幕間1 ある酒場で
この幕間1は、漆黒の騎士第2章になるはずでした。ですが…物語が書けませんでしたので幕間にしました。
思い思いに騒ぐ酔いどれ達を後目に、一人フードを被った男が黙々と目の前の飯を掻き込んでいた。次々と皿を空にしていく姿に、近くのテーブルに座る者達は引き気味である。最後の皿をあけた男は満足そうにエールを一口飲んでうなづいていた。
その男の前に銀髪の若い女が座る。長い銀髪を頭の後ろでひとくくりに縛って楽しそうに笑みを浮かべる姿は目を引くものがあった。
「面白いうわさがあるんだけど?」
「うわさ?」
フードの男が首を傾げあようである。それに対して銀髪の女は笑みをたたえたまま言った。
「西の方にナセル王国という名の国があるんだけど、そこに悪逆非道の騎士がいるらしいわ。なんでも一地方領主の居城に住まう領民全てを惨殺したらしわ」
「それのどこがおもしろいんだ?」
「これだけなら、面白くもなんともないわよ。その地方領主ってのが古い神々を信仰する狂信者だったわけ。で、惨殺に至った経緯が、銀月の乙女を攫って生贄にしようとした事なんだって」
「ちょっと、待て」
フードの男が銀髪の女を止めた。
「銀月の乙女ってなんだ?」
「あ、そこなんだ……」
「いや、そこなんだといわれても意味が分からない」
「この大陸にほ色々な乙女の伝説があるわ」
「いろいろな乙女?」
フードの男の首が傾げられる。
「そう。炎の乙女、水の乙女、大地の乙女、などなどとね。まぁ、言ってみれば巫女のような者かな。で、その乙女達にまつわる伝説があるわけよ。曰く、一夜にして一国を焼き尽くした。不毛な大地を肥沃な大地に変えた。戦乱の時代を終わらせた。故に乙女には特別な力がある」
「……」
「今現在、確認できている乙女はナセル王国の銀月の乙女のみよ。つまり、大いなる力がある乙女は各国が何としても手に入れたいわけ。だけど銀月の乙女には情け容赦ない騎士がついている。しかも小城とはいえたった一人で殲滅したほどの実力者。うわさでしかないけど、確認できないうちはナセル王国に侵攻するのにどの国も二の足を踏むわね」
「ナセル王国はどの程度の国なんだ?」
「小国。だけどクナーセルで飛龍を要するただ一国、ゆえに滅びずに国を保っている」
「飛龍って、脅威なのか?」
首を傾げながらフードの男はいうと、銀髪の女の顔がぽかんとしたものにいなった。
「おかしな事をいったか?」
「おあかしな事って…あんた、何言ってるのよ。弓さえ届かない空を舞う飛龍をどうやって倒すのよ」
「忘れたのか? ヒゼリアでブラン達が使っていたバリスタを使えば飛龍だろうと墜せるぞ。それにな、いくら飛龍でも飛んだままなわけがない。地上に降りている所で飛龍を操る者を倒せばいいだろう。なのになんで脅威なんだ? 稀有な戦力だけど、それだけだろ」
フードの男の言葉に銀髪の女は再びぽかんとなる。
「どうした?」
「どう……って、あんたはそんな男だったわね……」
「?」
「まぁ、いいわ。で、あんたが興味がありそうな事は、それじゃないわ」
「飛龍じゃない?」
「そう。その残虐非道の騎士、そいつのうわさ」
「なんだ?」
「夜色の髪と瞳を持つ男」
フードの男が目を見張る。銀髪の女の顔がにやついていた。
「あんたと同じわけ」
「そいつの名は?」
「名前までは分からない。だけどその男は、こう呼ばれているわ」
――『漆黒の騎士』と。
もう一つ、幕間があります。
ではまた、次回をお楽しみに。




