第3話 攻防戦1
リソリア城の前面にリソリア騎士団七百騎が、隊列を整えてクラン軍を待ち構えていた。
その様子を城壁の上から見下ろしていたライの横顔に、フィアンナは不思議なものを感じていた。
リソリア城の騎士達は、みな一様に口元を引き締めて厳しい顔のまま、前方を見ているのに対して、ライの口元には笑みが浮かんでいる。
その笑みは軽薄そうには見えず、むしろ不敵と思える笑みだった。
「どうして、笑っていられるのですか?」
尋ねるフィアンナにライは首を傾げている。
「笑っていましたか?」
「はい。とても不敵に」
ライの笑みが思い出したような微笑みに替わった。
「前に、友人に言われた事があります」
「なんと?」
「普段の時と、戦闘の時では別人だと言われました。自分では意識してはいないのですが、どうもそんな風に友人には見えるそうです」
「私も、そのご友人と同じく思います。命令する事にも慣れているようですし、人を乗せるのも上手です」
「うーん、困りましたね。本当に意識している訳ではないので……」
頭に手をやってしまうライに、フィアンナは笑ってしまった。
「不思議な方ですね」
「そうでもないと思いますが……」
「あなたは飛龍を脅威とは思っていないでしょう」
さらりと言われた言葉にライは笑う。
「ええ、そうです。飛龍は脅威なりません。貴重な戦力ではありますが、いなければいなくても戦う方法はありますから」
やはりと思ってしまった。
飛龍を見て、その姿にほとんどの者は怯えるが、ライは怯えるどころか呆気に取られていた。脅威と思っていれば、そんな行動にはならないはず。
「なぜですか? 飛龍は弓の届かない高みにいるのですよ」
フィアンナの問いかけに、ライはバリスタを示した。
「届かなければ届くようにすればいい事です。弓で届かなければ、届く弓を造ればいいだけですよ」
「バリスタは対飛龍用の武器ですか?」
「そうではないのですが、その様に用いる事もできると言う事です。頭の切れる者なら、誰でも判ることですね」
「ナセルの者は誰も思い付きませんでした」
「慢心でしょう」
言われてフィアンナは押し黙った。
「気がつかない内に驕ってしまう。そう言う事を慢心と言います。対抗策を取られて『まさか』と思ってしまうのでしょう。難攻不落と言われた城を落とされて『なぜだ』と言う。誰もが慢心している事に気が付かない」
笑いながら言うライに、フィアンナはある種の怖さを感じる。
「それでわたしは、素人に負けた事があります。まさか自分が素人に負けるとは思いませんでした。これでも多少の自信がありましたので」
昔を懐かしむ顔。
「友人もわたしと同じぐらいの強さでしたが、その友人は素人に叩きのめされてしまいました。友人もわたしも、はじめは理解できなかったのですが……」
今度は苦笑に変わった。
「素人と侮っているからだと。実戦だったら慢心に繋がり死を招く事になると。一族の当主に言われた事があります。否定したかったのですが、素人に負けた事は事実ですし、返す言葉がありませんでした」
「あなたは、いったい……」
昨夜の言葉が出るが、再び言葉が止まってしまう。ライが笑いながら首を振っていた。
「わたしはここにいます。他のどこにではなく、今ここにいます。それでいいのではないですか」
「どこにもいかれないと、故郷にも帰らないと言われるのですか」
いくら知らない地であっても、故郷へ帰らないと言う事はない、そう思えるフィアンナには信じられない事である。
頷いたライの顔から笑みが消え、スーと顔を横に振っていた。
「用意を」
その言葉は戦闘の始まりを意味する。
「解りました。手はずどおりに」
答えたフィアンナは、ライのそばを離れて飛龍の元に向かった。聞きたい事はまだあったが、今はその時ではないと騎士ならば知っている。
森の右手からゆっくりとクラン軍がその姿を現わした。七千の騎馬の後ろに攻城櫓が三つ見える。篭城戦と考えていたクラン軍は、軍勢をゆっくりと進ませてリソリア騎士団に、重圧を与えるつもりだった。
