素直に健康第一だもん!!
ご覧いただきありがとうございます!
なんかよくわかんないけどそうなったんですよ…みたいな話です(´∀`;)
よろしくお願いします!
「君を愛することはない!
……から安心してほしい。
つまりその、そういう意味では」
「はい……」
時は新婚初夜。
日中結婚式が行われ、寝室に2人きりのできたて夫婦。
まさにまさにの状況だが、行われたのは上記の会話。
それというのも、新妻リキーシがガリッガリに痩せ細っていたからだ。
「このようなお見苦しい姿で申し訳なく……」
「いや違う!そういうことではなく、君の体の障りになってはいけないし……それに万が一子供ができたら、命が危ない。
そもそも僕が悪いのだから、どうか静養してほしく……」
「そんな!悪いのは私で……」
「いや僕が!」
などとやっているこの2人。
妻リキーシに夫エディー。
なぜこういうことになったのかといえば、子供の頃に遡る。
2人は幼馴染で、親同士も仲が良く、子供の頃からよく遊んだ。その関係で婚約が組まれ、特に問題なく2人は仲良く過ごしていた。
しかしある時、共に菓子をつまんでいた時、エディーが言った。
「よく食べるなあ、そういや最近太ったんじゃないか?」
リキーシはショックを受けた。
エディーの発言は、エディーの好きな菓子をリキーシが先回りして食べたからで、それに対する仕返しだ。
どっちにしてもふざけ合ってのことで、2人の間ではこういう軽口やおふざけはそれなりにあったため、エディーとてちょっとしたからかいのようなつもりだった。
しかし、リキーシは過度に受け止めてしまった。
原因はいくつかあって、最近本当にちょっと太り気味だったこと——成長期なので当然なのだが——。元々骨太で体格が良く背も高いので、同性のお友達と一緒にいて、少し気になるようになっていたこと。
それからその頃すでに才媛というか何かよくわからないものして知られていた後の王妃メルルーサにより行われた健康調査。平均身長体重といったものが調べられたこと。
この調査結果は、どちらかと言うと国民の健康増進、平民の栄養不足の指摘や貴族女性の痩身嗜好の抑止などに使われたのだが、リキーシは平均体重よりかなり重かった。長身なので当たり前だが。
そんなわけで色々重なりちょっと気にしていたところに、大好きな婚約者からのこの一言。
結果としてリキーシは、過度の痩身へと走った。
食事を減らし運動して体を絞り、果ては絶食し水を飲むから膨れるんや!と井戸のつるべに針金を巻き意味ねえなこれとなりサウナに入って、ついには干しキノコを噛んでもカラッカラ、唾液すらでないぜというところでストップがかかった。
領内の視察に出ていた両親が戻ったのである。
たまたまこの時、領では作物の不作が続き、飢饉とはいかずともちょっと苦しいってんで夫婦共に対応にあたり、家を空けることが多かった。
また、家令や使用人たちも、初めの頃はお嬢様は領民の苦しさを考え、想いを共にしようとしてくださってるのだなあと感激し、いやこれやばいぞとなってからはあまりの鬼気迫る姿に止めようにも止められなかった。というか止まらなかった。
そんなあれこれも重なり、リキーシは見事体を壊したのである。
ダウンしたリキーシは治療を受けたが、どうにも食べ物を受け付けなくなってしまった。医者が言うには精神的なものだそうだ。
これを知ったエディーもまた、ショックを受けた。
自分の一言で大好きな婚約者がこんなことに!
これではまるで「ポール」じゃないか!!
