第十話・第四の偉業【女子更衣室の連続下着紛失事件のナゾを解け】
またまた、マドカたちは学園長室に呼ばれた──学園長のイスに座って、出前で届いた特上寿司を食べているペイペイが言った。
「最近、【女子更衣室から頻繁に、下着が紛失する……そのナゾを解け】」
学園長室のドアが少しだけ、開いて隙間からボロボロになった、ちっちゃいミニマドカが、ピコピコ音をさせながら走ってきてマドカの足に融合した。
先日のカレー勝負で、河原でバラバラになった一体だった。
マドカが言った。
「特上の寿司かよ、あたしたちにも喰わせろ」
「ダ~メ、これは儂がとった出前だから、学園長の特権じゃ」
「ケチ……女子更衣室下着泥棒なら、あたしたちじゃなくて警察の方に」
「それで解決できたら苦労せん……さっさと行け──今回の事件が解決できたら、特別にスーパーで売っている値引きシールが貼られた、安い稲荷寿司をおごってやる」
「ケチ!」
◇◇◇◇◇◇
マドカたちは、被害にあった女子生徒から聞き取りをしてきた情報を持って。
いつもの中庭のガゼボに集まった。
最初にユーロが報告する。
ユーロは、この場合説明がパンツだと、他の穿くモノと混同して紛らわしくなるので、死語に近いが『パンティー』と表現すると断りを入れた。
「あたくしが、聞いた被害を受けた女子生徒の話しだと──水泳の授業で一人で生脱ぎをしたパンティーを、棚に置いたら……フワフワと空中に浮かんで、カギをかけていなかった更衣室のドアを開けて出て行ったそうです」
続いてドルドルが報告する。
「わたしが聞いた話しだと、夕刻に廊下に浮かぶパンティーから、スーハースーハーと臭いを嗅いでいるような音が聞こえて、科学準備室にパンティーが入っていくのを見たそうだ」
マドカが言った。
「話しを整理すると……見えないナニかが、バンティを盗んだ」
顔に平手打ちの痕が残る鐘暮 ゲンが、上半身を持ち上げて出てきた、一回り小さいゲンが言った。
「オレが集めた情報だと、放課後に校舎の廊下に浮かんで移動する──白い買い物袋を目撃した生徒も多いらしい……それも、科学準備室近くに集中していて、あと空中に浮かぶスマートフォンの目撃も」
ピコピコ歩き回りながら腕を組んで考えていたマドカが、にわか探偵顔で言った。
「ナゾは、なんとなく解けた……この校舎内に、下着紛失事件の犯人はいる! たぶん」
続けてマドカは、頬に平手の痕が残るゲンに質問する。
「顔の手の跡はどうした?」
「聞き込みで『今の君はパンティー履いているの? 確認させて』と言ってスカートめくったら、引っ叩かれた……オレが悪いのか?」
「うん、それは完全ににゲンが悪い」
◆◆◆◆◆◆
翌日──授業を抜け出したマドカたちは、科学準備室に向かった。
歩きながらマドカが、入手した情報を喋る。
「なんでも、科学担当の若い教師が一人……一ヶ月前から行方不明になっているそうだ、その時期と重なってバンティの紛失がはじまった」
ゲンが言った。
「もうそれは、犯人決まりじゃねぇ……オレには事件の真相が見えた」
一行が科学準備室前のドアに到着すると、ドアは開かなかった。
「なんか、内側から、つっかえ棒で押さえているような感じだな……科学準備室のカギを持っているのは、失踪した科学教師だろう」
ドアの上を見上げたマドカは、開いている小窓を発見する。
「あの、小窓から中に入れそうだな……どっちが入る?」
顔を見合わせるマドカとゲン、いきなりはじまるジャンケン。
勝ったのはマドカだった。
「よっしゃあ!」
ドアに激突してバラバラになったマドカたちが、ワラワラ、ピコピコとドアをよじ登って、小窓から準備室に入る。
つっかえ棒が外される音が聞こえ、ドアが内側から開く。
部屋の中を軽く見回して、ゲンが言った。
「早くドアを閉めろ……犯人はこの中にいる」
準備室の机の上には、昆虫標本のようにピンで留められて、数枚の額に入れられたパンティー標本があった。
その机の下にも、コレクションのように分類整理された、生活ゴミがあった。
ゴミとパンティーを見て、ドルドルが言った。
「犯人は几帳面な人物だ」
その時──準備室の物陰から、一枚の白衣コートが飛び出してきて。
ゲンを押し倒すと、ドアを開けて外に逃げ出した。
「透明人間だ! 下着泥棒の犯人だ!」
廊下を走っていく白衣コートを追うマドカたち。
「逃げ足が速い」
ピコピコ音をさせながら追うマドカは、白衣コートが、角を曲がるのを見た。
「あの先は、行き止まりだ!」
角を曲がった白衣コートは、行き止まりで浮かぶ。
「もう逃げられないぞ、観念しろ」
マドカがそう言った時──白衣コートがスルッと床に落ちた。
「消えた……なんて思うか!」
横の壁に体当たりをするマドカ、バラバラに散った体がミニマドカとなって床に散らばる。
ピコピコ……ピコピコ……ピコピコ。
その中で足跡だけが、ミニマドカの群れの中に浮かび上がった。
マトリョーシカの呪いで、次々と小さくなるゲンが言った。
「犯人は、そこにいる……真実は透明人間」
透明人間が立っている、顔の位置から女性の声が聞こえてきた。
「ごめんなさい……悪気はなかったんです、本当にごめんなさい」
「女性⁉」
「そう言えば、失踪した科学教師は、女性だったような」
◇◇◇◇◇◇
白衣コートの透明人間は、学園長室に連れてこられて。
そこで真相が語られた。
「偶然だったんです……偶然に透明人間になれる薬が完成しちゃったんです」
「それで、自分の体で人体実験をしてみたんじゃな」
「はい」
「更衣室から下着を盗んだのは?」
「薬の副作用で女性の下着に対して、なぜかムラムラしちゃって……それで、つい……ごめんなさい」
「食べ物とかは、どうしていた? 透明で外に買い物していたのか?」
「スマートフォンだけで決済できる、無人のコンビニを知っていたので……防犯カメラには姿は映らないので、堂々と素っ裸で買物を」
「立派な露出狂じゃな……さて、犯人がわかったからには、仕置をせねばなるまい……そこを動くな……マドカたちは少し下がっておれ」
ペイペイの両目が点滅して、カンカンカンという音が聞こえてきた。
ペイペイの目から呪いの光りが、透明人間に向けて発射される。
見えなかった透明人間の体が、可視化されて裸の女性が現れた。
驚く女性科学教師。
「姿が見えるようになった?」
「発達した呪術は科学を越える……今回の事件は、科学的な好奇心が引き起こした事件じゃ……薬の副作用から下着を盗んだのだから……無罪じゃ、また生徒たちに授業をしてくれ」
女性教師は深々と学園長に頭を下げた。
◇◇◇◇◇◇
ペイペイが、値引きシールが貼られた安い稲荷寿司を、マドカたちにご馳走しながら、恐ろしい真実を伝えたのは数日後だった。
「透明人間の女性教師にかけたのは、あくまで呪いじゃからな……見えるようになった姿は永遠に消えん──たとえ死んで火葬になってもな、燃えずに肉体が残る」




