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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
24/58

第23節:装技研防衛戦(後編)


 ミカミは、ガンベイルからタコ足のように生えたグレイヴを、斜め下方へ向けて電磁加速で4本射出した。

 防御膜を解除して、サード・コピーとパイル・コピーが左右に跳ぶと、ミカミとケイタは、自然に二手に別れる。


 ミカミはグレイヴの射出方向によって相手が移動する方向を誘導していた。

 こちらのガンベイルは同一性能の万能型だが、向こうは近接型のサード・コピーがいる。


 距離を取っての戦闘は、連携を取られるより個別に相手をする方がこちらに有利、と考えての判断だった。

 サード・コピーを相手取ったのは、ミカミだ。


「遠距離は嫌ですよね~? でも、付き合って貰いますよぉ!」

 

 ミカミに接近しようとするサード・コピーに、先手を打つ。


出力解放(アビリティオーダー)―――《雨刃穿孔(アクアボーリング)》!」


 残ったグレイヴによる第2撃は、サード・コピーの避ける軌道に追従するように、空中で(ゲル)化して分裂した。

 襲い来る触手のような液化グレイヴを、サード・コピーはナイフとマシンガンで迎撃する。


磁力干渉(マグネバインド)!」


 迎撃の途中で、ミカミとケイタが戦場に広げたマグネボールの干渉によって動きを止められたサード・コピーは、銃弾とナイフによって飛び散ったゲル状のグレイヴがさらに細く鋭い形状となって四方から襲い来るのを避けれない。


出力解放(ミミックオーダー)……」

認証(インストール)


 だがサード・コピーは、再び防御膜を展開してグレイヴを凌いだ。


反発(リバウンド)!」


 ミカミは手を緩めず、さらに畳み掛けた。

 防御膜が消えるタイミングを見計らって、最初に射出して地面に突き立っていた4本のグレイヴにマグネボールで干渉し、相対距離固定機能によってさらに加速させながらサード・コピーを狙う。


 しかしサード・コピーは、順次襲い来るグレイヴを蹴り上げ、手甲でいなし、あるいは体を回転させながら肘鉄で弾いて全てを防ぎ切った。


「流石に手強いですねぇ……」


 そんなミカミの呟きに応えるかのように、シノから通信が入った。


「準備が出来たので、仕留めます。射線を塞がないよう待機を」

「え?」


 そんな言葉と同時に、ミカミの視覚にシノの攻撃範囲が表示された。

 発射予定地点に目を向けると、バックパックを腹の前へ展開して長大な砲身へと変えたサイクロプスが、地上で自らを台座とするそれの引き金に指を掛けるところだった。


「フルボディ・キャノン……発射(ファイア)


 先程のレーザーに数倍するエネルギー総量が計測され、ミカミの視界が、サード・コピーへ一直線に貫く光線の光に染まる。

 防御膜一瞬の攻撃に貫かれて、サード・コピーが跡形もなく消失した。


「任務完了……」


 シノの呟きと同時に、サイクロプスのエネルギーが底を尽き、シノの体を離れて人の腰丈ほどの黒い卵型の収納形態へと移行した。


「凄い威力ですねぇ」

「準備とチャージに時間が掛かるのが難点です。まだまだ改良の余地がありますね」


 『青蜂』に戻ったシノは、もう一つの戦場に目を向けた。


「さて、向こうはどうなったのでしょう?」


※※※


 ケイタが、襲来体にコピーされた自身の姿を見るのは、これで三度目だった。

 海洋生物か、あるいは水泳選手を連想させる、首から両肩に掛けてが滑らかな流線型のシルエット。

 両肩の近くに、空間固定されて浮いている二本の長大な電磁突殻槍(ヒートグレイヴ)

 頭部に装着された視覚強化兵装(グラスアイシステム)


 一度は負け、二度目は肆号と参式が連携して倒した。

 ケイタ自身は負けっぱなしのままだ。


 ガンベイルをタコのような海戦形態から、足に当たる突殻槍とレールガン部分を背中に3本畳み込み、1本を手に持って球体部分を半分に割り、その外側へ4本を空間固定した陸戦形態へと移行して、ケイタは地上へ降りた。


