プロローグ
完結していない「異形の戦士」とは違いこちらは「完結」させますので、どうぞしばらくお付き合いをお願いします。
また「異形の戦士」がなければこの物語も生まれなかったと言えます。
そして、楽しんでいただければうれしく思います。
――これが奈落に落ちると言うものか……。
どこまでも落ちて行く感覚が全身を覆っていた。
生きているのか死んでいるのかも定かではない。
暗闇に閉ざされた視界と、落ちると言う感覚しかなかった。
戦いの最中に吹き飛ばされて崖から落ちたはずだった。
地面に叩きつけられた衝撃は感じなかった。
落ちて行くと言う感覚は、その時までの間なんだろう。
――まあ、いいか……。
戦いに借り出された初めの日に決めた事があった。
戦うだけの日々になる事はわかっていた。
だから、いつ終わりがきてもいいようにと、覚悟だけはしていたのである。
今がその時なのだと思った。
未練が無いと言えば嘘になる。
不満だらけであり、ろくでもない生き方しかできなかった。
それでも、面白いと思える男と出会えた事は良かったと思える。
それだけは、感謝すべき事だった。
『面白かったか?』
ふと、疑問が浮かぶ。
――まあ、それなりに……。
苦笑にも似た思いが起こった。
どこまでも落ちて行く感覚に意識が飲み込まれて行く……。
身体に当る風と固い大地が、闇に飲み込まれたはずの意識を覚醒させた。
眼を開けるのか、そう意識が感じているのか判断ができずにいる。
「気が付きましたか?」
優しい女性の声が聞こえた。
眼の前に銀の髪と蒼の瞳が見え、口元には安堵したような微笑が浮かんでいる。
綺麗な女性だと感じた。
こんな人を見るとは、自分の想像力に苦笑したくなる。
この女性は人ではなく女神なのか、それとも天使なのかと思えるほど魅力的だった。
たぶん自分は死んだのだろう。
だから、こんな女性を見てしまう。
「ここは天国ですか?」
声が出る事に戸惑った。
「いいえ、違います。あなたは生きています」
首を振って女性は言う。
聞こえてきた言葉に、思わず身体を起こしてしまった。
生きている事が信じられなかった。
ではまた、次回をお楽しみに