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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
22/58

第21節:装技研防衛戦(前編)

 ―――高知エリアにて。


 港から襲ってくる海洋型の襲来体を相手にしているのは、《白の装殻(クルセイダー)》の海戦型装殻である《パイル・イプシロン》を纏うケイタと《プロト・パイル》を纏うミカミだった。


『ケイタ! 追い込んだよぉ〜!』


 ミカミの言葉に、海の底で待機していたケイタが、ゴボリと空気を海中に吐き出して装殻エネルギーを解放した。


「任せろ。―――《対潜迫撃殻弾杭(ガンピアシングダイヴ)》」


 電磁装甲によって水中の摩擦を軽減したケイタは、自身を射出する電磁射出(レールガン)と、マグネボールと呼ばれる磁力引きつけを行う補助武装によって、水中を音速以上の速度で飛んだ。


 光の届かぬ暗闇も、海戦特化のケイタには無意味なものである。

 鮮明に目に映る襲来体の群れを、構えた電磁突殻槍(ヒートグレイヴ)によって全て貫き、四散させていく。


 今の彼は、水中行動用にスラスターを増強しスクリューを備えるガンベイルを纏っていた。

 ミカミも同様である。


 彼らのガンベイルは、遠目にはまるでタコのように見える球形を基本としたものだった。


「へっ! 〝神威の槍〟の主戦場で、てめぇら如きが相手になるかよ!」


 砂と化した襲来体にケイタが言葉を吐きかけると、ミカミが突っ込んだ。


『格好つけてないでぇ〜、次、行きますよぉ〜?』

「分かってるよ!」


 ケイタは気合が入っていた。

 かつての誤解が解けたとはいえ、利用されていた自分が恥知らずにミカミにやり直して欲しいと口にするのはプライドが許さず、ミカミとそのまま元の鞘に、とはいかなかったのだ。


 汚名を返上するまでは、元の関係に戻れない。

 この場で少しでも借金を返すために、いつも以上に張り切るケイタに、焦った通信が入った。

 通信の相手は、おやっさんだ。


『不味い、伏兵だ!』

「どこからだ!?」

『山の方だ! コア・コピーが確認出来た!』

「誰の真似をしてる!?」


 問いかけに続いたおやっさんの言葉に、ミカミとケイタは息を呑む事になった。


参式(ザ・サード)だ!』

「そいつぁまた……」

『装技研は、《黒の装殻(シェルベイル)》の本拠地だものねぇ〜……』

「すぐに救援に……」


 と、言いかけたケイタは、言葉を中断させた。


『どうした?』

「悪いが、そっちに行くのは遅くなりそうだ」

『どういう事だ?』

『こっちにも、コア・コピーが出たんですよぉ〜』


 ケイタとミカミの視線の先に、岩礁を超えて現れた装殻者は、ケイタらの見慣れたものだった。


「イプシロン……俺のニセモンを俺にぶつけるとは、ナメてんのか?」

『大阪ではやられたくせにぃ〜』

「ありゃダミーシステムを使ってたせいだろが! 今回はフル装備だぞ!」

『ケイタはそう言って、向こうでもアナザーに追い込まれたしぃ〜』

「グッ……」


 ケイタは呻いた。

 そのせいでミカミに苦労を背負わせた負い目があるため、強くは出れない。


『なんでも良いから、早くしてくれ!』


 おやっさんの怒鳴り声に、ケイタとミカミはそれぞれにグレイヴを構えた。

 相手のコア・コピーは1体だが、左右から海洋型の襲来体が石くれから姿を変えて湧き出す。


 こちらは、ミカミとケイタの二人。


「手間取るわけにゃいかねぇ」

『装技研を落とされたら、ケイカたちになんて言われるか分からないしねぇ〜』


 水中に浮かび上がるイプシロン・コピーと襲来体を見据えて、ケイタも高速で移動を始めた。


※※※


「あいつら、なんか(ボン)と同じ臭いがするな……」


 零式という御大層な存在になった、かつて共に働いた少女を思い出しながら、おやっさんは装技研の局長室で巨大なスクリーンを見る。


 そこにはマップが表示されており、現在の敵と味方の光点が映っていた。


 山側と港側からの挟み撃ち。


「ハジメに関わると相変わらずロクでもねぇ事にしかなんねぇ……」


 無表情に無茶をする旧友の顔を思い出しながら、おやっさんは矢継ぎ早に指示を出した。


「警備員を出来るだけ山側に集めろ! 籠城出来そうなら門を閉じるが、参式相手じゃ多分意味がねぇ! 最悪市街に戦場を移す! 民間人は避難……」


 と、そこまで言って、おやっさんはふと、不思議なものを地図上で捉えた。

 本土側の遥か上空……そこに、敵味方ではない第三の識別を持つ黄色い光点が十数機現れたのだ。


「ありゃなんだ?」

「映像を拡大します!」


 リアルタイム映像が画面の隅に映し出されて、光点だったものが拡大していく。

 それは輸送機だった。

 輸送機の脇にある刻印は、おやっさんには見慣れた司法局のマーク。


「司法局だと?」

「回線が繋がってます。回しますか?」

「ああ」


予想していなかった状況に、おやっさんは繋がった相手に早口に言葉を投げる。


「こちらはフラスコル・シティ捜査一般課員、鯉幟(こいのぼり)カツヤ。司法局輸送機が何故ここに?」

『私です、鯉幟さん』

「シノ!?」


 聞こえてきた声に、おやっさんは思わず素で叫んだ。


 空井シノ。

 空井カヤの双子の妹で、現フラスコル・シティ司法局長……かつての警視総監にあたる人物だ。


 予想外の大物だが、おやっさんと彼女は旧知だった。

 カヤ同様、彼女はかつて【黒の兵士(シェルアシスト)】であり、共に襲来体と戦った同志だ。


『首相より、指定危険生物特例法が発令されました。要請を受けて、旧高知・香川・徳島の3エリアで民間人救助の為に政府軍及び司法局が出動。私が率いているのは、フラスコル・シティ司法局特務課、及び有志による混成部隊です』


 シノが言った途端、輸送機の下部が開いて次々と装殻者が吐き出されて来た。

 白い捌式と、色とりどりの装殻者たち。

 新型から旧式まで、本当の混成部隊だ。


『山側のサード・コピーはこちらで引き受けます。警備の方々は装技研を固めさせて下さい。こちらの装殻者データを送りますので、識別確認を』

「おう! ……って、シノ、お前これ……」


 送信されてきた一覧データを見て、おやっさんは唖然とし、次に目頭が熱くなった。

 そんなおやっさんの様子を見透かしたかのように、シノは笑みを含んだ声音で答える。


『気付きましたか?』

「分からねぇ訳……ねぇだろうが! あいつら……!」


 並んでいる有志の名前の大半は、大阪隕石のあるLタウンや、おやっさんが、かつて共に司法局に入った者たち。

 マザー相手に、第一次襲来体殲滅戦を生き残った【黒の兵士(シェルアシスト)】のメンバーだった。

 



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