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5、季節の塔

 トロールと人魚とエルフを連れていると驚かれたり珍しがられたり時には村や町に入ることも拒絶されるようなことがあっても、少年たちは塔に向かって一緒に旅をします。

 トロールが森の動物を捕まえてきて食べたり、人魚が疲れを癒す歌を歌いながら眠りについたり、エルフがかすかな音を聞きつけて、水場にたどり着くこともありました。皆で協力して塔に向かいます。




 塔まであと少しというところの村までやってきたときのことです。


「さあ皆のもの! 喜べ! 喜ぶのだ!」


 大きな声で叫ぶ騎士の姿がありました。騎士はそう叫ぶばかりで何を喜んでいいのか分からず村人たちは怪訝な顔をしてみています。誰も喜ばないことに怒った騎士はとうとう剣を抜いて村人たちに突きつけて言います。


「何故喜ばないのだ。喜びが春をもたらすのだ。貴様らが喜ばぬから春は来ないのだぞ!」


 剣を突きつけられた村人は恐怖で気を失ってしまいました。他の村人たちも一目散に自分の家に戻って鍵を掛けて隠れてしまいました。


 騎士は恐ろしい形相をしたまま「喜ぶのだ」と叫びながら村を出て行きました。




「なんなのあれ?」

「さあ?」


 少女の問に答えられるものはいませんでした。






 ついに塔にたどり着きました。大きな塔は見上げてもてっぺんが見えないほど高く大きなものでした。

 入り口の鍵はかかっておらず、おそるおそる入ると中は石造りの簡素なものでした。


「こんにちはー! 誰かいませんかー!!」


 少年が声をかけますが返事はありません。この塔の中には冬の女王がいるはずです。あたりを見渡しているとエルフが耳をぴくっとさせます。


「上から小さな泣き声がしますよ」


 少年たちは耳を澄ましてみますが、全く聞こえません。でもエルフのことを信じているので、泣き声のするほうへ行くことにしました。


「冬の女王が泣いているのかな?」

「女王が泣くわけないじゃないの」


 そんな話をしながら階段を上へ上へと上っていきます。


「春の女王はいるのかな?」

「…いたら春が来てるわよ」


 そんな話をしながら上へ上へとなおも上ります。

 疲れて汗をかく皆に、人魚が癒しの歌を歌ってくれました。


「どのくらいの高さがあるのかな?」

「………とっても………高い………」


 少女は疲れて歩けなくなって、トロールに担いでもらうことにしました。力持ちのトロールは少女を担いでも疲れなど知らないように階段を上り続けます。


「泣き声が聞こえてきたね」

「あ、本当ね。もうすぐね」


 小さな泣き声が聞こえてきました。目的地はもうすぐのようです。


 階段ばかり続いていましたが、ついに扉が現れました。泣き声はその奥から聞こえるようです。

 少年はその扉をそっと開けました。


 今までの石造りの簡素なものとは違い、床に絨毯が敷き詰められ壁には色とりどりのタペストリーがかかるとても明るく広く豪華な部屋でした。

 その部屋の中心で、青い髪の女性が涙を流して泣いています。その脇に、黒い髪の女性が悲しげな顔で目の前にある木を見つめていました。部屋の中にあるのに大きな木は枯れており、葉の1枚、花の1つもついていません。


「どうして泣いているの?」


 少年が青い髪の女性に声をかけます。青い髪の女性は少年を見て何か話そうとしますが、涙があふれて話すことが出来ません。変わりに黒い髪の女性が口を開きます。


「私は冬の女王。彼女は春の女王です」


「なんだ。春の女王は塔にいるんじゃない。早く季節を春にしてよ」


 冬の女王が名乗ると、少女は呆れたように言いました。


「それが出来ないから泣いているのよ!」


 春の女王が泣きながら訴えます。叫ぶとまた涙が零れて俯いてしまいました。


「僕たちは冬の女王に春の女王と交替してもらうために塔に来たんだ。どうしたら季節を交替させることが出来るの?」


 少年は冬の女王に協力を申し出ます。トロールも人魚もエルフも頷きます。


 冬の女王はどうやって四季が廻っているのか教えてくれました。


「この国の四季は世界樹によって廻っています。私たち女王はこの木を育てることで四季を廻らせているのです。世界樹はこの国に住まうもの達の力で育ちます。

 すなわち


 春の女王は『喜び』を糧に花を咲かせ

 夏の女王は『怒り』を糧に葉を茂らせ

 秋の女王は『楽しみ』を糧に実りをもたらし、

 冬の女王は『悲しみ』を糧に枝を伸ばす


 そうして四季が廻っているのです。しかし年々『喜び』『楽しみ』が減っていき、『怒り』『悲しみ』が増えてきているのです。そして今年はとうとう『喜び』が足りずに花を咲かせることが出来なくなっているのです」


「つまり僕たちが『喜べ』ば春が来るってこと?」


 少年の言葉に冬の女王は頷きます。


「あの騎士が言っていたのはこういうことだったのね」


 少女の言葉に冬の女王は付け足します。


「幾人かあなたたちのように春の訪れを願うものたちがこの塔にやってきました。同じ話をし、この国に『喜び』をもたらすと出て行ったのですが、いまだ春の女王に『喜び』は届いていません」


 冬の女王は続けます。


「どうかこの国に『喜び』をもたらし世界樹に花を咲かせてください」


 お願いします、と頭を下げる女王に少年は任せて、と胸を張ります。

 少女は呆れた顔で少年を見るだけでした。


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