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私とボクの瀉血デイズ。  作者: ***
エスケープ症候群
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 それから三回日が昇って二回日が沈んで水曜日の授業が全て終わったわけだけれども、ナツミはその三日間全く学校に来なかった。全く。一分も、一秒さえも。

 私はどうにかなってしまいそうだった。ナツミが姿すら見せないなんて、ナツミの皮膚の一平方ミリメートルすら見られないなんて。

 もともとナツミは誰ともつるまないタイプな上に、校内で堂々とクスリやったりしてるような奴だったから、三日も学校を休んだとなれば、しかもそれがどうやら無断欠席らしいとなれば、ナツミについての色々な噂が立つわけで、本当にバカらしい話だけれどそれは女子高生の中での摂理みたいなもんだから仕方無い。仕方無いんだけどやっぱりムカつく、とか言う私の感情は別にどうでもよくて、その噂によるとどうやらナツミは街を牛耳る不良グループ「蛇」とやらのリーダーを怪我させたか何かで「蛇」のメンバーたちに追いかけ回されているらしい。全くもってバカな噂だ。

「でも、今日も結局来なかったね。」

 鞄を持って椅子から立ち上がりながらタスクがそう呟いた。私も机の横に置いていた鞄を掴みながら、

「意外とホントにヤバいことに巻き込まれてたりして。」

「でもあの噂が本当だったらヤバいよ。」

 タスクは深刻そうな顔をでそう言った。タスクに深刻そうな顔なんて似合わねえよ、と笑ってやろうとしたけれど意外に似合っていて笑えないのが何だか悔しかった。

「俺、つい最近までその『蛇』ってグループに入ってたんだけど。」

「あー、あの何か決闘やってた奴ね。でもアレだ、タスクが暴れてるとことか想像出来無い。」

 バイクに乗ってオラオラ言いながら走り回ってるタスクとか想像 しただけで笑っちゃうぜ。いやでもバイクに乗るのは暴走族だから、別に「蛇」ってグループはバイクには乗らないのか? よく分かんねえ。けどナイフとかをポケットに入れて、コンビニの前で俯きながら座ってるタスクなら、何となく想像がつく。だってタスク根暗だし。まあそれはどうでもいいか。

「このグループは色々と自分らでけじめつけようとしちゃうところだから、もしかしたらナツミさん、どっか連れ去られて殺されるかも。」

「いやいやそれ超ヤバいじゃん。」

「だからヤバいんだって。」

「まあでも大丈夫だろ。」

 だって噂はあくまで噂であって、実際ナツミはそんな危ないグループに喧嘩を売るようなバカな奴じゃ無い。ナツミは何だかんだでしっかりした奴だから、大丈夫。私は早足で教室を出た。後ろからタスクが「早いよ」と言いながらついてくる。

「今日はナツミん家行って、何で休んでんのか聞いてこよう。」

 どうせナツミん家にはナツミしかいないから、突然押し掛けても問題は無いさ。

 ナツミがあんな不良娘に育ったのは、明らかにその家庭状況の所為だ。ナツミが七歳の時、父は女を作って家を出て行った。母は嘆き悲しみながらも、夫の代わりにナツミを強く愛した。そして強く傷つけた。ナツミの母親が求めていたのは、ただ依存できる相手だったのだ。ただ自分が振り撒く愛を受け止めてくれる存在、そして自分が振り撒くルサンチマンを受け止めてくれる存在。その役目をナツミは何年間もずっと必死に勤め上げていた。彼女の体はすぐ傷だらけになって、彼女の心もすぐに傷だらけになった。

 そんな歪んだ日々はしかしある日唐突に終焉を迎えた。母が男を作って家を出て行ったのだ。用済みになったナツミを放ったまま。ナツミに残されたのは、自分以外誰もいない広い家と、自分の人生を一人で考え直す時間と、そしてどんな生き方をするか自分で選択

する自由。そうして彼女は自分の人生を決めた。クスリやってエンコーやってボロボロになって這いつくばってやろうと決めたのだ。

 そんなのロクな人生じゃ無い。そんなのは分かってる。ナツミだって分かってるんだ。だけど、それでもナツミはそれを選択したわけで。

 それって悪いことなのかなぁ?

 やがてナツミの家の前まで歩いてくると、そこには見慣れない車が止まっていた。車の種類とか全く分からないんだけど、黒くて厳つい車。

「この車何なんだろ。」

 そう呟いた時、玄関の方から叫び声が聞こえた。何だようるせえな、とか思いながら振り返ると、何人かの男が暴れる女を引きずっていて、その女はよく見るとナツミだった。

「ナツミっ!」

 助けなきゃ。何か武器になるモノを探す。鞄、は大した武器にはならないな。足下を見ると石のブロックが目に入った。これだ。これで殴ったら多分気絶ぐらいはするだろう。腰に力を込めて、持ち上げる。意外と重いけれど我慢してそれを掲げて叫んだ。

「ナツミから手を離せ!」

 男たちは戸惑ったようにこっちを振り向いて固まった。私はもう一度、

「さっさと手を離――」

「やめて!」

 私の言葉を遮ったのはナツミの叫びだった。ナツミは酷く切羽詰まったような声でもう一度「やめて」と言った。

「悪いのは私だから。」

「何言ってんの、ナツミ!」

「キリもフルタも全然関係無いから。」

 関係無く無い、と叫ぼうとして彼女と目が合った。その目は何かを酷く訴えかけようとしていて、私は何も言えなくなる。

「だからお願いだから、あの二人を巻き込まないで。」

 それで私はナツミの思いを理解して、石ブロックを落としてしまう。落下した石ブロックは思ったより簡単に、真っ二つに砕けた。私の横でナイフを取り出していたタスクも、無言で歯を食いしばりながらそのナイフをポケットに戻した。

 私たちの目の前でナツミが車の中へと押し込まれていく。私もタスクも、それを見ていることしか出来無い。それが死ぬ程悔しかった。クソッ、ファック、死んじまえ。どうすりゃいいんだよ。どうにもならないのかよ。なあ分かんねえよ、どうして私たちだけがこんなに辛い思いをしなきゃならねえんだよ。神様の所為なんだったらその神様って奴を今すぐここに連れてこい!

 その時だった 。

 唐突にドサッと音を立てて、男たちの内の一人が崩れ落ちた。

「女の子いじめとかよくない!」

 鉄パイプを担ぎながらそう叫ぶ仁王立ちの少女は、ヒサだった。

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