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ともに歩は 漆黒の騎士~フリオニア大陸物語  クナーセル編~  作者: 樹 雅
第2章 ともに歩は 飛龍の騎士
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第5話



「失敗したか……」


 報告を受けた男は、窓から見える庭を眺めて呟いていた。

 精魂込めて職人に作らせた庭は、男の自慢である。四季折々の花々が咲くように植えられた花壇は、一年中花が咲き誇り見る者の目を楽しませていた。

 庭から目を離して振り返る男の顔は、残念そうではなかった。跪いてい頭を下げる旅姿の騎士に尋ねていた。


「で、見失った。と言う事か……」

「申し訳ありません。一両日中には見つけ出しますので」

「ナセルで見失ったのに、か?」

「それは……」

「グラル閣下。そう責めるものではありません」


 部屋にはもう一人男がいた。

 若い精悍な顔立ちと知性を覗かせる瞳が、若者の印象を冷たいものにしている。そしてそれは、若者を一筋縄では行かない相手と認識させていた。


「絶好の機会を潰したのだぞ」

「機会は、またございます。ナセルに救いを求めても、国境にグラディア騎士団が集結している今、ナセルは取り合わないでしょう。行く当ても無い者が、どこに行くかなどは簡単に推測できます」

「心当たりあるのか、キリア」


 キリアと呼ばれた若者は、軽く頭を下げていた。


「国境付近には、グラデル騎士団長、キャドル騎士団長以下六千の兵が布陣しています。かりに、ナセルに救いを求めても、ナセルが動くには、その六千の兵をどうにかしなければなりません。なれば、かの者達はグラディア国内に戻ってくるしかありません。国内で味方を作ることでしょう。ゆえに、街道沿いの領主辺りでも見張っていれば、見出す事は出来るはず」

「なるほどな」


 グラルはキリアを見て尋ねていた。


「キリア、おまえはどう見る?」

「無駄足になるでしょう。誰も味方はいない、それを思い知る事でしょう」

「思い知る、か。キリア、私に対する者はいない、か?」

「はい。今のグラディアで、グラル閣下に対するほど剛の者はおりません」


 答えたキリアは、内心で笑いを抑えていた。

 無気力な女王、単なる野心家、日和見の貴族達、これで国が滅んでいないのが不思議なぐらいである。グラディアの現状を知った時、そう思ったものだ。

 目の前の利用しやすい野心家に取り入る事など、造作もなかった事でも呆れてしまっていたのである。

 そんな思いをおくびにもださずに、キリアは尋ねていた。


「ところで、閣下。捕縛しなくてもよいのですか?」

「必要ない。利用価値が無い者を生かしておくのは、意味の無い事だからな」

「そうですか……」

「ん? なにか含みがあるようだな」

「閣下。閣下のお考えを反対する訳ではありませんが、まだ利用価値がある者と思いまして……」

「ほう。まだ利用価値があると言うのか、キリア」

「はい。大した事ではありませんが、閣下がグラディアを治めるつもりであるなら、他国への生贄は必要かと」

「生贄、な。どう利用しようと言うのだ」

「それは――」


 キリアの話を聞いたグラルは方針を変えて、その旨を配下へ指示を出していた。配下の騎士が部屋から出て行くと、グラルは感心したようにキリアを振り返る。


「おまえが、私の配下でよかった。そうでなければ、他の者に出し抜かれていた事だろう」

「過分なお言葉です。閣下」


 やんわりと頭を下げたキリアは、グラルの部屋から出て行った。廊下を歩くキリアの後ろに、黒ずくめの覆面をした男が音も立てずに近付いて行く。


「こちらの準備は?」

「ビイザ将軍、フィゼン将軍配下一万五千が、すでに本国を出立しております」

「早くて十日ほどか。では、グラル閣下の名で東のウイゼル砦の全軍を、西のエゼル砦に向かわせなさい。各国には、罪もなき女王陛下をナセルの暗殺者が殺害した。でいいでしょう」

「了解しました。王女の件も、こちらで処理しますか?」

「必要はない。その件は、我々ではなく、この国の者がすべき事だ」

「了解しました」


 その言葉を最後に、黒ずくめの男はキリアから離れると、影に潜むように消える。

 キリアは立ち止まり、息を吐くと窓の外を眺めた。

 二年がかりの計略が、最終局面に来ている事を実感する。

 実感したが、なんの感慨も浮かんでこなかった。キリアにとって、グラディア攻略は一つの区切りでしかない。

 王女の逃亡と言う不測の事態はあったが、それは修正の範囲内と言えた。王女一人ぐらいの行動で、計画が破綻する事はない。

 キリアは自分の立案した計画が、完璧ではないと知っている。ゆえに、自らが計画の先頭に立ち、状況を制してきたのである。本国にいれば、計画の修正などままならないと分かっていた。

 それがキリアを有能と言わしめ、本国でも一、二を競う策士の名を得ていたのである。


 それでもと、キリアは思う。


 自分を偽って生きていく事が正しいのかと。

 その答えは、まだ出ていなかった。


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