第十五話・第九の偉業【土地の竜脈と協力して地上げ屋を撃退しろ】
マドカは学園長室に入る前に、鼻をクンクンさせて今回の料理を当てにきた。
「この匂いは……わからない、薄っすらと前世の記憶にあるような、無いような」
ドアを開けると、学園長のペイペイは丼モノを食べてた。
ペイペイが言った。
「学園のちょい危機だ、この【土地の竜脈と協力して地上げ屋を撃退しろ】」
学園長テーブルの後ろから、体長二十センチほどの和製竜が力なく現れた。
竜の背中には、小さな木の杭が刺さっている。
「その、和テイストの竜は?」
「この学園の敷地内を流れる竜脈じゃ……うっかり、竜脈を途切れさせる杭を背中に打たれてしまってな……力が弱くなっておる、この弱った状態で杭を抜くと死ぬ」
ペイペイの話しだと、学園敷地の一部に地上げ屋が入ってきて、囲いの杭を打ち込まれてしまったらしい。
「地上げ屋が嫌がらせを進めている土地は、学園のほんの一部だが……敷地が欠けるのは風水的に災いが起こる……なんとか、地上げ屋を敷地内から叩き出してくれ」
「そんなコトして法的な問題は?」
「いざとなったら、呪術で疫病を流行させて、パンデミックで地上げ屋を黙らせて」
「そういうのはやめろ! わかった地上げ屋を敷地から撤退させればいいんだな」
ペイペイが丼モノを食べながら言った。
「ぜんぜん、儂が食べている丼をツッコまないな……ナニを食べているかとか?」
「別に興味ない」
「興味持て、儂が食べているのは世界の三大珍味〝ファグラ〟〝トリュフ〟〝キャビア〟の三大盛り丼だぞ……飯は特別に〝マツタケご飯〟と〝鯛めし〟のミックスだ……どうだ、うらやましいか」
「別に……遥か前世に嗅いだ記憶があるキノコの香りなんか、忘れたわい……マツタケ? なにそれ? 美味しいの?」
ペイペイは無言で、味が打ち消しあって口の中で味覚がグチャグチャになった、個性が強すぎる食材丼を食べた。
◇◇◇◇◇◇
マドカたちは、地上げ屋が占拠している場所に向かった。
ぐったりとした竜脈は、ユーロが抱いて。
校庭から少し少し木が茂った場所に、地上げ屋たちはキャンプしていた。
杭柵が打ち込まれた、場所の中で強面の地上げ屋たちは。
バーベキューをしたり。
テントの中で読書をしたり。
ギターを弾いたりの、思い思いの行動をしていた。
近づいてきたマドカたちを見て、地上げ屋の一人が言った。
「そこから、こっちは入ってきたらダメだぞ……この土地は地上げしているんだから」
マドカが質問する。
「地上げってどうやるんだ?」
「オレたちは、平和的な地上げ屋だからな……この場所に居座って、学園長が根気負けして土地を譲ってくれたら、重機が入って建設工事がはじまる……土地の霊を除霊してから、マンションが建設されるんだよ」
マドカが高校生があまり遊ばない地上げ地の、数種の遊具を横目で見て言った。
「土地の竜脈とか、樹木の精霊とか、遊具の付喪神は?」
「祓っても出ていかないヤツラは、強制的に土地から追い出す……竜脈が途絶えて災いが学園に及んでも、知ったこっちゃねえ」
マドカが怒りの、ピコピコスタンピングをする。
「そういうことなら、学園の生徒としては黙って見ているコトはできないな……あたしらが地上げを阻止する」
「止められるもんなら、止めてみな」
◆◆◆◆◆◆
夜になって、マドカたちは地上げ屋がいる土地にやって来た。
地上げ屋たちは、昼間の時よりも人数が増えていて、ワイワイとキャンプを楽しんでいた。
バーベキューと一緒に、作ったカレーとご飯を紙皿に盛っている地上げ屋の一人が、マドカたちに向って言った。
