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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
16/58

第15節:よく似た二人

「―――《黒の連撃(アバランチブレイク)》」

限界機動開始(ブレイク・アップ)……連続励起(ストリーク)


 ジンか叫ぶのと同時に、黒の一号も自身の取りうる最大の対抗手段を使用していた。

 重力場形成(グラビティバインド)は使えない……黒の一号自身の行動が制限されるあの技は、手の内がバレていない相手へ、使う余裕がある場合にのみ使用可能なものだ。


 ジンの極限機動は、超加速による知覚の中でなお速い。

 黒の一号自身では追いきれないジンの動きを、しかしゴウキによって力を与えられた彼の補助頭脳は捉えていた。


『3』


 補助頭脳のカウントダウンが始まると同時に。


 補助頭脳による自動行動(オートモーション)を開始した黒の一号の両手が銃を握り、自身の周囲を覆うように回転しながら銃弾を撒く。

 極限機動状態では、自身の速度によって銃弾に触れるだけでダメージを負う。


変更(メイキング)


 彼に一撃を叩き込もうと動いている筈のジンの進路を制限した補助頭脳は、来る方角を予測しながら流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)化した双頭の銃を、二本の斬殻大剣に変化させた。


『2』


 最適化された動きで最速の軌道で描く刃先を、予測されるジンの進路に突き込むと、片方の大剣が手の中からもぎ取られて消える。


『1』


 補助頭脳は、両腕に込めていた、ブーストコアによって増大したエネルギーの片方、大剣が弾かれた方の腕で即座に炸裂させた。


 《黒の突撃(チャージブレイク)》と同等のエネルギーが空中で炸裂するが、手応えはない。

 しかし殺気立った気配は知覚していた黒の一号は、その気配が消えたのを感じていた。


 だが、そこまでだった。

 今度は逆側に出現した気配が、大剣を握った黒の一号の腕の下から迫るのを感じる。


 ―――やはり、花立のようにはいかんな。


 黒の一号は、自分の実力をジンが超えた事を知り、不甲斐なさと感慨深さの両方を覚えていた。

 だが、負けるつもりはない。


 全てを受け入れてなお、黒の一号は信じていた。

 ゴウキに託された自身の使命と、今まで共に戦ってきた補助頭脳を。


 そして、ジンの拳を感じるよりも先に。


0(バースト)


