第八話・第二の偉業【旧校舎を根城にしているハト軍団を追い払え】
学園長室でペイペイが、マドカたちに言った。
「【旧校舎を根城にしているハトを、追い払ってもらいたい】」
「はぁ? ハトってあの神社とかにいるハト?」
「そうだ、あのハトだ」
ピコピコ音をさせて部屋を歩き回って、考えていたマドカが言った。
「そんなもん、ハト業者に頼めば」
「ハト業者ってなんだ……さっさと行け」
◇◇◇◇◇◇
旧校舎に入ったマドカたちは、ハト軍団が根城にしている場所へと向かう。
歩きながらゲンが言った。
「なんか、幽霊とか地縛霊が潜んでいたり、こっそりとロックガールが楽器練習していそうな場所だな」
答えるマドカ。
「ロックガールが、楽器を掻き鳴らしていたら、幽霊の方が逃げていくだろう……音撃で祓われて」
「確かに」
一行はハト軍団が住処にしている、図書室の扉前にやってきた。
「ここだな、学園長の話しだと、書籍が少し残っているって話しだけれど」
ゲンが扉を開けた瞬間、書籍棚に止まっていたハトたちが、一斉にギロッと赤い丸目をマドカたちに向けた。
フンで汚れた本棚と書籍……ハト軍団の中で、ひとまわり大きいハトが喋った。
「なんだ……おまえ……たちは」
「うわぁぁぁ⁉ 失礼しました!」
恐怖でマドカたちは逃げ出した。
◇◇◇◇◇◇
学園長室に駆け込んだマドカたちが、ペイペイに詰め寄る。
ゲン。
「ハトが喋ったぞ!」
マドカ。
「どうして、喋るハトがいると言わなかったんだ!」
ユーロ。
「あのハトさんたちは、食べてもよろしいのですか?」
ドルドル。
「本棚と書籍がフンだらけだった……あれは掃除をしないと、不衛生だ」
ペイペイは、ペットボトルのお茶を一口飲んで、平然とした口調で言った。
「喋るのはボスハトの一羽だけだ……図書室にあった本を読んで人間の言葉を覚えた……九官鳥やオウムみたいなもんだ……気にするな」
「気にする! なにかハトを追い出すヒントをくれ」
「そうだな、ハトの豆エサを体に付けて、ハトを油断させれば良くねぇ……さっさと、ハトを追い払ってこい」
◇◇◇◇◇◇
マドカたちは、リベンジで再び、旧校舎の図書室扉前にやって来た。
ゲンの格好は。
頭には工事現場のヘルメット。
ハトの攻撃から、両目を守るためのゴーグルをして。
粉塵を吸わないように防塵マスク。
体の各所にプロテクターを装着していて。
ハトの攻撃を防ぐ盾と、捕獲網を持っていた。
ゲンの体に貼られた粘着両面テープに、ハトの豆エサを振りかけてマドカが言った。
「これで、バッチリ! エサを求めてきたハトを捕獲したり、盾を振り回せばハトは図書室から逃げていく」
「本当かよ……不安しか無いんだけれど……この装備で上手くいかなかったら、どうするんだよ?」
「その時は、一回り小さいゲンが中から現れてハトを追い払う」
ゲンの上半身が持ち上がり、一回り小さい同装備のゲンが「任せろ!」と、顔を覗かせて引っ込んだ。
「二体目のゲンが失敗したら、もう少し小さい三体目のゲンが……それも、失敗したら四体目のゲンが……それも」
「もういい、考えたら頭痛くなった……扉を開けろ、突入するぞ」
ドルドルが扉を開けて図書室に突入するゲン。
一斉にゲンの方を向いた凶暴なハトたちが、ゲンの体についているハト豆を狙って襲いかかる。
「痛てぇぇぇ、イテッ、イテッ、撤収!」
頭の中でシミュレーションしていたゲンの作戦イメージが、いとも簡単に極悪ハト軍団の容赦ない攻撃で破壊されたゲンは、悲鳴をあげて逃げ出した。
ドルドルが閉めた扉の向こうから、ボスハトのドス声で。
「おととい……きやがれ……ポッポーッ」
と、言うのが聞こえた。
◇◇◇◇◇◇
保健室で、マドカからキズの手当てをされているゲンが言った。
「なにがハト豆を体に油断させるだ……逆にハトが凶暴化したじゃないか、あいつら絶対にベロキなんとかの子孫だ……いててっ」
少し考えていたユーロが口を開く。
「あのぅ、わたくしが思うに昼間よりは夜の方が、ハトは鳥目ですから追っ払うには効果的だと思います……ここは、夜のジョブチェンジした、蛮族のわたくしに任せてもらえますか……考えがあります」
◆◆◆◆◆◆
夜になり、棍棒斧を担いだ蛮族王女化したユーロが、マドカたちの先頭に立って旧校舎に入る。
「オレに任せな、ハト軍団を旧校舎から追っ払ってやるぜ……そのための助っ人も連れてきた」
マドカたちの後方の暗闇には、無数の光る目と唸り声があった。
怖いもの知らずの蛮族ユーロが先頭に、ドルドルがライトで照らす夜の旧校舎を、進むユーロの目に。
階段の踊り場で、ライトの光りの中に浮かび上がる白い人影が見えた。
幽霊を見て悲鳴をあげるゲン。
「うわぁ! 出たぁ!」
長い黒髪が片方の目を隠した、女性幽霊が泣きそうな声で言った。
「見逃してください……ここを追い出されたら、他に行くところが無いんです……後生ですから、放っておいてください」
蛮族王女のユーロや、ドルドルや、マドカは特に気にする様子もなく幽霊の近くを通過する。
ユーロが幽霊に一言言った。
「居たかったら、好きなだけ旧校舎にいな……オレたちが、追い払うのはハトで幽霊じゃない」
ユーロの言葉に幽霊は、深々と頭を下げて消えた。
ビビるゲンが、マドカに質問する。
「怖くないのか? 幽霊だぞ?」
「なんで怖い? 今のは元々は生きていた人間だろう……無害な人間の成れの果てを、なぜ怖がる?」
ドルドルが続けて言った。
「異世界にいた時は、死霊使いが操る霊体にも、普通に遭遇していたからな……悪意の無い無害な霊体にも怖がる、現世界の感覚が理解できない」
歩きながら蛮族ユーロが言った。
「だいたい、生前に特殊な力も無かった人間が、どうして死んで急に人を呪い殺す力を得る……強い意志の力がある生きている人間なら、とり憑こうと近づいてきた幽霊を波動で弾き飛ばすぜ」
そうこうしている間に、一行はハト軍団が住処にしている図書室前に到着した。
棍棒斧を構えるユーロ。
「いつでもいいぜ、扉を開けな」
ドルドルが図書室の扉を押し開けると、ライトで照らされる図書室の中へ、ユーロとユーロが現世界で知り合って親しくなった。
ニャンコ軍団が、ハトに襲いかかる。
天敵のニャンコ軍団の奇襲に、夜目の効かないハト軍団はパニックになって、統制が崩れ旧校舎から逃げていった。
「ポッポッポッ!」
蛮族王女ユーロが、棍棒斧を上下させて、勝利の雄叫びをネコたちと一緒にあげる。
「ニャンニャンニャー」
こうして、旧校舎からハトが去り……代わりにネコ軍団が旧校舎に住み着いた。