アクト!!! 本編#1
「はぁ…。入っていいのかな…?」
こころは小さな声で、ぽつりと呟いた。場所は特別教室とかが集まる、第二校舎一階の演劇部部室前。人の気配はない。真新しい制服。あまり着飾っていない髪。こころは新入生である。
「あなたも仮入部希望?」
「わぁぁ!?ハイっ」
いきなり背後から声がして、驚きに声が裏返る。
「もしかして先輩ですか?」
「いえ?私も仮入部に来たの。1年生よ。」
「あっ、同級生…」
(大人っぽいなぁ…あと頭もよさそう…)こころに話しかけてきた女子生徒は、整った顔立ちにさらさらの長い黒髪。手足が長くすらっとしていて、育ちのよさを感じさせる。心の声が漏れていたのか、彼女はふっと微笑んだ。
「ふふっ、あなた、名前は?」
「真中こころです!」
「私は子翠月よ。真中さんは、中学から演劇を?」
「いえ、演劇は…やったことないです。でも、部員募集のチラシに惹かれて。あ、あの、月ちゃんは中学から演劇部?あと、よければこころって呼んでほしいな…って」
「わかったわ。こころさんね。ええ、そうよ。私は中学から演劇部なの。」
「へぇ〜、じゃあ…」
同じ目的でここを訪れたという月と、会話をしているとなにやら廊下の向こうから声が聞こえてきた。こちらへ3人の女子生徒が歩いてくる。
「おぉっ、仮入部希望?演劇部へようこそ!さあ、入って入って〜」
「え?あ、あのー」
どうやら今度こそ本当に先輩のようだ。返事をする間もなく、2人は背中をおされ、そのまま部室の中に入る。
ガラガラッ
「わぁ、仮入部初日から2人も!?」
「予想外ですね…でも、これで廃部は免れそうです」
他2人の先輩がつぶやく。1人は三つ編み、もう一人はウェーブのかかったボブカットの先輩だ。敬語だし、後者のみが2年生、他2人が3年生だろうか。先ほどの強引な先輩には誰もツッコまないどころかスルーだ。
ガラガラガラ。ドアを閉めると、あの強引な先輩が、ボブの先輩へ声をかける。
「杏ちゃん、準備ヨロシクっ」
「え…ホントにやるんですか?あれ」
すると、杏と呼ばれたボブの先輩はすごく嫌そうに顔をしかめた。
「1年生の2人はここ座ってね」
もう一人の三つ編み先輩はそのやり取りを見ながらも何も言わず(むしろ楽しそう)、こころと月を適当に椅子にすわらせる。
「あ、はい」
何が始まるのだろうか?
「もう、貴重な新入部員ですよ?いいんですね?」
ボブ先輩は不満そうに、2人のさらに後ろ、色々な機材が置かれた机へと向かう。どうやら彼女は裏方のようだ。彼女が席に着くと、周りの照明が落ちて、暗くなった。するとゴージャスな音楽が流れ始め、例の先輩にスポットライトがあたる。そしてそのまま語りだし、なにかが始まった。
「宝田高校演劇部、それは勝手全国大会常連の強豪校だった__」
「しかぁし!それは十数年前の話…」
三つ編みの先輩もこれに加わる。それと同時に、照明がその先輩にも当たる。
「現在は部員なんと4名…そしてそのうち3名が3年生と廃部の危機っ!」
「部の存続にはそう!あなたたちの手が必要なのです!」
交互に話す2人。そしてこちらへと手を差し出し、戸惑っている間に手を引っ込め、舞台中央へ。
「さあ、この部に存続の未来を!」
「全国大会の舞台へ再び!」
そして歌い、踊りだす先輩2人。
ジャジャーン!
