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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
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第9節:喰らいあう世界


「あれ、何すか?」


 装技研に港から運び込まれている黒い円柱を三階の窓から見下ろすコウの横で、ミツキが言った。

 円柱は幅30センチ、長さ1.5メートルほどものを10本束にして括られている。


 それが、トラックに満載で10台分。

 結構な数だ。


 ハジメも、同じように円柱を見ながら答えた。


「あれは、原型装殻……0号装殻や、グラビティ・コアと完全に馴染んだ俺の装殻の欠片を培養して、作り出したものだ」

「へー。追加装殻(アームドシェル)かなんかっすか?」


 言われてみれば、武器のように見えなくもない、が、否定したのはハジメではなく、彼に寄り添うように立つニーナだった。


「もっと物騒なものよねん? ハジメ」

「お前に合わせて調整してある。……お前以外には扱えない、という方が正しいか」

「んふふー。期待されると燃えるわねん!」

「いや、結局何なんすか?」

「対襲来体(イミテイト)の秘密兵器よん」

「微妙に答えになってませんね」

「あらん、コウくん、中々鋭いツッコミねん」


 ニーナはウィンクし、後ろのドアから入って来た花立とジン、ケイカ、そしてアイリを振り向いた。


「お出ましねん」

「荷下ろしは、二時間後には終わる予定です」


 装技研の所長であるケイカの言葉に、ハジメはうなずいた。


「到着が間に合ったか」

「あれの設置を、【アパッチ】とPL社に頼むんすよね? 振り分けは?」


 幹部ではあるが常任ではない花立と違い、【黒殻】の情報部長であるジンは仕事モードに入っている。


 【アパッチ】やPL社は、それぞれ旧香川、旧徳島を拠点としている組織だ。

 今回の作戦の肝である、敵の手中にある愛媛以外のエリアラインの防衛は、本来なら国家規模の軍事力が必要な作戦である。


 しかし日本の一組織であり、世間的に悪の組織とされる【黒殻(アンチボディ)】にそんな軍事力はない。

 その為、他の組織や企業の戦力・労働力の提供を【黒殻】は早急に得る必要があった。


 【アパッチ】には戦力を期待できないが、労働力はある。

 物資の提供と引き換えに彼らの協力を取り付け。


 PL社とは、共通の目的である襲来体殲滅の為に停戦した。


「あれを前線に配置し、最初の進行に備える。設置の際には必ず襲来体を複数駆除出来る戦闘員を配置してくれ。出来れば、《黒の装殻(われわれ)》か《白の装殻(かれら)》が付く事が望ましいが」


 質問するジンにを返すハジメに、花立が訊く。


「本条。あれに本当に害はないのか?」

「どういう意味?」


 花立の言葉に反応したのはアイリだった。


「以前、あれのプロトタイプが起動するのを見た。……正直、あれだけの数があるのを見ると不安になる」


 そんな花立に、ハジメは淡々と答えを口にする。


「あれは起動していない状態では完全に無害だ。また装殻者とリンクしていない状態で稼働するものでもない。以前も説明したが、襲来体と同様の霊子パターンを持つ者たち以外には無意味なものだ」

「で、だから、結局あれはなんなんすか!?」

「天丼は三回までが面白いのよねん、ミッツん」

「いや、ボケツッコミしてんちゃうねんて!」


 焦れるミツキが語気を強めると、ニーナは楽しそうにさらにからかう。

 そんなニーナに溜め息を吐いた花立は、ミツキに言った。


「ミツキ。あれはお前も、存在だけは知っている。エリア0(オー)襲来体母体(マザー)を封印していたのと同質の装置だ」

「そうなんすか?」

「そうよん。あれはね……」


 ニーナが一瞬詰まらなそうな顔をした後、勿体つけるように言葉を切り、答えを口にした。


「襲来体捕食システムよん」

「捕食……?」


 どこか禍々しさを感じる響きに、コウは思わずそう呟いていた。


※※※


 ナマズとのやり取りの数日後。

 ジンはヤガミの元へ訪れたが、残念ながらモノは買われた後だった。


「買ったの、どんな奴だ?」

「黒づくめの若い男だったよ。何だジン、あれ、お前のか?」


 ジンが首を横に振ると、露天商のヤガミは誰かに気付いて腕を上げた。


「うっ」

「ああ、今日はここなのかい? 精が出るね」

「売らなきゃ食えねぇからな」


 ヤガミに相手が答えて、ジンが振り向くと、そこに異様な風体をした車椅子の不良装殻者(ベイルダー)が居た。

 頭部は口元以外が完全に装殻に覆われ、体の八割くらいが装殻化している。


 今のご時世、装殻の不具合で装殻化が解除されなくなった者たちは多いが、ここまで酷い状態の人物を、ジンは一人しか知らなかった。


「キタツさん?」

「うん? ああ、ジン君か。元気にしてたかね?」

「キタツさんこそ。この街に居たんすね」


 彼は以前、親を失って浮浪者に成り立てのジンとナマズに、幾度か食事を与えてくれた人だった。


「ヤガミ君。最近、カオリを見かけなかったかい?」

「いんや。どうした?」

「数日前からいなくなってしまってね。探しているんだ」


 キタツは、ジンらと出会った時には既に孤児を集めて養護施設のような共同体を作っていた。

 今名前を口にしたのは、そんな孤児の一人なのだろう。


 その言葉に、ジンは嫌な予感を覚えた。


「もしかして……」


 ジンは、ヤガミを訪ねるより先に、ナマズから聞き出した場所へ向かってその後を確かめた。


 少女は、両親と共に死んでいた。

 ナマズは親子連れだと思ったようだが、その少女を連れて居た二人は成人していたものの、小学生くらいの少女の親にしては若かった。


 少女は、頭を殴られて血を流していた。

 ナマズがネックレスを奪った時は、確かに死んでいなかったのだろう。


 しかし死んでいないだけで、明らかに頭部の傷は深かった。

 ナマズが去った後、動けもしなかったのだろう。


 寝ぐらに戻り、ナマズを足腰立たなくなるまで殴り倒したジンは、あの時すぐに出て確かめていれば、と苦い後悔を覚えていた。

 金を払って死体の始末屋に弔うように頼み、全て終わらせてからヤガミの元を訪れたのだ。


 ジンがキタツに少女らの特徴を伝えると、キタツは首を横に振る。


「いや、私の探している子は、ジン君と同じくらいだよ。その三人とは違うね」

「そうか」


 安堵と共に少しだけ話をしてから、ジンはキタツたちと別れた。

 キタツたちの住む場所を聞き、何か分かれば伝えると約束して。


 ジンはその足で、黒づくめの男を探し始めた。

 


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