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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
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第20節:VSテータ・コピー(後編)


 実際、カヤの強さはリリスにも予想外だった。


 以前の『日米装殻争乱』の折にはまた初期型の装殻しか実装されておらず、《白の装殻》や《黒の装殻》とはやりあえなかった彼女は、ずっと参式(ザ・サード)の後ろで指揮を執っていた。

 もし彼女があの時に『青蜂』や捌式の部隊を最前線で率いていたら、リリスとミカミを欠いた《白の装殻》と米国は、政治的判断による停戦協定締結まで保たなかったかも知れない。


 そんなリリスの思索は、ルナの声で中断した。


「やるわよ、リリス! ブレード・ スラスター!」


 ルナの声に合わせて、リリスも自身のブレード・スラスターを射出する。

 カヤとミチナリにフェザー・スラスターを差し向けしようとしていたテータ・コピーが、飛来するブレード・スラスターを見てそちらに狙いを変えた。


 無数の遠隔機動兵器が飛び回る空中の戦場から離脱したテータ・コピーに、HBスラスターによって宙に跳ねたカヤが、八艘構えからの突きを放つ。

 それを右腕の光刃で弾くテータ・コピーに、カヤは話し掛けた。


「ハハハハハッ! 飛べるというのは気分が良いな!」

「小癪な……!」


 同じ条件であれば、彼女は下手をするとミチナリにすら勝てるかも知れない。

 ぞう思わせるほどの猛攻で、カヤはテータ・コピーと渡り合っていた。


 そのミチナリは、両刃を構えて旋回し始めるテータ・コピーと刃を交え始めたカヤを見て、突撃槍を構える。


「出し惜しみはなしだ。突撃形態!」

承認(レディ)


 ミチナリのガンベイルが変形し、槍を中心にエータ装殻の体の前面を覆う大型スラスター四機を備えた巨大な傘と化す。


出力解放(アビリティオーダー)―――《特攻槍撃(ナガクラ)》!」

限界機動(ブレイク・アップ)


 一瞬にして地上からせめぎ合うカヤらの位置まで到達するミチナリに、まるで見えているかのような

完璧なタイミングで身を翻したカヤの脇から、ミチナリの一撃がテータ・コピーに迫る。

 

()った!」

「甘い!」

反応機動(アップライド)


 カヤに答えるテータ・コピーの声と同時に、補助頭脳がテータ・コピーを限界機動状態へと移行する。

 ミチナリとテータ・コピーが瞬時に交錯して離れると、限界機動を解除した。


 弾け飛んだテータと、ガンベイルの傘の一部を破壊されたミチナリを、リリスの目が捉える。


「相打ち……?」


 肩口が吹き飛んだテータ・コピーと、推力を失って空中を滑落するミチナリ。

 その間に、さらに頭上に移動していたカヤが。


限界機動(ブレイク・アップ)!」


 時間差で限界機動に突入して、次の瞬間には地上に居た。

 キキキキキンッ! と、幾重にも重なった剣閃の音と共に、テータ・コピーの翼と両手足が切り刻まれて地上に落ちるより前に、砂と化して崩れ落ちる。


「がぁアアア……ナメるなよゴミどもがァ!!」


 質量を失った体を即座に変化させたテータ・コピーは、下半身を犠牲に腕と翼を復活させる。

 その鬼気迫る形相は醜悪で、最早ニヒルにもアイリにも見えなかった。


「《光輪乱舞(フラッシュニードル)》!」


 頭上で輪になっていたフェザー・スラスターが炸裂し、無数の光針となって全方位にばら撒かれる。


「くっ……!」

「ぐぬ……!」


 再度テータ・コピーに肉薄しようとしていたカヤとミチナリは、流石に避けきれなかった。

 カヤは先ほどのテータ・コピー同様に背を向けてスラスターを犠牲になんとか光針を防ぎ、ミチナリは完全にガンベイルを破壊される。


 その間にリリスは、フェザー・スラスターの群れを駆逐したブレード・スラスターと、残りのブレード・スラスターでテータ・コピーに止めを刺そうと手を掲げた。

 横のルナも、全く同じ動きで手を構えている。


「「出力解放(アビリティオーダー)! ―――《嵐撃結界(フェアリィ・ダンス)》!!」」

 ブレード・スラスターが宙を駆けてありとあらゆる方向からテータ・コピーを襲うが、両腕の刃を十字に構えて全力で飛ぶ襲来体の動きは速すぎた。

 ほとんどのブレード・スラスターはテータ・コピーの動きに対して僅かに遅く、敵の抜けた空間を空しく貫くに留まり。


「オオオオオッ! 執行(エクスキューション)!」


 正面から迫る事で追い付いたブレード・スラスターはテータ・コピーの動きを鈍らせはしたものの、頭部と融合したフェザー・スラスターを触手のように伸ばした刃で薙ぎ払われていく。


出力解放(アビリティオーダー)……」


 カヤが静かに、逃げもせずに最速の動きで上段の構えを取った。

 墜落したカヤを引き裂かんと迫るテータ・コピーの腰を、ミチナリの突撃槍が金属と肉を貫く鈍い音と共に捉えたが、それでもテータ・コピーは止まらない。


「貴様だけでもおおおおおおッ!!」


 絶叫するテータ・コピーを見据えるカヤの手の中で、さらに大太刀の刀身が巨大化・長大化し。




「―――《雲耀(ウンヨウ)》」




 静かに振り下ろされたカヤの大太刀は。

 十字に構えられた刃ごとテータ・コピーを真っ二つに切り裂いた。


 自身の勢いで二枚に下ろされたテータ・コピーが廃ビルの壁に激突し、無数にひび割れて砕け散る。

 カヤは、大太刀を振り下ろした後の残身を解いて、元の長さに戻った刃を横に払った。


「我に、断てぬ物無し……」


 鮮やかに陽の光を照り返す刀身と、背部スラスターがズタズタに傷ついた『青蜂』の装殻者は、見事な程に不遜な雰囲気を保ったまま戦闘を終えた。


「たかが鋼鉄の塊が……強化されているとはいえ、何故、私を断てる……」


 残った頭の半分で、崩れかけたテータ・コピーが

疑問を口にした。


「この太刀には、スミレさんの、トウガさんの、そして私の想いが込められている。……貴様ごときの刃で、阻める訳がない」

「理解……出来ん……」


 テータ・コピーが完全に崩れ落ちる。


「思ったより苦戦したな。雑魚の方は残りの連中で潰せたようだ。一度、部隊を再編する」

「それは良いけど……」

「この場に残るのか?」


 ルナとミチナリの問い掛けに、カヤはうなずいた。


「それがトウガさんの頼みだ。あの人も心配性だと思っていたが、この状況を見れば正しい判断だと思えるよ」


 カヤは自分と同じようにボロボロのミチナリと、エネルギー切れが近いリリスらを見て苦笑した。


「……あのクソ女で、同じレベルの存在に対抗出来ればいいが」


 カヤのよく意味が分からない独白に、リリスは首を傾げた。 

 

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