何分かたってずっと流れていた曲が盛り上がった感じで終わり、このタイミングで謎の劇?も終了。照明ももとに戻る。
「え…?あっ…」
なにを見せられたのだろう?内容的には、今年部員が入らないと廃部になってしまうから入部してくれ、ということだとはおもうのだが。となりを見ると、月はだまって口に手をあてている。絶句、というやつだろうか。
「ほら…1年生ドン引きしてますよ、先輩。だから、去年私しか入らなかったんですよ?」
裏方の先輩がツッコむ。やっぱり彼女は2年生で、どうやら去年もやったようだ。そして結果は散々だったようだ。
「むぅ…」
「まあまあ、杏ちゃん」
不満そうな先輩となぜかなだめる先輩。後者の手には、書類とボールペンがある。すると彼女はこころと月の前まで来て、
「はい、2人とも、入部届とボールペン」
そのまま渡されるがまま受け取る2人。
「え!?もう!?説明とかしないんですか?」
裏方先輩が正論をいうも、
「まあまあまあ」
とまたとりなす先輩。すると先ほどまで黙ったままだった強引先輩は、
「演劇部の活動内容など、名前の通り。演劇をする。以上だ」
ときっぱり。
「…」
これには反論できないようで、彼女は軽く先輩2人を睨んだだけだった。
ガラガラッ。するとドアが慎重に開いた。
「あのぉ…」
入ってきたのは小柄な男子生徒。くせっ毛に眼鏡。なんか気が弱そうな生徒である。
「おっ、もう一人仮入部きたっ」
三つ編み先輩が目を輝かせ、彼に駆け寄る。
「まさかの3人目!?もっと予想外…」
「演劇部へようこそ。来てくれてうれしいぞ」
各々反応する他2人。そして後者の先輩は握手、その後手をブンブン。
(やっぱりちょっと変な人だ…)
こころは思った。
「はい、入部届♪」
「え?あっ、ありがとうございます…?」
すぐさま入部届を渡され、そのまま受け取ってしまう男子生徒。
その様子にようやく助け船をだしたのは、先ほどから先輩の行為に水を差していた、ボブカットの先輩だ。三つ編み先輩の方を向いて言う。
「琴葉先輩。入部届よりも何よりも先に、新入生の名前聞きました?あと自己紹介も」
「あっ…忘れてた、テヘペロっ★」
琴葉と呼ばれた三つ編み先輩は可愛くポーズ。それをスルーし、もう一人の変な先輩が自己紹介をした。
「ああ、確かに杏ちゃんの言う通りだな。おほん。私の名前は鈴木優美。ありきたりな名前で覚えにくいとは思うが…よろしく。一応部長だ。次はここっち」
「は〜い。ここっちこと鈴鹿琴葉です。演劇部副部長で、優美とは鈴鈴コンビくんでますっよろしくね。次は杏ちゃん♪」
「立石杏珠、2年、音響とか照明とか…裏方やってます。よろしく」
「ホントは杏珠にも出て欲しいんだけどね…」
三つ編み先輩改め琴葉が茶化す。
「そしたら誰が裏方やるんですか。それに新入生来てくれたしいいでしょう?」
すぐさま反論するボブ先輩改め杏珠。
「そうだね〜じゃあ自己紹介いいかな?」どうやらこのやりとりはいつものことのようで、1年生のほうを向くいて琴葉は微笑んだ。
「子翠月です。中学から演劇やってます」
「月ちゃん、ようこそ〜経験者心強いっ」
琴葉がいちいち反応するようだ。
「真中こころです。演劇は…初めてです」
「うんうん、初心者も大歓迎っ」
「伊吹柊、です。僕も中学で演劇部でした」
先ほど来た男子生徒の自己紹介に反応したのは、琴葉ではなく月だった。
「伊吹柊…。もしかしてあなた、海冥中出身では?」
「おっ、あの海冥中学か?」
優美も知っている、ということは有名な中学なのだろうか?
「去年全国大会で入賞してましたよね?」
「え、あ、うん」
「やはり、そうですよね!あれはすばらしかったです!特にあの演出の方法や皆さんの実力、それに…」熱くなり、だんだん柊に迫るる月。
「えっと…月ちゃん?」
いきなりキャラ変した月にこころと琴葉が思わず声をかけると、月は我に返り、
「はっ!すみません…」
と恥ずかしそうに言い、柊に頭を下げた。
「あ、っいえ…」
柊もまだ困惑している。そんな中でも、
「うんうん、演劇に熱い心を持つことはいいことだ」
優美のペースは崩れない。
「自己紹介も終わったし、何しよう…」
琴葉がそう言ったとき、
キンコーンカーンコーン。チャイムが鳴る。
「もう、こんな時間か」
「じゃあ、また明日ここでね、入部届は担任の先生にね」
部室を出ると、
「では、私はこれで」
杏珠が足早に去っていく。
「うむ。おつかれ」
「1年生ズ、また来てね!」
琴葉もそのまま帰っていく。
「新入生諸君、ではまた」
優美も鍵をしめ、去っていく。取り残された新入生3人。
「なんか…個性的な3人だったね」
「それな…」
こころの言葉に同意する柊。ところが、月には気になる点があったようだ。
「3人…ですよね?」
「「ん?」」
こころと柊の声が被る。すると月が説明を始めた。
「先ほど、鈴木先輩は部員は4人とおっしゃっていたのを覚えていますか?」
「そうだったっけ…?」
「ああ、伊吹さんはまだ居ませんでした」
「そういえばそんな気が…今日いなかっただけかもしれないし、明日聞いてみる?」
と、こころが提案すると、
「そうですね。できれば立石先輩がいいのですが」
月も頷いた。
ブー、ブー。誰もいない空き教室に、電話のバイブ音が響く。
「…もしもし」
『ああ、響、もしもし。聞いてくれ、今日なんと!3人も新入生が仮入部にきてくれて…』
相手は優美のようだ。
「へー、良かったじゃん。で、なんで俺にわざわざ?」
『…一応、私は響のこと、まだ部員だと…』
「退部届、出しただろ」
『でも…私は…』
「しつこいな。新入生、来たんだろ?じゃあますます俺に構う必要ないだろう?切るぞ」
『響っ』
ツー、ツー。響は苛立ちげに電話を切った。