しかし、リソリア騎士団が城外に出て、隊列を整えて迎え撃つ構えを見せていた事が、クラン軍に戸惑を生ませる。数に劣るリソリア騎士団が、このような行動を取る理由が判らなかった。
クラン軍にとっては、一気に殲滅できる好機ではあったが、しばし動かずに様子を見る事になる。罠を警戒するのは当然の事だった。
何の動きも無いまま時が過ぎようとした時、リソリア騎士団がゆっくりと前進と後進を繰り返し始める。さらには一斉に右に移動し、反転してまた移動する。
「これに何の意味があるのでしょう?」
エンパートの副官クライブは、首を傾げてしまっていた。
「ない。これもあの者の指示だ」
奥歯を噛み締めるようなエンパートである。
クラン軍が現れて何の動きもないようなら、騎馬行軍訓練を行い一糸乱れない動きで短く動けと指示されていた。
それを実行しているだけなのだが、理由を説明しないライに怒りが募る思いである。
戦えと言うのなら、このまま七百騎で突撃した方がどんなにか名誉な事か、だが一度は従うと言った手前、それはできなかった。
幾度目かの行軍を繰り返した時、クラン軍が前衛二千を前進させる。
それは、一気に押し潰してくれるとでも言うような騎馬の突撃だった。
「やっと動いてくれたな……」
クラン軍の突撃を城壁の上から見たライは、安心したように呟いている。
二千もの騎馬の突撃は、迎え撃つエンパート達の間に緊張と喜びをもたらした。
これで戦える。
それは騎士達が望む事だった。
ところが、クラン軍の先頭を駆ける騎馬が、突然吹き飛んだように転がる。
速度の乗った騎馬が急に止まれるはずもなく、転がってもがく人馬に後続がのしかかり、さらに転がって行った。密集した騎馬の突撃が仇となったのである。
気が付いた後続が手綱を引くと、棹立ちになりひっくり返る馬が出て来た。目の前で急に止まられても後の者が止まれるはずも無く、そのまま騎馬同士の激突になってしまう。
かろうじて難を逃れたのは、四百騎にも満たなかった。
リソリア騎士団を押し潰すはずが、あっという間に二千もの騎馬軍が瓦解した。
「何が起こった!」
総大将であるクランの王子ジョシュアは自分の目を疑う。
ナセル軍が何かをしたようには見えなかった。騎馬が突然吹き飛んだようにしか見えず、何が起こったのか把握できなかったのである。
側近に答えられるはずも無く、ただ呆然と瓦解した自軍に眼を向けるだけであった。
「第一段階は成功と……このまま退いてくれれば、今日の戦闘は終わりになるが……無理かな……」
クラン軍を見てライは呟く。
戦闘らしい事もせずに、二千もの騎馬群が瓦解すれば志気は当然のように落ちるが、まだ戦闘は始まったばかりである。ここで退くようなら、無能者どころか臆病者と誹られる事は明白だった。だから、まだ退かないと思う。
この結果にエンパートは目を見張っていた。副官のクライブも同じようだったらしく、呆然としたように呟いている。
「何が……どう……」
バカな、とエンパートは思いたかった。
ライの指示した策の一つであることは解っていたが、こうもあっさりと結果が出るとは思っていなかったのである。
『草の高さ、低い所に縄を一直線に張ります。長さはそんなに長くなくても構いません。交互に互い違いに馬三頭分の幅に張ってください』
聞いた時は何をするつもりなのか解らなかった。
『落とし穴ではなくて、馬の足を引っ掛ける物です』
にやりと笑ったライに、エンパートは首を傾げたものである。
『先頭が転がれば後ろも転がりますよ』
それで二千もの騎馬軍が瓦解するとは思えなかった。思えなかったが、目の前でそれが起これば返す言葉は無くなる。
エンパート達が見ている先でクラン軍の中衛部隊が、前衛部隊の救出に奔走している姿があった。
「まだ信用は出来ないが、今はあの男の指示通りに動くか……」
