得て把握している」


 A型コピーは、未知の装殻者であるアンティノラⅨを少し警戒しているようで、動きを見せない。


「昔の遺恨にかまけて人類の脅威を見逃し、基地を奪われたまま反撃もしない筈がなかろう。本国の首脳部とて、そこまで矜持がない訳でも愚かな訳でもないという事だ」

「アンティノラⅨ……お前、一体何者だ?」


 ジンの問いかけに、アンティノラⅨは淡々と答えた。


「ただの人体改造型だ。それも最初期のな。……家出して遊び呆けているうちに、ラボに捕まった。ラボから逃げ出して米国に渡り、家庭を得て引退していたんだが、奴らに旦那を殺されてな」

「旦那?」

「米国軍愛媛駐留軍最高司令官、マーク・カーターは私の夫だ。馬鹿だが悪い奴じゃなかった。出来ればこの手でアナザーとやらを殺したかったが……あまり目立つと『会う』羽目になりかねん。今回はお前らに譲ってやるから、きっちり殺せ」


 どこかおかしげに顎を軽く引いてから、アンティノラⅨは腕を振った。


「いい加減、行け」

「だが」


 ジンは迷っていた。

 エネルギーの少ない状態で出来ることはあまりないが、それでも初期型装殻であるアンティノラⅨが、伍号タイプに対して一人で戦えるとは思えなかった。

 しかし、そんな心配は杞憂だとでも言いたげに、アンティノラⅨは語気を強めた。


「足手まといだと言っている。心配せずとも、負ける事はない。貴様に対峙した時と違い、私とて再改造を受けているのだ」

「……分かった」


 未熟だったとはいえ、当時最新鋭だったジンを圧倒した相手だ。

 ジンは任せることにした。


「だが、一つだけ教えて欲しい。あんたの名前は?」

「ハルカ・カーター」

「日本人か?」

「……旧姓は、鯉幟(こいのぼり)だ」

「何だと!?」


 それは、おやっさんの名字である。


「会いたくはないが、兄によろしく伝えてくれ」


 ジンの驚愕を打ち棄てるようにそう言い置いて、アンティノラⅨは地面を蹴った。







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