「クソコピー。感謝してやるよ。またその姿で目の前に現れた事をなぁ!」

「海野ケイタか……向こうでもこちらでも、貴様は良い働きをしてくれるよ。私に劣り、掌で踊らされてなお懲りない愚かさは賞賛に値する」


 パイル・コピーはケイタの軽口に答えながら自分のグレイヴを構えた。


「言ってやがれ! 今回はハンデなしだぜ!?」


 ケイタは、地面を蹴って突殻槍をしごき抜いた。

 パイル・コピーの顔を狙った一撃は横薙ぎのグレイヴに弾かれるが、弾かれた勢いのまま突殻槍を回転させて今度は柄尻をパイル・コピーの脇腹へと叩きつける。

 相手も同様に柄で連撃を受けると、反撃に転じてきた。


「射出」

限界機動(ブレイク・アップ)! 干渉!」


 右肩へ固定した相手のグレイヴが頭目掛けて飛んでくるのを、超加速状態へ移行する事で避けたケイタは、相手の脳天へ穂先を叩きつけた。

 しかし手応えが柔らかい。


 ぐにゃりと穂先を叩きつけられた部分からスライムのように歪み、パイル・コピーが形を崩していく。

 最初から液化していたのだろう。


「それは読んでるぜ!」


 ケイタは突殻槍の穂先に干渉して、既に電熱を纏わせていた。

 切り裂く先から、パイル・コピーの細胞を灼いていく。


反応機動(アップライド)


 相手も超加速状態に突入した時には、穂先はパイル・コピーを両断し、ある程度の損傷を与えていた。


「やるな。出力解放(ミミックオーダー)……」

認証(インストール)


 パイル・コピーがどろりと完璧に熔け崩れて、天に向かう螺旋柱を描きながら両断された体を一つに纏める。

 先に限界機動に突入しているケイタの超加速状態が解除されるのを待って、出力解放を叩き込むつもりなのだろう。


「―――磁力干渉(マグネバインド)


 ケイタは、パイル・コピーが完璧に読み通りの動きをした事に、内心ほくそ笑んだ。

 液化は、本当に水になる訳ではない。

 限界機動が装殻者を構成する霊子を加速する事で時間から切り離されたような動きを体現するのと同様に、装殻者の身体データを別の場所、補助頭脳内部などに保存した状態で霊子結合を緩める事で軟体となる技術だ。


 故に、元々の物体の性質が変わる訳ではなく、熱などによる攻撃を受ければ通常通り損傷するのだ。

 ケイタが周囲のマグネボールを操って発生させた磁界は、彼の狙い通りに液化したパイル・コピーの体を包み込み、球体と化して拘束した。


「〈轟水落天(スティールダイヴ)〉」


 限界機動を終える直前にパイル・コピーの声が響いたが、予想通りに球体になったパイル・コピーは磁界の影響から抜け出せず、出力解放は不発に終わった。


「馬鹿な、何故……!」

出力解放(アビリティオーダー)……」


 パイル・コピーの疑問に、ケイタは答えなかった。

 おそらく、何故自身を包み込む磁界を解除出来なかったのかが分からなかったのだろう。


 フリード・コントローラーは、自分自身が液化してる時には優先度の問題でそちらの制御以外を行わない。

 その間、マグネボールへの干渉は出来ないのだ。


 襲来体が振るうのは、所詮は借り物の力でしかない。

 そんな基本的な事も知らない事が、パイル・コピーの敗因だった。


「―――《対潜迫撃殻弾杭(ガンピアシングダイヴ)》」

射出(ファイア)


 ようやく磁界へ干渉して元の姿に戻ろうとするパイル・コピーへと、電磁加速により超高速で撃ち出されたケイタは。

 己の全てを一条の〝神威の槍〟と化して、パイル・コピーを撃ち貫いた。




「《白の装殻(クルセイダー)》の名の下に……悪に裁きの鉄槌を!」




 駆け抜け、残心するケイタの背後で、パイル・コピーが爆散して跡形もなく消滅する。

 ケイタは振り向いて、槍を持つのと逆の指で正十字(クロス)を宙に描いた。


「これで、借りは返したぜ?」

 


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