第六話・異世界乙女たち……そのまんまの格好で学校に行く
転校日──マドカたち三人は、異世界人の誇りを持った異世界服のまま学校に行った。
剣を腰に提げてバスに乗ったり、通学路を歩いていても、誰も彼女たちを気にする者はいない。
ゲンの教室に異世界からの、転校生として紹介された三人が各自の自己紹介をする。
「ピコピコ山の戦士【銀座 マドカ】だ、父親がこちらの世界の人間で〝はろうぃん〟とかいう祭りの最中に銀座の〝すくらんぶるこうさてん〟という聖地から異世界に転移してきた……歩くとピコピコ音がするが、気にしないでくれ、強い衝撃を受けると体が細かく崩れるが、元に戻るから放置しておいてくれ」
「聖女王女&蛮族王女の【ユーロ】です……昼間はこの姿ですが、夜になると生肉をかじる蛮族に変わります──夕暮れの放課後に蛮族姿に変わった、わたくしを見ても驚かないでください……聖女の癒やしの力は半々の確率で効果があります」
「ガーディアンくっころ男女騎士【ドルドル】……時々、男のわたしが現れるが、双子の弟程度に思っていてくれ……イスに座ると屁のような音をこく、わたしと一緒に屁をこいてみませんか?」
三人の異世界乙女は、あっという間にクラスに溶け込んで人気者になった。
文武両立が基本理念の学園で身体能力が高い、マドカとドルドルは特に人気が高かった。
ドルドルは、バスケットボールの授業では次々と得点を決めていた。
ただマドカは、体質的に強い衝撃を体に受けると崩れてしまうので、ソフトボールでデッドボールに当たった時は大変な騒ぎになった。
男子生徒たちは、ちょっとケガするたびに保健室ではなく、ユーロの所に癒やしの治療をしてもらいに行った……が。
「いいのですか? わたくしの聖女の力で治療できる確率は五分五分ですよ……失敗すればキズが腐ります、さらにはキズ口から悪魔が出てくるコトも……それでも良ければ聖女の治療を」
その言葉を聞いた男子生徒は全員、躊躇して保健室に向かった。
◆◆◆◆◆◆
転校してから数日後──三人がだいぶ、学園生活にも慣れた頃、校内放送でマドカ、ドルドル、ユーロとゲンが学園長室に呼ばれた。
学園長室に入ると、学園長のイスにフードをかぶって後ろ向きに座っている学園長の姿があった。
イスに座っている背中を向けていた人物が言った。
「よく、ここまで辿り着いたのぅ……その努力は褒めてやろう」
クルッとイスを回してこちらを向いた人物の顔には、鼻梁を横切る縫合線……赤と青のオッドアイ。
マドカが叫ぶ。
「呪法師ペイペイ!」
「そうじゃ、儂じゃ……この学園の学園長も兼任しておる」
マドカとドルドルが剣の柄に手をかける、
ペイペイは落ち着いた様子でペットボトルのお茶を飲んで言った。
「慌てるな……呪いはいつでも解ける、儂がその気になればな……少しこちらの世界も楽しんでみないか、それから呪いを解いて異世界に帰っても問題は無いだろう……異世界へ通じるトンネルのカギは、旧友の変なティーシャツを着ている魔法使いの男に渡してある」
ペイペイは、ゲンを指差して訊ねた。
「お主……儂を見た第一印象はどうだ? 見た目は幼女だが、それなりの人生経験は積んできている……若者の率直な感想を聞きたい」
幼女にまったく興味が無い、ゲンが鼻の穴をほじくりながら言った。
「チビだな」
顔を真っ赤にして激怒するペイペイ。
「おちょくっておるのか! おまえにもチビの視線を味合わせてやる!」
ペイペイの赤と青の目が、交互に点滅する……同時にペイペイの体から、カンカンカンという遮断機音が聞こえてきた。
危険を察知したマドカがゲンに、向かって大声で言った。
「マズい! ゲン逃げろ!」
黒ギャルの人頭杖を構えるペイペイ。
「もう、遅いわ!」
ペイペイの両目から発射された光りが、ゲンに命中する。
両目を見開いた黒ギャルの首が、笑いながら言った。
「キャハハハッ、当たりぃ【マトリョーシカの呪い】発動」
ゲンが自分の上半身を持ち上げると、中から一回り小さい鐘暮 ゲンが現れた。
そのゲンが、上半身を持ち上げると次々とサイズが異なるゲンが出てきた。
最後に立ち上がったネコくらいの大きさまで、小さくなったゲンが腰を振った。
ネコサイズのゲンが言った。
「なんだ? ちっちゃくなっちゃった?」
ネコサイズのゲンが、今度は逆に大きいゲンをかぶって元の等身サイズにもどる。
それを見たペイペイが言った。
「どうじゃ、下から目線の世界を味わって思い知ったか……お主の呪いも、異世界から来た者と協力して儂が出す難問や難題、学園や町の問題を全部解決したら解いてやろう」
マドカが聞き返す。
「難問や難題や、町の問題?」
「そうじゃ、いくつあるかはわからんがな……十二の偉業で終わるか、百の偉業まで到達するか……まっ、現世界を楽しめ」