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私とボクの瀉血デイズ。  作者: ***
ヴァイオレンス症候群
21/56

20

 その夜、私は帰り道が分からないからタスクの寝顔を見つめながら路地の壁にもたれて眠った。腰を痛めそうだな、とかも思ったけれど、そんなことを気にしていても仕方が無いし、タスクの寝顔も見れるわけだからそれでチャラにしてやることにした。まあ腰を痛めても別に問題は無いさ、誰かとセックスするわけでも無し。

 それから目を瞑って、夢を見た。

 そこはとても穏やかな世界だった。随分長い間、夢らしい夢なんて見ていなかったから少し戸惑ったけれど、私は「ああこれは夢だな」とか思いながら、割と冷静に夢の世界で立っていた。真っ白だった。そこにはユリがいた。ユリは最後に見たときから一ミリも変わらず、死ぬ程綺麗だった。死ぬ程。

 ユリは優しく微笑んで口を開いた。

「お母さんは、神様なの。」

 いつか聞いたような台詞。確かそれは、彼女が生ける屌になって随分経った頃、確かいなくなる一カ月程前のことだったと思う。その頃にはもうユリの声を聞く機会などほとんど無かったから、私は耳に安ピンでピアス穴を開けようとしていた手を止めて、神経を彼女の声に集中させた覚えがある。中途半端に刺さったままの安ピンが少しだけ痛かったような覚えも。思い出したら痛くなってきたぜ。

「お母さんは、神様なの。」

 あの時ユリは一度だけその言葉を言って、それからまた何も喋らなくなってしまった。どこを見ているかも分からないような虚ろな目に戻ってしまったのだ。

 だけど。その声を発している時の彼女の表情は珍しく感情を含んでいて、その感情がどんな感情なのかは未だに確信に至ってはいないけれど、ただとにかく切迫した何かだった。

「お母さんは、神様なの。」

 もう一度、目の前のユリが消えそうな声で呟いた。微笑んだ顔のままで。私は声を荒げて、

「あんな屑野郎が神様なわけねえよ!」

「それでも……ううん、それだからこそ、神様なんだよ。」

 意味が分からなかった。何であんなクソババァが神様なんだよ。神様と対極の存在じゃねえか。

 けれど、私が噛みついたって、ユリはただ静かに微笑んでいた。全てを悟ったような顔をして、ただ静かに。

「そりゃねえよ。」

 私は呟いた。そりゃねえよ。意味分かんねえよ。教えてよ。私は色々ぐちゃぐちゃで滅茶苦茶で大変なんだよ。

 けれどユリは微笑むだけで、何も言わなかった。

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