第五話・あたしはこうしてペイペイから呪われました
ゲンの額に張りついた矢文の吸盤を、マドカがキュポーンと引っ張り抜いて、矢に巻かれていた手紙を外して広げる。
手紙には、魔法使いのおっさんの下手な字で『三日後にゲンの学校に転校生として、入り込め──ゲンのクラスに入れるように手配しておく……イケてるおっさん』と、書かれていた。
蛮族王女が冷蔵庫から持ってきた、生肉を食べながら言った。
「オレも現世界の学校とやらに行くのか……現世界には、どんな獲物がいるのか楽しみだぜ」
胡座をかいた、女ドルドルが言った。
「異世界の格好で学校に行っても、大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう……ところでゲン、さっきあたしたちが、どうして呪いにかけられてか聞いたな……ここらで、自己紹介がてら、呪いをかけられた経緯を話さないか……呪い話で」
「賛成!」
最初にマドカが話しはじめた。
「あたしは、呪法師たちが作ったダンジョンを探索していた……そのダンジョンに、ペイペイがいた」
「ダンジョンに呪法師が⁉ なにをしていたんだ?」
「呪術ミミックを大量生産していた……フタを開けたら、牙が生えた口で犠牲者の首を食いちぎって、転生の呪いがかかる……とんでもない化け物アイテムだ」
ドルドルが続けて質問する。
「その、大量生産されていた呪術ミミックは、どうなったんだ? なんのために量産していたんだ?」
「ダンジョンを造る者に販売する目的でペイペイは、作っていたらしい……魔王とかに」
「それが、あたしが背後からこっそり近づいたから、ペイペイの計画はダメになった」
「どうして?」
「あたしの気配に気づいて振り返ったペイペイのビックリ声に驚いた、呪術ミミックの大半がダンジョンから逃げ出して……ノラミミックになってしまった……呪法師ペイペイ大激怒、たかが、剣を振りかざした姿を見て声をあげるなんて度胸ないな」
「それで、怒ったペイペイから呪いをかけられたのか?」
「あぁ、背後からの足音ですぐに接近がわかるように【ピコピコの呪い】を、かけられてしまった……あたしの呪い話しは終わりだ、次の人」
ドルドルが話しはじめる。
「わたしが呪いをかけられたのは、町の食堂だ……食事をしていた席から、少し離れた席でペイペイが背中を向けて、蒸かしたイモを食べていた」
マドカが聞き返す。
「イモ?」
「金が無かったのだろう……そのペイペイが屁を漏らした」
「へーッ」
「わたしは思わず『ババァが屁をこいた』と……うっかり言ってしまった、その言葉を聞いたペイペイが激怒して『誰だって屁くらいするわい! おまえも屁っこき娘に変えてやる!』と……【ブーブーの呪い】を……以上だ」
最後に蛮族王女のユーロが話す。
「オレが呪いにかけられたのは、従者数名を連れて聖女王女の姿の時に、城内の広場にハイキングで来ていた時だ……庶民も気楽に入れる広場でペイペイが、肉焼いて食ってやがった……その肉がまだ生に近い状態だったのを見た聖女のオレが」
ここで、ユーロは頭を掻く。
「オレが『あらぁ、生肉を食べている野蛮人ですわ、わたくしなら絶対食べませんわ』と言ったのが聞こえて……『これは、レアな焼き加減っていうんだよ! おまえも生肉を食べる体に変えてやろうか!』と激怒したペイペイから【ジョブチェンジの呪い】を、かけられちまったぜ……参ったぜ」
呪い話しを聞き終わった、三人が「口は災いだな」と、互いを慰めあった。
三人の話しを聞いていた、ゲンがニヤニヤしながら言った。
「大変だなぁ、心配するな……オレが胸のサイズ別に愛して、愛情を注いでやる……なんたって、オレは世界中の美女を愛する……」
マドカが近くにあったヌイグルミを、ゲンに向かって投げつける。
「さっさと、寝ろ!」
◆◆◆◆◆◆
「ぐぎゃぐぁぁ!」
翌朝──三人で一つの部屋で眠っていた異世界乙女たちは、ゲンの断末魔に近い悲鳴で目が覚めた。
カーテンを透して室内を明るくする朝日の中で、眠い目を擦りながら上体を起こした聖女ユーロが呟く。
「朝からなんの騒ぎですの?」
悲鳴が聞こえた隣部屋に行くと、ゲンが汚部屋の床で股間を押さえて悶絶していた。
「いてぇぇぇ! なんだコレ? ぐぎゃぁぁぁ!」
異世界乙女たちが、強引にゲンの下半身を脱がして見ると。
ピ──ッの根元に、孫悟空が頭につけている緊箍児のミニサイズの輪っかがハメられていて、ゲンのピ──ッに喰い込んでいた。
悶えているゲンを横目に、壁に張りついた吸盤矢文を発見したマドカは、矢の文を広げておっさんの手紙を声を出して読む。
『ゲンが、女の子に変な気持ちを抱かないように……こっそり、生きているリングをゲンの息子にハメておいた……ゲンは、妹のフランにさえ欲情する変態男だ……注意しろ』
マドカが読み上げた、手紙の内容を聞いたゲンは額に脂汗を浮かべて言った。
「あの、おっさん! 夜中にオレのピ──ッを見たのか⁉ どうやって部屋に入ってきた? いててッ」
ドルドルが冷めた目でゲンの、押さえた股間を見ながら言った。
「魔法使いだから、ホウキにでも乗って来たじゃないか」
「そんな、ハーフパンツ姿で変なティーシャツを着た魔法使い親父がホウキに乗っている姿なんて見たくねぇ! あっ、萎んだら痛みがひいてきた……今のうちに」
ゲンは、マドカたちに背を向けるとパンツの中に手を入れて、ゴソゴソと手を動かして、金色の小さなリングを引っ張り出してゴミ入れに捨てた。
「これで、大丈夫……」
ゲンが安堵した瞬間、ゴミ入れに捨てた金色のリングがピョコンと跳ねて、ゲンのパンツに潜り込むと定位置に戻った。
「わぁ! また、オレのピ──ッに!」
マドカが言った。
「懐かれたようだな……リングに」
「こんなのに、懐かれても嬉しくねえょ!」