再びエンパートは騎馬行軍を始める。
ゆっくりと整然と見せ付けるように。
そのナセル軍の行動は、ジョシュアにさらなる怒りを募らせる。
戦闘中とは思えないほど、お手本のような騎馬行軍は、明らかに自分達クラン軍を小馬鹿にした行動にしか見えなかった。
「被害は!」
「千三百ほど。負傷者は三百に欠けるぐらいです。難を逃れたのは四百もいません」
「何が起こった!」
「救出時にあたりを調べさせましたが、何もありませんでした」
「何もありませんでしただと! 馬鹿者! 何も無くて人馬が飛ぶか!」
報告にジョシュアが吼える。
「三千をもって、あの煩わしい奴らを蹴散らす!」
騎馬行軍を行うリソリア騎士団に指を突きつけて怒鳴っていた。
「なりません。慎重になるべきです」
すかさず副官の一人クレイシスが止める。
「ここまで虚仮にされては、クラン騎士の名折れぞ!」
「ですが! 先ほどの事も何が起こったのか判っておりません。ここは全軍で駒を進めて攻城戦に持ち込むべきかと!」
クレイシスは正しい事を進言しているのだが、怒り心頭のジョシュアはまったく聞き耳を持たなかった。
この時、クレイシスの進言通りに攻城戦に持ち込まれていたら、リソリア城は苦戦を余儀なくされていた事になっていたはずである。
が、二千もの騎馬群を瓦解された事、眼の前の千にも欠ける騎馬群がリソリア城の全軍である事を知っていた事が、ジョシュア達の目を曇らせた。
「愚か者め! あそこにいる騎馬軍がリソリア城の全兵力だ。あれを叩けばリソリア城は落ちたも同然だ!」
それでもクレイシスは、ジョシュアを諌めようとする。
「殿下! なにとぞご再考を! たとえ、あれがリソリア城の全兵力だとしても、いらぬ損害を出す事は避けるべきかと!」
「おまえは後詰とともに残っておれ! 臆病者など、我が軍にはいらん!」
時をおかずに、ジョシュアは三千を率いて突撃を始めた。リソリア騎士団は行軍を止めて、今度は騎馬を駆けさせる。
「たかが七百ていどで」
薄く笑みを浮かべるジョシュアだった。一気に蹴散らせてくれると、全軍に速度を上げさせる。
三千の突撃を見て取ったライが声を上げた。
「バリスタ、用意!」
城壁に設置された六基のバリスタに、飛龍騎士が取り付いてライの指示を待つ。
「放て!」
号令とともに、六基のバリスタが一斉に唸り声を上げた。打ち出された巨大な矢は、弧を描いて突撃する騎馬軍の寸前に突き刺さる。
バリスタの矢の間に張られた網が、クラン軍の目の前で広がって行った。
突然眼の前に現れた網を避ける事ができずに、人馬が突っ込み次々に激突して行く。後続までもが止まれずに、バリスタの矢と網に激突していた。
再びクラン軍の突撃が止められる。
バリスタの網の間を抜けられたのはわずか五百、隣にいた騎士が突然消えた事に驚いたクラン騎士は、馬首をめぐらせてしまった。
立ち止まったクラン五百騎に、エンパート達リソリア騎士団が襲い掛かる。ライの言う少数を相手に戦う好機だった。
リソリア騎士団の突撃を受けたクラン軍五百騎に、耐えられるだけの志気はまだ残っていたが、クラン軍に態勢を立て直す時を与えさせまいとフィアンナ率いる飛龍騎士隊が、上空からの投石と短槍の攻撃を始めると守勢に回るしかなくなる。
飛礫や小石などではなく、拳よりも大きな石が上空から、それも飛龍の降下速度を乗せて落とされれば、盾など何の役にも立たない。まして、その中に短槍までもが含まれていては、どうする事も出来なかった。
石や短槍に打たれて落馬する者や、地面に打倒される者まで出始めた。
訳の分からないまま前衛二千が瓦解し、二度目の突撃さえも押し止められた。そして、飛龍まで現れて攻撃まで行ってくる。
状況も把握できないまま、攻撃さらされたクラン軍の騎士達の心に、恐怖心が芽生えてくるのに、さほど時間はかからなかった。
武将達が檄を飛ばすが、凶器となった石や短槍に打ち倒されては、まったくと言っていいほど効果は上がらない。