 補助頭脳は、黒の一号から巨殻(ギガンテス)をパージした。


※※※


『リミッター解除を許可してくれ、花立さん』


 常には見せない暗い目をしたジンに、花立は断る術を持たなかった。

 何故このタイミングで、とは思ったが。


 『信』の装殻者、茂見ジンは本来こんな目をした青年だった、と花立は過去を思い返す。

 彼が明るくなったのは……そう振る舞うようになったのは、いつだっただろうか。


 日米装殻争乱の折には、まだ彼は荒んだ目をした若者だった。

 ジンは、最初から皆に認められていた訳ではなかった。


 事あるごとにケイカとぶつかり、ハジメに突っかかり、花立やニーナを拒絶する彼は、むしろ花立やハジメ以上の、問題児の筆頭だった。

 実力が遠く他の《黒の装殻(シェルベイル)》に及ばない事を、彼は自覚していた。


 だからこそさらに荒れていたのだろうが、最初は大した事がなかった実力を血の滲むような努力で補ったジンは、徐々に周囲に認められ。

 情報部長に就任した辺りには、既に今のジンだったように思う。


 近くで話を聞いていたニーナは、ジンを支持した。

 彼女の考えている事も、花立にはよく分からない。


 だが、ニーナもいつものちゃらけた顔ではなく『知』の弐号としての顔を見せていた事もあって、花立は鍵の解除を許可した。


「どうなった?」

「ハジメさんが……」


 零号として覚醒したコウには、今の攻防が見えていたようだ。

 改めて零号という存在の桁外れぶりを認識しながら、花立は砂煙の舞う戦場に目を凝らす。


 ジンと黒の一号は、共に満身創痍だった。

 片腕をだらりと下げたジンと、胸郭が大きく陥没し、そこから蜂の巣状にヒビの入った黒の一号。


 黒の一号は、巨殻形態(フルメタルジャケット)から突撃形態(チャージモード)に変わっている。

 ジンも、エネルギーが尽きたのか雷殻(ボルトアップ)が解除されていた。


「そろそろ決着ね」


 ニーナが空を見上げながら言い、コウは彼女に噛み付いた。


「止めなくて良いんですか!? もう十分でしょう!?」


 同じ気持ちの花立も、無言でニーナを見る。

 彼女は首を横に振ると、二人に対して告げた。


「あの二人を止めるのは、私たちの役目じゃないのよ」


 ニーナの言葉と同時に。

 無事な右腕に雷撃を纏わせたジンと、拳を灼熱させた黒の一号が、同時に地面を蹴った。


※※※


「……どうあっても、手が鈍るか。ジン」


 最後の瞬間。

 パージされた巨殻をクッションに攻撃の威力を殺されたジンは、黒の一号の言葉を鼻で笑った。


「いいや。手加減なんか一切しちゃいねぇ。あんたこそ、極限機動についてきたあの裏技はなんだ? 全く目で追えてなかったくせによ」

「俺は、一人で戦っている訳ではない。……いつだって、誰かの手を借りなければここまで来ることは出来なかった」


 黒の一号が拳を構えると、外殻がパラパラと落ちた。

 ジンは自分の視界の隅に表示されているエネルギー残量を見る。


 とっくにレッドラインを割り、残されたエネルギーはおそらく、出力解放あと一度。


「あんたに、そんな弱気な言葉は似合わねぇ」

「弱気?」


 黒の一号は、微かに笑ったようだった。


「共に在る事で強く在れる。これは、そういう話だ、ジン」


 ジンも、無事な腕で拳を構えた。


「そうかい。―――俺には、もうそれを望むことは出来ねぇな」


 この戦闘は、自分が大切に想う者たちに対する裏切りだ。

 しかし、黒の一号は首を横に振った。


「お前は、俺に良く似ている。そして俺よりよほど仲間思いだ。……だからこそ、俺はお前を伍号に選んだ」

「俺とあんたが似てるって? タチの悪い冗談だ」


 一体、どこが似ているというのか。


 片や世界の命運とやらを決する事を、自ら選び取り立つ男。

 片や己の我儘の為だけに世界の命運を捨て去ろうとしている自分だ。


「お前は弱い。そして俺も。一つだけ違いがあるとするなら、俺は、自分が愛する者ですら、目的の為なら屠ろうとする屑だ、という部分だろう。ーーー出力解放(アビリティオーダー)

実行(レディ)

「はっ。馬鹿馬鹿しい。それなら俺は、自分の気持ちだけを大切にして世界を見捨てる屑だ。俺の方がスケールがデカい。……出力解放(アビリティオーダー)!」

命令実行(ゲットレディ)


 雷撃と灼熱。

 それぞれに破壊の力を秘めたエネルギーが拳に収束する。


「愛する者のために、俺に牙を剥いたんだろう? 正義の二文字は、お前にこそ相応しい」

「そんな称号はいらねぇな。俺は、怒りのままに暴れ狂う修羅で……十分だ!」


 ジンは、静かに地面を蹴った。

 そして、黒の一号もまた。


「《黄の雷拳(ボルトブレイク)》!」

「―――《黒の拳打(ナックルブレイク)》」


 真っ直ぐ、まるで相似形のように、ジンと黒の一号は拳を突き出し。




 その両拳は、衝突する前に間に舞い降りた誰かの剣に受け止められ、不発のまま止まった。




「―――全く」


 呟いたのは、どこか呆れた色を含み、快活な響きを帯びた声。

 優美な鎧の天使に似た外殻を纏う彼女は。


「一体、何をしてるのさ? ジン。黒の一号も」

「……アイリ」

強制解殻(シェルオーバー)


 ジンが彼女の呼びかけに答えると同時に、エネルギーを使い切った二人の装殻が全く同時に解除された。


「どういう事なのか。きちんと説明してくれるよね?」


 二人が元に戻ったのを見て、解殻したアイリの睨むような目に。

 ジンは、天を仰いで右手で自分の顔を覆った。

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