「ねーちゃんたち、カレー食うかい? その柵の外からなら食べてもいいぞ」
腹を空かせたゲンが、地上げ屋のカレー誘惑にフラフラと近づくのをマドカたちは抑える。
「ゲン、自分をしっかり持て! 地上げ屋の誘惑に負けたら終わりだ!」
夜の蛮族王女になったユーロが、首に巻いたぐったりした竜脈に向って言った。
「勝手に地面に打ち込まれた杭を引き抜いてもいいけどよ……ペイペイの話しだと、自力で抜く力を失っている竜脈は、地面の杭を抜いたら死ぬって言っていたな……面倒くせえ」
ドルドルが言った。
「くっころ! つまり、竜脈を元気にさせればいいわけだ……わたしに考えがある──マドカ、わたしの体を抱き締めてくれ……強く」
マドカが女ドルドルの体を抱きしめると、ドルドルは男になった。
ドルドルが樹木や錆びた遊具に向って言った。
「悔しくないのか、地上げ屋がいる場所の木は伐採されて、遊具は撤退されるんだぞ……悔しくないのか!」
ドルドルの言葉に、樹木の枝葉が風もないのに揺れて、錆びた遊具が勝手に動きだした。
精霊や付喪神からエネルギーが竜脈に流れ、活力を取り戻した竜脈が巨大な竜となって、夜空に伸びる。
それを見た、地上げ屋が少しビビる。
地上げ屋の一人が言った。
「ビビるな! こんな時のために用意した例のモノを出せ!」
白い布が取り払われると、布の下から数個の和太鼓が現れた。
「地上げ屋流『乱れ火炎太鼓』はぁっ!」
連打される太鼓の音撃が、樹木の精霊と遊具の付喪神を押して鎮める。
剣を引き抜いたドルドルが、満月の夜空に剣先を向けて言った。
「負けるな竜脈! 学校の付喪神たち、我らに力を!」
校舎内の物品に宿る付喪神が目覚める。
教室で揺れるテーブルやイス。
モップとバケツが踊り、スリッパが騒ぐ。
美術室から便所の花子が宿る、ヴィーナス像も応援に駆けつけて校庭を走り回る。
地上げ屋の太鼓は、激しさを増す。
「付喪神たちを押し返せ! オレたちは最強の地上げ屋だぁぁ! 音撃で弾き返せ!」
やがて、校舎自体が揺れ、強烈な付喪パワーが竜脈に注ぎれる。
巨大ロボットサイズにまで巨大化した、竜脈の背中から杭が抜けて吹っ飛ぶ。
抜けた杭は、回転しながら地上げ屋の太鼓を直撃する。
「ぐあぁぁぁ! 敵わねえ!」
吹っ飛ぶ、地上げ屋たち。
ゆっくりと立ち上がった地上げ屋が、口元の血を手の甲で拭い、笑みを浮かべて言った。
「やるじゃねぇか……その竜脈に免じて、この土地は諦めて退却してやる……だが、忘れるな──おまえたちが土地神をないがしろにしたら、その時はオレたちが容赦なく現れて地上げ屋をやるからな……社を作って土地神を祀れ」
そう言い残して、地上げ屋たちは荷物をまとめ、ゴミを片付けて去って行った。
◆◆◆◆◆◆
事務所に戻ってきた地上げ屋は、地上げの所長に報告する。
「ダメでした、あの学園の土地は落とせませんでした」
カイゼルヒゲを生やして。
神龍や猛虎がプリントされたアロハシャツと。
膝上丈までのハーフパンツを穿いてビーチサンダル姿の男が、焼きトウモロコシを食べながら隣に座る人物に言った。
「兄貴が言った通り、あの学園の土地には、手を出したらいけなかったな」
地上げ屋所長と、そっくりな顔をした双子の兄の魔法使いおっさんが、焼きイカを食べながら答える。
「だから、言っただろう……あの学園には、呪法師以外にも、異世界から来た強いヤツらがいるって」
実際の地上げ屋が実際に、どんなコトをやっているのか分かりません……この物語はフィクションです