その結果は、統制も取れずにばらばらに後退して行く事になった。
追撃戦を行えば、クラン軍にもっと損害を与えられるが、エンパートは追撃せずにリソリア城へと騎士達を引き上げさせる。騎士達の志気は高くはなっていたが、エンパートは固い顔のままライがいる城壁へと向かった。
ほうほうのていで後退する事になったクラン軍の志気が、落ち込んでしまう事は無理のないことである。
「被害は千八百、負傷者に至っては八百にあがります……」
報告する側近も信じられないようで、声が小さくなっていた。
「戦闘らしい事もせずに、半数を失ったと言うのか!」
とても認められる事ではない。
二度の突撃は戦闘とは呼べなかった。
それなのにクラン軍は戦力の半数を失っている。
誰が指揮官でも、こんな事は認める事はではないはずだった。その証拠に側近達は何も言えずに黙っている。
志気が落ちた兵では戦闘にはならなかった。
それはジョシュアでなくとも解る事である。
「兵を休めろ」
震えそうになる声を、力ずくで押さえ込んだジョシュアは、側近に指示を出していた。奥歯が砕けるぐらい噛み締め、屈辱に耐える。
城壁の上からクラン軍の後退を見ていたライの元にはフィアンナもいた。少し離れてロンバルが無表情に立っている。
「こうなると解っていたのか」
「上手くいけばこうなるとは思っていましたが、こうも上手くいくとは思ってもいませんでしたね……」
「上手くいかなかったら、どうなっていた」
「全滅していましたね」
「あっさりと言うな!」
思わず怒鳴り返していたエンパートだった。そんなエンパートを気にも留めずにフィアンナはライに尋ねる。
「どのくらいまで減らせたと思いますか?」
「半数。と言いたいけど、どうかな?」
首を傾げながら答えていた。
「七千ではなく四千ほどなら、篭城戦は楽になると思いますが……」
「雲泥の差です。あと一日、乗り切れば勝てます。今日一日でリソリア騎士団の志気は上がっている事と思います。一日であれば、どれほど敵が多くても問題はないですね」
「では、勝てますね」
笑うライにエンパートは怒りを募らせる。フイアンナまでもが、エンパートの怒りを募らせる事を言い出した。
「勝てれば恩賞を受けられますよ」
「恩賞?」
「はい。この攻防戦の一番の功労者は、間違いなくライです」
笑顔でフィアンナは請け負った。
「望みが全て叶うと言う訳ではありませんが、戦闘での功に対する褒美です。騎士を望まれるのなら騎士に叙任されますし、報奨金を望むのなら、功に見合うだけの金品が受けられますよ」
「フィアンナさま! まだ戦闘は終わってはおりません!」
怒りを押し殺したエンパートが言う。
「終わりますよ」
静かにライが言った。
「明日にはクラン軍は撤退を始めます」
「何を根拠に! まだクランは四千近く残っている! ここで撤退するようでは無能者と誹られる!」
「壊滅するまで戦う事が有能な指揮官ですか?」
笑うように問いかけてくるライである。
「無能者です」
少し楽しそうにフィアンナが答えていた。
「では、ここでの戦いは終わりになりますよ。これ以上戦っても、クランには消耗戦にしかなりませんからね」
ふと嫌な予感がエンパートによぎる。
「きさま、まだ策を弄すると言うのか!」
「いやだな、リソリア卿。小細工と言ってください。弄するって人聞きが悪い」
笑って言うライだった。
「き、きさまは……」
激高するエンパートを尻目にライは、フィアンナに尋ねている。
「褒美がもらえるとは本当なんですか?」
「もちろんです。ライはそれだけの事をなしたと思います」
「なら、フィーのキスが欲しいな」
さらりと出てきた言葉に、エンパートと黙っていたロンバルが目を剥いた。
「キスだけで良いのですか?」
聞き返すフィアンナにロンバルが思わず叫ぶ。
「フィアンナさま! 何を言っておられるのです!」
「はい?」
