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剣聖令嬢~戦場の薔薇は、崩壊へと進む帝国で足掻く~  作者: Umi


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第2話 ジャンヌ

 ――帝国歴325年9月3日 帝国領西部


 孤児院。

 それは戦争など様々な理由で孤児となった子供たちが集められ、シスターに勉学や家事などを学んで、世界へと羽ばたいていく場所だ。

 

 帝国領西部に位置するとある孤児院にて、生まれたばかりだと思われる赤毛の赤ん坊が捨てられていた。


「シスター!」


「どうしたんですか?」


「門のところで赤ちゃんが泣いています!!」


「本当ですか!?」


 礼拝所の掃除を行っていたシスターは、孤児最年長でリーダー的存在でもあるライアンの言葉に驚きつつも、直ぐに門へと向かう。

 門に近付くにつれて、赤子のものと思われる鳴き声が微かに聞こえ始め、門へと辿り着くと立派な赤子の鳴き声が響いていた。


「まだ生まれたばかり……ライアンは戻って、ミルクの用意をお願いします」


「はい!」


 シスターのことを案内したライアンは、走って建物へと戻っていく。

 残されたシスターは赤毛の赤子を抱き上げる。抱えられた赤子はとても小さく、シスターからすると生まれてから数日しか経っていないように見えた。


「こんな小さな赤子を捨てるなんて……親の顔が見てみたい」


 先刻、ライアンに指示を出した際の美しい声とは打って変わり、今シスターが吐き出した声はとても冷たく、人の腕に抱えられて泣き止んでいた赤子が再び泣き出す程度には、冷え切っていた。


「はい、ミルクです」


「ありがとうございます」


 建物内で待っていたのは、ミルクの準備を終えていたライアンと、野次馬根性で集まって来ていた孤児たちだ。

 今のシスターには注意している余裕はなく、赤子の面倒を見るので手一杯だった。


「ミルクですよ……飲んでくれないと、死んでしまいます」


 赤子を救いたいというシスターの気持ちが、言葉を通して赤子にも届いたようで、ゆっくりとミルクを飲み始める。

 ミルクを飲む赤子の姿は、まるで天使のようで、子を捨てた親への怒りを孕んでいたシスターの心も浄化されていった。


「可愛いですね……ほら、ゲップを」


 シスターが何度か背中を叩くと、げふっと赤子がゲップした。

 その手際の良さを見た孤児たちからは、おーという歓声が聞こえて来る。


「ほら、勉強の時間ですから、皆さんは勉強に戻ってください。赤ちゃんのお世話は私がするので」


「「「はぁーい」」」


 若干の不満を感じていそうな子供たちだったが、素直に勉強部屋へと帰っていった。

 礼拝所に残っているのは、シスターと赤子のみ。


「この子の名前はどんなのが良いでしょうか……みんなから募集するのもいいですね。人の名前を考えるのは、難しいことですし、今のうちに経験しておくのは大切ですから」


 シスターの声は、独り言が漏れ出ているわけではない。

 赤子に物心がなかろうが、言葉は届くというのが彼女の考えであり、言葉も知らない赤ん坊の頃から、話しかけることが健やかな成長には必須だと考えている。


 シスターの考えを肯定するかのように、彼女が話し終えるのとほぼ同時に、赤子はニパァと笑う。そこに喜びの意が込められているかどうかは、受け取り手次第だが、当然シスターは喜んでいるのだと受け取った。


「貴女もそう思いますか。これから家族になるみんなで、貴女の名前を考えますから、待っていてくださいね」


「――」


 赤子は再び笑ったような表情を見せる。

 シスターも釣られて笑みを浮かべ、赤子のことを優しく寝かしつけた。


 勉強時間が終わり、赤子が再び目覚めた頃。

 シスターは赤子を抱きながら、子供たちの前に立っていた。


「この時間で、この子の名前を決めていきたいと思います」


「「「はい! はい!」」」


 子供たちの手が一斉に上がり、自分の意見を出したい子供たちによる「はい」の大合唱が始まる。

 そんな子供たちに対し、シスターはため息が漏れそうになるのを慌てて止め、子供たちを制しに入る。


「ほら、そんな慌てなくても全部聞きますから、前から順番に聞いて行きますね」


「「「はぁい」」」


 子供たちは素直に食い下がる。

 それは、シスターが子供たちの意見を最後まで聞き、時間だからと打ち切るような人ではないことを子供たちは知っているからだ。


「じゃあ聞いて行くよ」


「――」


 子供たちは自分なりの名前を発表していく。

 だが子供たちが考えた名前は、知っているカッコいい言葉を名前にしたものや、極端に可愛すぎるもの、名前には適していないものなど、大人であれば選ばないような名前ばかりだった。


「じゃあ最後にライアン」


「そうですね……ジャンヌとかどうでしょうか?」


「ジャンヌ……それは初代剣聖様から取った名前ですか?」


「は、はい! 初代剣聖様のように強く育って欲しいので!」


「「「おぉー」」」


 子供たちの尊敬の眼差しが、ライアンへと集まる。

 初代剣聖を知る知識量と、赤子のことを考えていることに対する目線だ。

 しかしライアンの中では、大きな焦りが生まれていた。


(初代剣聖様ってジャンヌって名前なのか! 知らなかったのに、もっともなことを言って、納得もされちゃったから、剣聖について勉強して、嘘だっていうのを隠し通さなくちゃ!)


 ライアンは初代剣聖の名前がジャンヌということを知らずに、ジャンヌという名を提案していた。だがシスターから初代剣聖だと聞き、気付いた頃には口から出まかせが出てしまっていた。


 ライアンは一度ついた嘘を隠し通すため、彼は剣聖に対する知識を増やす必要ができてしまった。今後、歴代剣聖について勉強していくのだが、その勉強はやがて剣術への興味へと変わる。それが彼の人生を変えることになるのだが、今はまだそのことを知る者はいない。



ライアン

後に騎士爵を得る。



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