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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
15/58

第14節:黒の一号VS黒の伍号


 ジンは、左半身を前に出した姿勢で、黒の一号へと突撃した。

 先制打は左から捻り込むように放つ、雷電を纏ったミドルフックだ。


 黒の一号は、そのフックを脇を締めた左腕で受けた。

 二人の外殻が接触して火花を散らす。


 続いてジンはコンパクトな右のローキックを黒の一号へと放った。

 その蹴りも、わずかに曲げた膝を上げた黒の一号に弾かれると、即座に足を引いたジンは、足を降ろさないままスラスターによるスウェイバックと同時に右中段の前蹴りに切り替える。


 黒の一号は左の手甲でそれを受けた。

 後退したジンに対して、黒の一号はスラスターを爆轟させてジンを押し倒そうと前に出るが、それよりさらに早く足を引いたジンは、膝を曲げて全力で前へ跳躍する。


 ジンの下段中段から繋がる三連脚は、その三段目の飛び膝蹴りで前へ出た黒の一号の額を捉えた。

 しかし同時に、黒の一号の掌底がジンの胸を打ち、二人の距離が離れる。


出力解放(アビリティオーダー)―――」

命令実行(ゲットレディ)


 ジンは、胸を打たれながらも止まらなかった。

 後ろに弾かれる程の衝撃を体に受けたジンは、駒のようにスピンターンして横への機動力に変化させると、勢いを殺さないまま黒の一号に肉迫して右の回し蹴りを放つ。


「《黄の回脚(ライトニングスパイラル)》!」


 そんな、触れるだけで焦失する威力を秘めたジンの蹴りを。


「―――限界機動(ブレイクアップ)

実行(レディ)


 黒の一号は、超加速によってジンの視界から掻き消えたと感じる速さで姿を消して回避した。


反応機動(アップライド)