きょとんとした顔で振り返ってくるフイアンナに、ロンバルは思わずバチッと額を叩いてしまう。意識しないで出た言葉ほど恐ろしいものは無かった。
ライに答えた言葉は、フィアンナ自身も判っていなかったのだろう。
「前渡しでいただければ嬉いのですが」
楽しそうに言うライに、エンパートの手が無意識の内に長剣の柄に掛かった。
考えるように首を傾げたフィアンナではあったが、ライに近付くと唇を重ねてしまう。
「これでいかがでしょう」
少し頬を赤らめたフィアンナだった。
瞬間、エンパートは抜刀してライに打ちかかっている。誰も止める間もなかったが、ライはエンパートの長剣を、腰に差す長剣を抜いて受け止めていた。
「危ないですね」
「フィアンナさまは、きさまのような輩が触れて良い方ではない!」
「面白い事を言いますね。フィーは素敵な女性です。欲しいと思わない者はいませんよ」
「きさまぁ、どこまで貶めれば……」
ギリとエンパートが奥歯を噛み締めた。
「意味がわかりませんね。わたしはフィーを貶める気などありませんよ。むしろ素敵だと褒めています」
「きさまのような輩に、我国の宝を辱められるいわれはない!」
「リソリア卿、おやめください」
「ですが!」
「ライは何も知りません」
それでも何か言いたそうなエンパートの手を、ロンバルが押さえて首を振る。
「それ以上は。解っているであろう、リソリア卿」
「ぐっ……」
唇を噛み締めてライを睨むしかエンパートには出来なかった。
長剣を納めたライはフィアンナに尋ねる。
「フィー。わたしをエンダルアの背に乗せて飛んでくれますか」
「はい。かまいませんが、どうなされるおつもりです?」
「空の散歩。わたしとでは嫌ですか?」
笑うライではあるが、フィアンナは何か考えがあるのだと理解した。何の考えも無くこんなことを言い出す男ではないと、これまでの言動でわかっている。
「喜んでお供します」
「いけません、フィアンナさま。それでしたら、わしがその者を背に乗せて飛びます」
止めるロンバルにライは嫌そうな顔になった。
「男と飛んでどこが楽しいんですか、女性と一緒だから楽しいんでしょう」
「きさま、まだ終わっていない事が解らんのか!」
エンパートが怒声を上げる。
そんなエンパートを見て、フィアンナが静かに言った。
「リソリア卿、あなたはもっと冷静な方だと思っていましたが」
「わたしは冷静です!」
叫んでいては説得力が無い。
それを見たロンバルが首を振ってしまった。
「フィアンナさま。リソリア卿の言われる事はもっともな事と思います。クランとの戦はまだ終わってはおりません」
「終わっていますよ」
「何を根拠にそう言うのだ、おぬしは」
「それを確かめるためにも飛ぶんです」
「ならば、わしでもかまわぬであろう」
「いやですね。わたしはフィーと飛びたいんです」
「おぬしは、女好きか!」
思わず叫んでいる。
「女性は嫌いなんですか? わたしは男色の気はないですよ」
とライがロンバルから一歩離れた。
「意味が違うであろう!」
「どこがです?」
真顔で聞き返すライである。
「きさまぁ!」
ロンバルが怒鳴った。
と、くすくすと笑い声が聞こえる。
「おやめなさい。ロンバル、叫んでいては……」
楽しそうなフィアンナだった。
「リソリア卿と一緒ですよ」
「ぐっ……」
「さて、ライ。行きましょうか」
フイアンナはくすくす笑いながら、ライを促している。
並んで歩いていく二人をロンバルは止められなかった。楽しそうに笑うフィアンナを、ロンバルは久しぶりに見てしまったからである。
飛龍騎士に叙任されてからは一度も見た事が、いや四年前のあの日から、見なかった顔だった。
「フィー、わたしはそんなに面白い事を言いましたか?」
笑い続けるフィアンナにライは首を傾げてしまう。
「あなたは……」
フイアンナはライを見上げた。
「怖い方です」
「笑いながら言われても困りますが?」
苦笑したライだった。
ではまた、次回をお楽しみに