ポールというのはリキーシの従姉妹、ロキシーの婚約者のことである。
ポールはロキシーに惚れているにもかかわらず照れ隠しに暴言罵倒を吐き続け、ロキシーにぼろかす嫌われている。
2人の間では、ポールといえば「とんでもないクソバカ」を意味していた。
エディーは謝った。リキーシ本人にもその両親にも謝った。心無い言葉で傷つけた、愚かだった、君のことが大好きなのにひどいことを言ってしまったと、誠心誠意謝った。そんなつもりじゃなかったとかは言わなかった。ポールだからである。
リキーシは止めた。自分が重く受け止めすぎたのが悪いのだからと。
エディーはそんなことない!と言ったが、リキーシは実際そう思っていた。
2人の間では、そんな感じの軽口は普通だった。
リキーシだって、「ちゃんとお勉強しないとポールになるわよ」くらい言っていた。
心というのはままならないもので、たまたま色んなことの掛け合わせが悪く、何かが決定的に損なわれてしまった。
リキーシは回復しなかった。
婚約解消の話も出たし、エディーの親も、大変申し訳なかったと、慰謝料をという話にもなった。
しかしエディーは、許されるならリキーシのそばにいたいと懇願し、その治療に持てる力の限りをもって協力した。
リキーシは、エディーの負担になるのではと婚約継続を望まなかったが、エディーに君が好きなんだ、どうかどうかと泣かれて、受け入れた。リキーシもエディーを愛していたから。
そんなこんなで時はすぎ、無事結婚となったのだった。
エディーはリキーシの体を気遣い、そういう意味では愛さないと告げた訳である。
要は白い結婚ということだ。別れる気はさらさらないが。
一週間ほど、2人はほやほやふわふわとして過ごした。
リキーシの体調がよければ庭を散歩したり、2人で本を読んだり、エディーが手づから作った療養食をリキーシに食べさせたりした。ラブであった。
それからエディーは、領内の査察に一週間ほど家をあけると告げ、旅立った。
現在ではエディーの父親が当主である子爵家だが、次期当主たるエディーにも、多く仕事がある。
まして現在、領内では魔物の出現が頻発し、いささか危機的状況であった。
これは王妃メルルーサが現在妊娠中であり、彼女のモーニングルーティーンである国内ぱっと転移してのモンスターハントが止められているからでもあった。
エディーのいなくなった屋敷で、リキーシはため息をついた。
どうして私の体はよくならないんだろう……。
リキーシの体は依然痩せ細り、床に付くことも多い。
こんな事ではよくないと思うのに上手く食べられず、傷ついた体も心も思うようにならない。
エディーは生きてくれてるだけで嬉しい、子供は養子をとればいいと言うが、夫人としての仕事もろくにできないこの身では、どうしたってエディーの負担になる。エディーが気にしなくともリキーシは気にしてしまう。
不甲斐ない自分が情けなく、せめて少し陽光をと、庭に出て———………
巨大な男が、そこにいた。
全裸である。
いや違う。見慣れぬ下着のような物をつけている。
ほぼ全裸である。
悲鳴をあげそうになったリキーシだったが——
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
挨拶されて、思わず返した。
なんかその男が普通でなかったのもある。まあほぼ全裸のでか男は普通ではないが、それだけではない。なんかキラキラしている。
妖精かなにか——?
この世界妖精とかいる。リキーシは会ったことはないが。
「わしは聖女でごわす。隣の国で召喚されたでごわす。この地に大きな魔物の気配を感じ飛んできたでごわす」
聞けば、隣国に魔物が増え、聖女召喚したろと異世界拉致を企てた。しかし首謀者の王子がどうせなら「おっぱいのでかいのにしろ」と魔術士に強要し、結果ヒノモトいちの巨乳——胸囲のでかい彼が召喚されたのだという。
「王子ははじめ男かよふざけんな!と言ってたでごわす。でも次第にまあでも胸も尻もでかいしいいや!結婚するぞ!と言い出したんで、張り飛ばして逃げてきたでごわす。女性の前でこんな話申し訳ないでごわすが」
「ああいえいえ……」
隣国は大丈夫なのかしら……。
ダメそうだなあ、とリキーシは匙をすくった。
2人は今食事をしている。
聖女様——ジョロさんというらしい。ヒノモトの出身ではなく、「スモウ」なる武芸の為ヒノモトへとやってきて、このような目にあったそうな。——が、腹が空いたと仰り、ではお食事のご用意をと言ったところ、自ら調理をと申し出られたので了承した。
共に食事を、となり、しかしろくに食べられないリキーシ。残してしまうに違いない。エディーの療養食…ごくごくうすいスープ……ものこしてしまい、双方がっくりするくらいなのだ。
そんな不安をもって食卓についたリキーシだったが———これが、食べられた。
聖女様の料理は、具沢山のスープである。
食べたことのない味だが、滋味深く、体にしみわたる。
「これはチャンコというでごわす。わしらはこれで体を作り、戦うでごわす」
「そうなのですね……」
チャンコか。ロキシーは生卵を飲んでいたが…。
ふとリキーシはロキシーのことを思い出した。
彼女も戦っていた。常に。
痩身を目指した時、ロキシーを訪ねたことがある。彼女は大変引き締まった体をしていたので、参考になればと……
しかしなぜか暴れ豚の大群に跨ったロキシーに轢かれておわった。
ロキシーはすぐに気づいて救助し、何度も謝ってくれたが、聞けば嫌な婚約者や家族から逃げようとしていたとのことで、逆に悪いことをしたと申し訳なくなった。
そんなロキシーは、嫌な婚約者や家族をぶちのめし、いまでははるか遠くにいる———……
「何はともあれ体、つまりは食が大事でごわすからな」
聖女様は言う。
「………」
それはとてもよくわかっている。
でも、できなかった。
心はうまく修復されず、ただただ気ばかりあせって——
「ジョロ様、私、強くなりたいんです。
どうか私を、助けてくれませんか」
不甲斐ない自分、どうにもならない自分、情けない自分———こんな私—————!!