 規定領域内で発動した限界機動に反応し、補助頭脳がジン自身も超加速領域へと導いた。

 同時に頭上から振り落とされた踵落としを知覚し、ジンは咄嗟に両腕を交差させて受ける。


「ぐぅ……!」


 巨殻(ギガンテス)によって重量を増した黒の一号の攻撃を、ジンは膝を曲げて地面に足をめり込ませながら耐えた。

 が、続く相手の逆脚による二段目の踵落としが、ジンの肩に炸裂する。


 勢いで体勢を崩したジンは、それでも両腕で頭上の足を弾いた。

 肩に掛かった黒の一号の足を巻き込んで、倒れながら投げを打つ。


 足を引き込まれた黒の一号はスラスターで勢いを殺しながら体を捻り、地面に両手をついた姿勢から蟹挟みのようにジンの首を両足で挟んで締め上げた。


 ジンと黒の一号が超加速状態から離脱する。

 同時に、ジンは次の攻撃を放った。


連続励起(ストリーク)―――《黄の雷撃(サンダーボルテクス)》……!」


 全方位型の雷撃陣。

 しかし出力解放に関するジンの手の内など最初から割れており、黒の一号は彼の首を挟んだまま両手を屈伸させて体を跳ね上げると、ジンの頭を包むように体を丸めた。


 雷撃陣はジン自身を打たないよう、ある程度体から離れた位置でエネルギーを雷撃に転化させる。


 黒の一号は、それを把握していて当然なのだ。

 ジンの伍号装殻は、黒の一号自身の手によって作られたものなのだから。


 だが、雷撃陣は発動せず、黒の一号が息を呑んだ。


「―――!?」


 フェイクだ。

 相手に、伍号装殻の性能が把握されているからこそ……。


「《黄の掌撃(スタンハンド)》……!」


 ジンは黒の一号を殺す為に、彼の想像を超えなければならない。

 雷撃陣の代わりに放ったその技は、両手から自然に発する雷電を掌へと収束させて叩き込む、ジンがコウの雷撃形態(ショックスタイル)を参考に練り上げた技だ。


「ーーーッ」


 頭を包む黒の一号の体を掴んで雷撃を注ぎ込むと、流石にダメージが通ったようで彼は呻きを上げた。

 緩んだ黒の一号の足の間から無理やり首を引き抜き、ジンは黒の一号の首を掴み、股の間に腕を通してジャックナイフ機動で体を起こした。


「オオォ―――!」


 黒の一号を肩に担ぎ上げてホールドしたまま、宙に跳ねてムーンサルトを決めたジンは。


「《黄の墜撃(ライトニングフォール)》!」


 今度こそ出力解放を発動させて、切り揉み回転で黒の一号による反撃を押さえ付けたまま、地面と自身で彼を押し潰そうとしたが。


「―――《黒の突撃(チャージブレイク)》」


 身動き出来ないはずの黒の一号は、あろうことか出力解放による大型スラスターによる突進力をそのままジンの螺旋機動を阻害する推進力へ変えた。


 ジンが黒の一号を押さえる腕が引き剥がされて嫌な音を立てると、お互いに掛かっていた慣性と遠心力の暴威が牙を剥いた。


 方向の違う二種類のベクトルによる圧が外殻を軋ませながら違う方向にジンと黒の一号を空中で弾き飛ばし。

 ジンは装技研のグラウンドを覆う壁にめり込み、黒の一号は斜めに地面に叩き付けられて跳ねる。


 視界を真っ赤に染めるような焼けつく痛みと耳鳴りがジンを襲うが、ジンは奥歯を噛み締めて体を起こした。

 ガラガラと崩れる元は壁だったガレキが壁の中腹から眼下に落ちていく。


「ッどこに……」


 視線を黒の一号が跳ねた方へ向けるが、姿は見えない。


反応機動(アップライド)


 補助頭脳による、再度の超加速によって、ジンは黒の一号が行なった行動を把握する。

 ジン同様、黒の一号も止まらない。


 次から次へと、ジンを殺す為に手を打って来ていた。

 後手に回ればやられる。


帯電(ラーヴァボルト)!」


 壁から前へと跳んだジンは体を丸めて全身に雷電を纏った。

 擬似的な自動反撃状態。


 直接触れれば、雷の繭によって敵自身もダメージを負うがジン自身も動けない。

 外殻に小さな何かが触れては音を立てて弾かれる感覚があった。


 おそらくは銃弾。

 黒の一号が、双頭銃による銃撃を行なっているのだろう。


 弾丸の当たる方向から彼の居場所を察知したジンは、着地と同時に自動反撃と限界機動を解除して足を踏み出そうとしたところで。


 時間差でさらに襲いかかって来た散弾を受けて、横に転がった。


「ぐぅ……!!」


 限界機動から先に離脱した黒の一号が、ジンの着地点を予想して放ったものだろう。

 見ると、度重なる衝撃により無数のヒビが入っていた肩の外殻の一部を、散弾が砕いていた。


 顔を上げると、目の前に銃を仕舞って、代わりに斬殻大剣(ベイルドクレイモア)を肩に担いだ黒の一号が迫っている。


「ッッ!!」


 振り下ろされた大剣を角で受けながら首を捻ると、折れ砕けたツノと絡め取った大剣が宙に舞った。


「ガァあッ!!」


 最早なりふり構わず、黒の一号を下から突き上げるように両腕を構えてタックルするジンに対し。

 黒の一号は後ろに下がりながら、肩から引き抜き様に投げ打ったスラスト・ナイフで牽制した。


 外殻の表面に突き刺さるスラストナイフによって緩められた突進力を、背面に向く全てのスラスターを全力噴射する事で補いながら、ジンは迫る。


 ―――ハジメさん、俺は。


 胸を焼き焦がす怒りと共に、ナマズとアイリの顔がジンの脳裏に浮かぶ。


 ―――俺は、あんたを。


 彼をドン底から拾い上げた、黒い装殻者。

 親友を殺し、自分の命と仲間を見捨てる選択をした【黒殻】の総帥。


 そして、常に人に責任を押し付ける事なく最前線に立ち続けた、名誉なき英雄。




 ―――もう、憎み続けたくないんだ……!!




 律に背き、権を拒み。

 己の力を以て、邪悪を滅ぼし続ける修羅。


 対等に渡り合っていると言うには、あまりにも無様な自分と。

 ジンの憎しみすらも含む全てを受け入れ、それでもなお進み続けようとする男の間にある、その深く暗い溝の名前は。


 憧れ。


 追い続ける者は、追う者の背中を超えられない。

 超えられないと、自身に枷を掛け。

 超えたくないと、心のどこかで思ってしまう。


 ―――俺は強くなった。


 力を与えられただけの凡人だと。


 ―――ハジメさん、あんたを殺せるだけの力を得た。


 一生、他の《黒の装殻(シェルベイル)》と肩を並べるような存在にはなれないと。


 ―――こんな俺でも、誰かの役に立てるんだと。


 己に掛けた枷を、ジンは解き放つ。


 ―――そう、信じ続けていたかった!


 与えられた真の役割を、一生果たさないままでいたかったと。

 心で叫びながら、ジンは、黒の一号を殺す最後の言葉を口にした。


「―――極限機動(アクセルブレイクアップ)!!」


 ジンの主観の中で。

 時が、止まった。

 

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