2話 オラは質問攻めにされました
読んでくださっている方々ありがとうございます。
「ところで、なんで私を殺したの?」
と、並んで歩く少年に私は聞いた。話し合った結果、結局私をこのエルフの隠れ里らしき場所の長、ルシフという男に会わせてもらえることになったのだ。私が女神だという話には終始怪訝な表情で半信半疑というかんじではあったが、何はともあれ私の目的に一歩前進である
「聞く必要、あるっぺか?」
「いくら、思考を読めるっていってもねー、それじゃ味気ないじゃない、会話しようよ!か、い、わ!」
「侵入者はほぼ間違いなく敵だべ…」
そういうと少年はふいっとそっぽをむいてしまう、随分と嫌われたものだと思ったが、少年、少し顔が赤い。
ははーん、なるほどなるほど、私の美しい裸体に反応しちゃってるわけね♪
霊体は思念の塊のようなものだ、大抵の霊体は生前の本人が一番イメージしやすい慣れ親しんだ姿になる。子供時代に死ねば子供の霊に、老人で死ねば老人の姿の霊になる事が多いのはそのためだ、まあ霊として年季が入って力を得たり、生前強大な魔力を保有していたりすれば、霊体の姿も思いのままだそうだが、あいにく、私は生前の力はあっても、まだ霊体に慣れていない。故に私が一番慣れ親しんだ姿、すなわち裸の状態でいるしかないのだ。
かわいいとこあんじゃーん、ちょっとからかってやろうかな♪
「そうじゃなくてえ」
と言いながら、少年の視界に自らの褐色の肌をさらす。
おっぱいを過剰にブルンブルンとゆらしながら。
「な、な、なんだっぺ…!」
効果は抜群、少年はゆでだこのように顔を真っ赤にして首をねじ切れんばかりに逆方向にふる。
いまなら、年不相応に明晰な思考をしたこの少年も籠絡できるかもしれない。
「だからぁ、あなたの思考を読んだ時から疑問だったんだけど、結界を破る手段ってぇほとんどないんでしょぉ…なら、兎の姿をしていたとはいえさぁ、あたしがお客さんの可能性もあったわけじゃない、実際あんたも殺した後とはいえその可能性を考慮してたしぃ、あなた結構頭いいからぁ、警告もなしに弓を射っちゃうってらしくないなぁと思ってぇ…」
わざと甘ったるい声で問いかける、まあこれはからかいの延長だはあったが、事実疑問ではあった。
「………」
少年無視。少しからかいすぎたか、ならば。
少年の両頬をつかんでこちらを振りかえさせる。神能『獣の目』、これで思考を読みとるしかない。
しかし少年は私にこれ以上からかわれまいときつく目を閉じていた。やられた、というよりやってしまったか。
『獣の目』とは生物の思考を完全に読み把握することのできる神能である。ただし相手の目を直接見る事が条件なのだ。少年は偶然にもこの能力の穴を突いていた。
このままではらちがあかない。しかたない、もう一つの神能を使うとするか。あまりむやみやたらに使いたい神能ではないのだけど…
改めて少年の顔を見る、今は赤みを帯びているが、男の子にしては白い肌に、柔らかそうな唇、黒い短髪は綺麗に切りそろえられている。長い睫毛が目をきつく閉じているせいかプルプルと震えている。
ま、いっか!結構好みですしぃ!
そう考えるや否や少年の唇に自らの唇を重ね、唾液を流し込む。
少年は一瞬驚いた表情を見せると体をくねらせ、逃れようとする。
まあもう逃がしてもいいんだけど、この子思ったよりいいわ…もうちょい楽しんじゃお!
十分後
少々楽しみ過ぎた感はあるが、少年の籠絡には成功した。これが私の第二の神能、『獣惹き』自らの体液を摂取した相手に一時間限定の魅了(チャーム)をかける。時間も短く、条件も厳しいが、相手を魔力抵抗を一切受けずに最高ランクの魅了をかける事ができる、もちろん質問に嘘はつけない。
「あなたの名前は?」
「ソーマ」
念のため魅了が作用しているか確認する問題はなさそうだ
「そう、ソーマ。では答えて、なぜ私を殺そうとしたの?」
「神は殺さなければならないから」
「…!」
この子私を、女神と認識しながら、殺そうとしたの!?いや、さっき思考を読んだ時にはそんな事は読み取れなかった…!
思考を読み取るためには魅了を解除しなければならない。神能の同時併用はできないからだ。だが、今の言葉を聞いてからそれはあまりにも危険すぎる。
他の質問をしてみよう。後で質問と一緒に思考を読み取れば、同じような事ができるが、記憶情報を取り出すのはこちらの方が効率が良い。それに、後から素直に思考を読み取らせてくれるとは思えない。
「あなたの思考にはエルフの話がでてくるけど、ここはエルフの隠れ里なの?」
「そうだ」
「あなたは外見は人間のようだけどエルフとのちのつながりはあるの?」
「ない」
「エルフ関係とあなたの立場について簡単に説明して」
「俺は五年前にこのエルフの隠れ里に流れ着いた。それ以前の記憶はなく、今俺を住まわせてくれているエルフ一家の家の前で倒れていたそうだ。俺の記憶があるのは、その家のベッドで目覚めてからだ。そこから三年間俺はルシフさんのもとで森の番人になるための修行をした。森の番人とはこの隠れ里の玄関口『忘れられた森』にて侵入者を排除する仕事だ。」
ルシフ…たびたびこの少年の言葉に出てくる存在だが、これほど大規模な結界を維持するなど、並大抵の魔術使ではないのだろう、もしかすると、あの男と何か関係が…
「三年の修行期間を経て、俺は晴れて森の番人になれた。二年間仕事をしてきた中で初めての侵入者があんただよ」
ここにきて気がついたがソーマの訛りが消えている。言っている事と思考の乖離となにかしら関係があるのだろうか?しかしそれよりも今気になるのは、ルシフというエルフの情報だ。もしかすると私の目的のものを持っている可能性がある。
「ルシフというのはどういう男なの」
「エルフ族一の戦士だ。この隠れ里を千年に渡り守護してきた、生ける英雄だよ」
今まで茫洋としていた少年の答えに初めて力がこもった。潜在意識からよほどの尊敬の念があるらしい。
エルフ一族一の戦士、この結界を維持できるほどの魔力、そして千年という年月を生きたエルフ。間違いないあの男だ。名前こそ変わっているものの、ここまで特徴が一致する男はそうはいまい。
「ルシフの元に案内して」
「その必要は無い」
答えたのはソーマではなかった。
背後にいる声の主を振り返る間も無く私の意識は闇に飲み込まれた。
主人公はソーマです