第十二話・第六の偉業【夜になると校庭を走り回る……美術室のヴィーナス像をなんとかしろ】
学園長のペイペイに、学園長室に呼ばれたマドカたちに見せつけるようにペイペイは、うな重を食べていた。
ぶ厚い鰻を箸で口に運びながら、ペイペイが言った。
「【美術室のヴィーナス像が、夜になると校庭を走り回るって困るから、なんとかしろ】」
「いやいやいや、唐突に言われても……って言うか、なんで毎回見せつけるように食べている」
「偶然じゃ気にするな……脂が乗って美味いのぅ、特上のうな重は……この、ご飯に染みた継ぎ足しのタレが……特に美味い、山椒の粉も美味い」
「嫌がらせか! 鰻の匂い嗅がされて、こっちは腹が立っているんだよ! 一口食わせろ!」
「ウナギの匂いで飯食え……ウナギの代わりに、焼いたミミズを飯の上に乗せてタレかけて……」
「食えるか!」
◆◆◆◆◆◆
学園長室を出たマドカたちは、美術室に向かい夜になると走り出すヴィーナス像を見た。
両腕が無い、白いヴィーナス像の周囲をピコピコ歩き回るマドカ。
「特に変わったところはないけれど……本当にコレが夜になると走り出すのか?」
腰のギリギリの位置に布を巻いた、ヴィーナス像の胸を触りながらゲンが言った。
「なんでも、満月の晴れている夜にしか走らないみたいだぞ」
マドカは、ヴィーナス像の尻を触って、内部に機械とか入っていないか確かめる。
「なんか、学園の怪異っぽくなってきたな……これが霊的なモノが原因だとすると、学園幽霊の協力がいるな」
ゲンがヴィーナスの体に水性ペンで、落書きする。
「学園幽霊というと、あの旧校舎の?」
「他にいないだろう……見逃して旧校舎に住まわせているんだ、こんな時にこそ活躍してもらわないとな……今夜は満月だ、夜に美術室に集合」
◆◆◆◆◆◆
夜になった──蛮族王女に変わって美術室にやってきたユーロがイスに座り、棍棒斧の頭を床にコンコンと当てながら言った。
「夜になったぞ、さっさと走りやがれ」
ユーロの近くには気弱な旧校舎の幽霊がいる。
片方の目を髪で隠した幽霊が言った。
「本当にあたしなんかが、役に立つんですか?」
「幽霊ならヴィーナス像の中に何が入っているか、サーチできるだろう……やってくれ」
旧校舎の幽霊がヴィーナス像に開いた手の平を向ける。
「あっ、なんか像の中にいます……男の人です、怒っています」
「なに?」
いきなりヴィーナス像が、おっさん声で喋り出した。
「よくも昼間は、恥ずかしい落書きをしてくれたな消せ!」
マドカとドルドンとユーロが武器を構える。
マドカが言った。
「なぜ、夜走る……昼間走れ」
「アホか! 日中に校庭のトラックを走っていたら、目立ちすぎて学園の七不思議でも、何でもないだろう」
「確かに……」
マドカは、走るヴィーナス像を怒らせないように、慎重な質問をする。
「いったい、この像入っている……おまえはなんなんだ?」
「過去のコトは、はっきり覚えていないが……走るのが大好きな高校生のアスリートだったような気がする……満月の夜に全裸で走っていたような記憶が微かに」
ドルドルが情報収集をしてきた、メモを見ながら言った。
「数年前に、校庭で全裸で倒れていた親父が発見された……その露出親父の魂が、ヴィーナス像に入り込んでいるんじゃないか?」
ドルドルの説明だと、ブラック寄りな企業に勤めていた中年親父が、満月の夜にストレスを発散させるために露出疾走をしていて、心筋梗塞で倒れたらしい。
マドカが言った。
「なんとか転生ってヤツか」
その時、窓から差し込んできた月光がヴィーナス像を照らす。
ヴィーナス像に両腕が生えて、腰から下の布が短くなって美脚が現れる。
胸をあらわにした、ヴィーナス像が月光の中で疾走前の雄叫びをあげる。
「うおおおぉぉぉ! 走る! オレは走るぞぅぅ!」
走れメロスのような格好で、美術室を飛び出して、校庭へと向かう走るヴィーナス像。
女ドルドルが、首から下の甲冑装備をキャストオフして、身がるな格好になったドルドルがマドカに言った。
「わたしの体を抱き締めて男にしてくれ」
マドカがドルドルの体を抱き締めると、男ドルドルに変わる。
走るヴィーナスを追いかけて、美術室を飛び出していく男ドルドル。
蛮族王女ユーロも、棍棒斧をテーブルの上に置くと、軽く準備運動をしながら言った。
「オレも走るヴィーナス像を追うぜ、ついてこい旧校舎の幽霊……命名『便所の花子さん』」
旧校舎の幽霊こと──便所の花子さんと、勝手に命名されてしまった幽霊は泣きながら、空中を浮かんでユーロを追った。
ゲンの脳内に流れる軽快な、ウィリアム・テル序曲……月夜の校庭を走るヴィーナス像と、ドルドル&ユーロの追いかけっこがはじまる。
二周目で追いついたドルドルが、ヴィーナス像を捕まえて、校庭に押さえる。
抵抗する落書きされたヴィーナス像。
「放せ! オレはもっと走りたいんだ!」
「ここが、ゴールだ……成仏しろ」
息をハァハァさせながら、追いつくユーロと便所の花子さん。
ユーロが花子に言った。
「ハァハァ……ヴィーナス像の中に入っている親父の魂を抜け……年期が入った幽霊なら、そのくらいできるだろう」
「や、やめろ、オレはまだこの像で走って……うわぁぁ」
花子が像の中から、露出親父の魂を引きずり出す。
ジタバタ手足を動かしながら、天に昇っていく裸親父の魂。
最初は高さにビビっていた露出親父も、天界から迎えに来た。
全裸青年の天使たちを見て、安堵した親父の背中に天使の翼が生え……そのまま、笑顔の親父魂は天に昇っていった。
◆◆◆◆◆◆
こうして、美術館のヴィーナス像は、満月の夜に校庭を走ることはなくなった。
親父の魂を抜いたヴィーナス像の中には代わりに、便所の花子が入って新校舎での安住の場とした。




