第三話・現世界の庶民の家にホームステイ
ファミレスを出て、歩道を歩いていると目の高さを左からみぎへと、ネコくらいの大きさのベビードラゴンが、パタパタとコウモリの翼を羽ばたかせて横切って行った。
ベビードラゴンが空を飛んでいても、現世界人は誰も驚かない。
魔法使いのおっさんが言った。
「クモの巣のように張られている認識変換結界の力で、ベビードラゴンはノラなネコと同じ感覚だ……ネコを見ても、いちいち驚かないだろう」
周囲を飛び回っているベビードラゴンを見て、一人だけ声をあげて歩道に座り込んだ人物がいた。
「うわぁぁ? なんだ、アレ……どうして誰の騒がないんだ?」
少しイケメン寄りの私服の男子高校生だった。
男子高校生は、ビルの向こう側を歩いている一つ目巨人の姿を見てまた悲鳴をあげる。
「どうして、あんなモノがうろついているのに、誰も気にしないんだ! 一週間前から変なモノばかり気になって、頭がおかしくなりそうだ」
男子高校生は、マドカたちの、異世界服装にも一般の現世界人とは、違った反応をみせた。
「あんたたち、何なんだ? コスプレか? その剣本物か?」
魔法使いのおっさんが男子高校生に訊ねる。
「名前は? なんて言うんだ」
名前を聞かれて、途端に元気になる男子高校生。
「鐘暮 ゲン! この世の美人すべてを愛する男だ……ブスはいらない」
魔法使いのおっさんが呆れた口調で言った。
「おまえ、今の発言でかなりの人数の女性を敵に回したぞ……コイツの家にホームステイする、家に案内しろ」
「なんで、オレの家に? あんたら誰なんだ?」
「ゴチャゴチャ言っていないで、彼女たちを家に案内しろ……おまえの運命は、魔法使いのオレに握られているんだよ」
「なにぃぃ?」
◆◆◆◆◆◆
マドカと魔法使いのおっさんは、ゲンの家の玄関からズカズカと家に上がり込んだ。
ゲンが必死に四人を止める。
「なんなんだよ、あんたら! 勝手に人の家に入り込んで! 警察呼ぶぞ!」
ゲンの声を聞いた、ゲンの母親のリラがジャガイモの皮を剥きながらキッチンから、顔を覗かせる。
「ゲン、帰ったの? その人たちは?」
一瞬、キョトンとした表現の母親は、魔法使いのおっさんが見せたスマートフォンの画面を見た途端に、笑顔でマドカたちに言った。
「ホームステイの方々ですね……お待ちしていました、二階に空き部屋がありますから、自由に使ってください……息子のモノが置いてありますけれど、邪魔なら処分してくださいね」
母親の言葉に慌てるゲン。
「ちょっと待て、母さん……確かに空き部屋は、二つあるけれど三つ目の部屋は、オレの部屋なんじゃ?」
母親が何かにあやつられている、口調で言った。
「ゲン、あなたは今日から犬小屋で寝起きするのよ……ホームステイの方々に、部屋を明け渡すのは当然でしょう」
「そんなぁ、妹のフランの部屋は? オレの部屋から廊下を挟んだ奥の部屋は、どうなるんだ?」
その時、ゲンの一歳下の妹のフランが家に帰ってきた。
「たっだいまあぁ……あぁ、かっだりぃ……その人たちは?」
魔法使いのおっさんが、フランにスマートフォンの画面を向けるとフランの態度は一変した。
「わぁ、ホームステイのお姉ちゃんたちだ! お待ちしていました」
親しげな妹のフランに、兄のゲンは怪訝な表情をする。
魔法使いのおっさんが、キッチンまで入って。
勝手に冷蔵庫を開けて、中にあったソーセージを勝手に食べながら言った。
「それじゃあ、オレもホームステイさせてもらうかな……妹は今日から兄と一緒に犬小屋で寝泊まりだ」
母親のリラとフランが、ソーセージを食べている魔法使いのおっさんを睨みつける。
「あなた……誰です、勝手に家に上がり込んで……貧乏神ですか?」
「不審者! 家から出ていけ!」
魔法使いのおっさんは、母親のリラと妹のフランから、家の外にほっぽり出された。
魔法使いのおっさんを家から追放した母親が、マドカに向かって、にこやかな笑顔で言った。
「ちょうど、カレーを作っていたところです……今日はカレーパーティーですね」
フランがマドカたち、三人に抱きつく。
「わーい、お姉ちゃんたちとカレーパーティーだぁ!」
ドルドルの姿が男に変わる。
目が点になるフラン。
「えっ、お兄ちゃん?」
母親のリラが瞳からホワイトが消えた……少しボーッと顔で、微笑みながら言った。
「そうそう、お兄ちゃんもホームステイで、来るコトになっていたわね」