1話 オラは美女に出会いました
本日2話目です。最近残念系ヒロインが好きです。
兎がしゃべった。
受け入れがたいがこれは事実だ。
なにかの魔術の類いだろうか、だとしたら誰が?何のために?兎に言語を解する魔術を施し、この『忘れられた森』に侵入させたのか。
そう、問題はそこだ。この森はルシフさんの結界魔術によって、エルフ族以外のありとあらゆる生物の外界からの勝手な侵入は不可能なはず。仮に結界を破る、あるいは透過することのできる者によるものだとしても、見たところ術式にはなんの乱れも、他の魔術の形跡もない。
結界の性能を信用するならば、この兎はルシフさんに許可を得て、この森に来訪した賓客ということになる。もしや、魔術師が兎に化けていただけだったのかも…だとしたらこれは大変な事だ、俺はこのエルフの最後の楽園の玄関口を無為な血で染めた事になる。
と、そこまで考えた所で兎の口から白い煙のようなものが立ち上っている事に気がついた。その煙はみるみるうちに人の-女性の人間のシルエットをかたちづくっていく。
「イヤーン!!本当に死んじゃったー!!」
煙がしゃべった。
受け入れがたいがこれも事実だ。
「どうしてくれんのよー!!君ーーーー!」
兎煙(仮)は文句を言ってくる。俺が思考を巡らしている内にそのシルエットもクリアになってきていた。透き通るような白い髪、それに対比するかのような艶かしい褐色の肌、暴力的なまでに豊満な胸に、弓のしなりを思わせる程の美しいカーブを描いた腰のライン、すらりとのびた長い足。世界一美しい種族と言われているエルフを見慣れている俺からみても絶世の美女だ。そして服装は…
「あのぉ、服は?」
彼女は服を着ていなかった。
「霊が服着てる訳無いでしょうが!!!」
「すんません…」
噛み付くような剣幕で怒鳴られた。
そうか霊なのか、じゃあこの人はこの兎の魂的な?あれ?でもなんで俺に霊が見えるんだ?俺は大気中のマナや魔力は訓練である程度感知できるようにはなったが、霊力感知の訓練はまだ受けてない、今までみえた経験もない。どういう…
「それは私がただの霊じゃなくて神霊だからよ」
「な…」
俺は驚いて目を見開く、彼女の発言は、俺の思考を読んでなければできない事だ。
「これは獣の女神であるあたしの神能のひとつ、獣の目能力なんだけど…あなた不思議ね」
「何がだす?」
「それよそれ、あたしはあなたの思考を能力で読む事ができるわけだけど、あなた思考上は普通の言葉づかいなのに、口に出すと訛りが出てくるのはどうしてなの?」
「こっちが…聞きたいくらいだべ…」
「ふうーん」
彼女は僕の目をその黄金に輝く瞳でまっすぐ見つめてくる。獣の目…魔眼かそれに類するものか、いずれにしても言語化された思考を完璧に読めるなんて、俺の知ってる限りの魔術体系では実現不可能だ。超常の力、神能とかいったか、そいつにも信憑性がでてきたな。それと同時に…
「ちょ、ちょっとあなた…なんでまだ私を排除しようとしてるの…」
思考が読めるなら答える必要もあるまい
「ああー、そうよねー元々侵入者を排除しようとしていたんだものねー…あんなか弱い毛玉ですら脅威としてみなしたんだから、こんな得体の知れない能力を使う霊を野放しにはしておかないわよねー…」
そういう事だ。もうひとつ付け加えれば、結界内に入れた理由もお前の神能とかいうデタラメな能力で説明がつく。結界を破る方法は大きく分けて3つ
1術者を殺すか、命じて結界を解除する。要は魔力の流れを止める方法。
2結界の一部に重なるようにして、反作用を起こす結界を展開し、通路を作る方法。
3結界に設定された鍵語を入手して使用、堂々と中に入る方法。
1と2ならば、俺やルシフさんが見逃すはずもない。ならば3、お前は外に出ていたここに住むエルフの思考を読み取って鍵語を入手、まんまと侵入したってわけだ。
「そんなところだべか?」
「あんた、ほんと思考と発言が別人みたいで面白いわね…でも残念はずれよ」
奴の言葉を信じる必要は無い。無言で矢をつがえる。
「まあ、それはいいけど…どうやって霊を、私を殺すの?」
沈黙。思考。戦闘終了。
「とりあえず、あたしの話を聞こうか、少年。」
もう一度殺したくなる程のドヤ顔だった。
訛り設定は後々生かします(たぶん)