私は私を、倒したい!!!
「まかせるでごわす!!」
リキーシの強い瞳に、聖女は快諾したのであった!!
それからはまず食事だ。
聖女のチャンコはなぜか食べられる。聖女の力であろう。
そう言うと、「わしにはわからんでごわすが、わしはもともと相撲取りでごわす。相撲はヒノモトの神技でごわす。神に捧げる武芸でごわす。その力もあるのかもしれんでごわす」
ということだった。つまりお相撲の力である。
急速に回復していく体。お相撲の力である。
回復したリキーシは更に体力をつけんと運動を始めた。
まずは軽く走り込み。かつては夢であったそれができる。お相撲の力である。
そしてもっと走り込み。お相撲の力である。
柔軟体操からの四股ふみ。お相撲の力である。
小指だけでの腕立て懸垂。お相撲の力である。
つっぱりてっぽう上手投げ。お相撲の力である。
ダンベル持って摺り足での坂道登り。お相撲の力である。
そして一週間がたち———リキーシはすっかり健康になっていた!!お相撲の力である!!!
「ありがとうございます!聖女様!自信を持って夫の帰りを待つことができます!」
「よかったでごわす!」
2人は四股を踏み合った。
「では、わしは行くでごわす」
「そんな!夫にもぜひ会って頂ければと…」
「いいや、奥様はもう回復されたでごわす。わしはヒノモトへ帰るための方法を探さねばならんでごわす」
「ジョロ様……」
拉致されているのである。
帰りたいのは当然だ。
「わしは相撲取りとして、これからやっていくとこだったのでごわす。こちらの世界でいう剣拳士のデビュー前だったでごわす。
来たる新場所で、ついに序ノ口としてデビューするとこだったのでごわす。……稽古をつけてくれた親方や兄弟子たちのためにも、帰らねばならんでごわす!」
「ジョロ様……!!
そうですよね……どんなにお辛いか……。
せめて何か、お力になれることがあれば……」
聖女様はふと気づいたように、
「では、奥様の名前を一文字もらえんでごわすか?」
「一文字?」
「そうでごわす」
よくわからない。
「かまいませんが……」
思わず言うと———
ぴかっ!!
2人の体が光だし———
「奥様の名前から一文字貰い受け、奥様はリキーシから〈リキシ〉になったでごわす!」
「リキシ!?」
「相撲取りのことでごわす!」
「お相撲の力!!」
「そしてわしは、貰った一文字で、ジョロからジョノ口になったでごわす!気分だけでも序ノ口でごわす!」
「お相撲の力!!」
無理があるとか言ってはいけない。
そしてまたピカーーーーー!!!
聖女様に光の柱が降り注いだ!!
大事な有望株を奪われたヒノモトの神は血眼になって彼を探していたのだが、聖女様がジョノ口となったことにより、お相撲の力が強まり居どころがわかったのだ!回収!!
