2、森の中で
塔に向かう途中の森の中。
大きな影がのそりと動きます。
驚いた少女が悲鳴をあげると影はこちらを向きました。
その目は真っ赤に充血しています。
また悲鳴をあげる少女をなだめて少年は問いかけます。
「どうして泣いているの?」
「君はオイラが怖くないのかい?」
「そんな風に泣いているヤツのどこが怖いっていうんだい?」
そういうと大きな影はわんわんと泣き出しました。
ひとしきり泣いたところで落ち着くと大きな影はトロールの姿であることが分かります。
「オイラはドワーフの村で産まれたんだ。でも小さいドワーフの中でオイラだけがこんなにも大きく育ってしまった。それでも育ててもらってたんだが、冬が続いて食糧が取れなくなってくるとお前に食わせるほどの食べ物が無いって追い出されちまったんだ。オイラの食べる量は皆と変わらないのにな」
村のことを思い出したのかトロールはぽろぽろと涙を流します。
「僕たちはこれから冬の女王に春の女王と交替してもらうために塔に向かうんだ。良かったら君も一緒に行かないかい?」
少年が手を差し出してトロールを誘います。
「あたしは嫌よ。そんな恐ろしい姿のものと一緒なんて」
少女の言葉にトロールは深く傷つきました。
同時に、当然のことだとも思いました。こんな恐ろしい姿のものと一緒にいたいものなどいないのだから。
「大丈夫。彼は優しい心を持っているよ」
「どうして分かるのよ」
「だって、彼はトロールだ。やろうと思えばドワーフの村を壊すことも、他の村に行って食糧を奪う事だってできる。でもそれをしないのは優しいからだろう?」
少年の言葉にトロールは嬉しくなります。自分のことを優しいと言ってもらったのは初めてのことでした。
「冬の女王と春の女王を交替させることができたら、王様から褒美がもらえるんだ。村に戻る事だってできるよ」
再び差し出されたその手にトロールはおそるおそる手を伸ばします。
恐ろしい姿と強い力を持つトロールに、ドワーフたちは触れようとはしませんでした。
でも、少年はトロールの手をしっかりと握り締めてにっこりと笑います。
その手の暖かさに、トロールは心が温かくなり、涙があふれてきます。
嬉しくて涙が出ることを初めて知りました。
「仕方がないわね。あんたが面倒を見るのよ」
少年の頑固なところを知っている少女は諦めとともにトロールの同行を認めました。