「どうやら帰れるようでごわす!!奥様はリキシでごわす!もう大丈夫でごわす!がんばるでごわす!」
「聖女様!!ありがとうございました!!ありがとうございましたーーー!!!」
そして聖女様は消えていった……
ちなみにこの世界を大半放置し、ちょっと前になんか虐げられそうな子いるーとメルルーサにチートをあたえたっきりまた放置していた悪役令嬢好きのこの世界の女神はヒノモトの神に激詰めされて泣いた。
リキーシあらためリキシは蹲居してお相撲の神に祈った。
「奥様!大変です!!旦那様がーーーえっ奥様!?」
「どうしたの!?」
家令が駆け込んできた。
「え?奥様?え?ですよね?あれ?」
「私よ!何があったの!」
様子の変わったリキシに戸惑いながらもあわてて話す家令。
「今知らせがありまして…!旦那様が、魔物に襲われたと——!」
「そんな!!」
視察に出ていたエディーだが、急に湧いて出た魔物の大群に遭遇し、近くの砦になんとか立てこもったがジリ貧だという。
「そんな!エディーが……!!」
優しいエディー。いつでもこんな私を見捨てず、大事にしてくれ助けてくれた———
こんどはきっと、私の番!!!
「エディーー!」
リキシは走り出した!!
エディは必ず助ける!!!
野を超え森を越えリキシは走った!人とは思えぬ速度で!お相撲の力だ!!!
「見えた!あそこね!!」
魔物に囲まれた砦がみえる。
いままさに蹂躙せんと、砕けた門から魔物か中に——
「どすこーーーーーーーーーーーーい!!!」
リキシは魔物の群れにつっこんだ!!
大丈夫だお相撲の力がある!!
掴んでは投げ掴んでは投げひたすら魔物を砦の外に押し出した。
その四股の一踏みは大地を揺らし魔物を砕き、張り手は魔物を消し飛ばす。
お相撲の力である!!!
「あれは一体!?」
「味方のようですが……」
「エディー!無事なの!!?」
「えっ?だ……………………リキーシ!!?」
この一週間でリキーシは変わったのだ!
体は健康になり肉がつき大きくなった。更にリキシとなったことでお相撲の力を得、かつてのリキーシ十人分くらいの大きさとなりついでにきらきら光っている。別人である。
しかしエディーは妻だとわかった!
お相撲……じゃなくて、愛の力であった!!
「な、なんだかわからんがいまだ!!」
砦の兵士やエディーたちもうってでた。
砦から押し出された魔物を上から弓で撃ち剣で倒しリキシの背中におそいかかる魔物を切りつけた!
そうして戦いが続き——……
陽が落ちるころ、魔物は一掃された。そして——……
「エディー!!」
「リキーシ!!無事かい!!?一体なにが……」
「今はリキシっていうの」
「ええ……?」
事情を説明した。
説明されたエディーは泣いた。
「そうか…それで…!!よかった!よかったよリキー…リキシ!!元気になって、本当によかった……!!」
「エディー……!!」
リキシは胸が熱くなった。
体が馬鹿デカくなったがそれで嫌われるかもしれないなんて考えはもはやない。健康で素晴らしい。誇りだ。そしてエディーもまた、うっかり死にそうにない健康さを手に入れたリキシに、聖女に感謝し喜ぶばかりだった。
しかしエディーは、嬉しさと共に、深い罪悪感もまた抱いた。結局自分ではリキシを助けられなかった。自分のせいなのに…。聖女様のおかげだ。悔しさなどは感じないが、ただただ申し訳ない……。
リキシはそれを感じ取った。愛の力である。
「エディーが、あなたがいたから、私は生きてこれたの。あなたがいなければ、聖女様に会うことだったできなかった。
だから全部、あなたのおかげよ。エディー、ありがとう、愛してる……!!」
「リキシ……!!」
エディーはまた泣いた。
「リキシ、その……前に言ったことだけど、取り消して良いかな」
「?」
「君を……そういう意味では愛さないって言ったけど、……愛しても、いいだろうか?」
「!!!」
リキシは真っ赤になり、エディーを抱きしめた。
エディーは背骨が折れた。
さてそれから——……
お相撲の力でエディーの背骨は治った。二人は仲良く暮らし、魔物が現れたとくればリキシもうってでて、御領主様んとこの若夫婦は大したもんだと評判になった。
噂を聞きつけた隣国の王子が、それはうちの聖女の力を継いだんじゃないか?返せ!と言ってきたが、お相撲の力ですとつっぱった。
そうして多くの子供に恵まれ、末長く幸せに暮らしたそうな———
あと、過度の痩身を目指すことでの危険を体験談として書き記し、それは広く読まれて、健康第一!と国民の意識に刷り込まれたという。
♡めでたしめでし♡
お読み頂きありがとうございました!!(´∀`*)