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オランダからやって来た茜色の刺客

「今日は転校生のお知らせです。」


朝のホームルーム。

教師が発した「転校生」というワードに教室がざわついた。


「転校生」。

それは学園ドラマにつきもののイベント。


息を飲むような美男美少女が登場するか?

それとも不良に絡まれいきなり対決シーンが始まる

バイオレンスストーリーの究極の転換期である。


果たしてどんな転校生が現れるのか?

たちまち、教室の扉に視線が集まった。


「三条さん、入ってください。」


教師が声をかけると

ガラガラと扉を開けて、転校生が入ってきた。


朱色に包まれたロングヘアーの少女だ。

モデルのような長い手足、少し赤みがかった瞳。


「きれい」

教室のあちこちからため息が漏れた。

 


黒板には「三条マリア茜」と書かれている。


「父の仕事の関係でオランダから祖母の国、日本に来ました。

 三条マリア茜といいます。よろしくお願いします。」


「なんで日本語が上手なの?」

「おばあさんが日本人ってことは、クオーターなの?」

「どうやったら、髪の毛がそんなにサラサラでまとまるの?」


挨拶が終わると、たちまち三条に対し、

女子からの質問が集中した。


男子生徒たちは、想像を超える美少女の登場で、

完全に固まっていた。


「はいはい、質問は休み時間にして。

 今日は休んでいる江良さんの席に座ってくださいね」


教師が三条を手招きした。



今日も、江良は学校を休んでいる。

今度は母方の親戚の法事らしい。


卒業までにいったい何人の親戚が犠牲にされるのだろう。

どうせ今頃は、たこ焼き屋巡りをしているはずだ。


席に通された三条は、江良の席の前で

「座るのは恐れ多い」と固辞していた。

しかし、最後は先生に背中を押されて江良の席に座った。


三条は古くから貴族の家系らしいので、奥ゆかしいのだろう。


なにせ、祖母がオランダ王族と結婚。

その後はオランダの城で暮らしていたというぐらいだ。


俺を含めたクラスの全員が「恐れ多い」という

言葉の意味を全く気に留めなかった。



噂が広がるのは実に早い。


三条の素性が知れ渡るに従い、

休み時間ごとに野次馬が増えていった。


そして午前の授業が終わるころには、

学校中が三条の噂で持ちきりとなっていた。




そんな「アイドル誕生」の一日も終わり、

俺は本校舎の玄関を出ようとしていた。


「あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


部活動の掛け声が遠くで聞こえる中、

玄関に透き通った声が響いた。


声がした方向を振り返ると、

1日で校内のアイドルとなった美少女が立っていた。


「ひゃ、なんだよ」


俺は思わず突拍子もない声を出してしまった。


少し離れたところで女子がクスクス笑っている。

隣のクラスの男子たちが、明らかに俺に敵意の視線を向けている。


((( もしかして俺に告白なのか? )))


さ、さすが、帰国子女は積極的だ。


しかし、この状況で告白されると

俺は男たちの嫉妬で、抹殺される。ここは危険だ!


「わかった。校門の先にある公園で待ってるから

 5分ぐらいしたら来てくれ」


俺は飛び上がりたい心を静め、できるだけ平静を装い返事をした。


「いいえ、ここで大丈夫よ」


「いやいや、ここでは公衆の視線が・・・」


俺が言い終わる前に突然、周りの空気が変わった。

目に見える景色に薄いピンク色のフィルターがかかっていく。




下駄箱に手をかけたクラスメイト、

楽器の手入れをする2年生、

グランドを走っていたサッカー部も、、、全員動かない。


俺が目を白黒していると、

ゆっくりと三条が話し始めた。


「いま、この世界で動いているのは、私とあなただけよ」


俺はここで理解した。


(こいつは江良がいっていたインスペクターか、ガーディアンってやつだ!)



「時間を止めたのか?」


「あら、そんなことが分かるのね」


三条は俺を見下すように言った。

その眼は燃えるような朱色になっている。


「我々のことは、ミア様から聞いたのかしら」


「あいつからは少しだけ聞いただけだ」


俺は短く答えた。


「君は私たちの敵かしら?

 あ、別に言わなくてもいいわよ。

 すぐに決着がつくから・・・。」


「いや。

 江良は、そうならないだろうと言っていた」


「まぁ、ミア様が。

 でも、君のエーテルは戦う気まんまんに見えるわ。

 敵にならないなら、躾ぐらいしておきましょうか」


「おまえ、何言ってるんだ。

 俺は戦いたくなんてないぞ。」


俺が言い終わる前に、三条が右手を挙げた。

同時に、目の前に火の海が広がった。


(な、なんだーこれ!やばいだろ)


三条が右手を回すと燃え盛る炎がちぎれ、

次々と俺をめがけて飛んでくる。


直撃しないが、ギリギリでかすめていく。


(こいつ、人の話も聞かずに始めやがった!)


最初の攻撃で、殺す気がないことは分かった。

脅して楽しんでいるだけだ。

絶対にこいつは顔に似合わずにドSだ。


彼女に殺意がない事が分かり、少し安心した。

しかし、脅しと分かっていても、かすめる炎は熱い。


俺は、江良に言われた通り、

なるべく力を見せないように気を付けて、

炎が飛んでくる度に

下、右、左、いろんな角度で逃げ続けた。


だが、10回に1度は直撃をくらった。

もちろん大やけどだ。


しかし、直撃を受けるたびに

瞬時に時間を戻して、回避をやり直した。


そうしている間に、俺は攻撃のテンポに慣れてきた。

100回はタイムリープを使っただろうか、

すると突然、風景が変わった。


それまでの景色は薄いピンク色に包まれていた。

これは三条が作った世界だ。


しかし、100回目のタイムリープの後は

風景が薄い緑色に変わったのだ。


変わったのは景色だけではない。


タイムリープの後、

10秒ほど三条の動きが止まって見えるようになった。


(よく分からないが逃げるチャンスだ!)


この変化により俺の動きに余裕ができた。

10秒あれば余裕で炎の玉を避けられるのだ。


しかし、三条の攻撃は射程距離が長いため、

完全に逃げることはできない。


俺は諦めた。


(逃げるのはやめだ。)


現状を打破するには炎ではなく、三条自身を止めるしかない。


三条から放たれる炎は、変な呪文の後に飛んでくる。

呪文自体を防いでしまえば、攻撃もできないのではないか?


俺はタイムリープ後の10秒間を生かし、

全速力で三条に近づいた。


そして背中から抱くようにして右手で口をふさいだ。

口を塞げば、詠唱はできないだろう。


俺は生まれて初めて女子の唇に触ってしまった。

すべすべしていて、柔らかかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


やがて10秒が経ち、三条が動き出す。


「むむむむ」 


彼女の声は詠唱にならない。計算通り炎の玉は動かない。


((( 成功だ!これで助かった! )))


三条は、信じられないという目をしている。


そりゃそうだろう!

10メートル先の玄関の端にいた俺がいつのまにか背後にいるのだ。


三条は、俺を振りほどこうと何度も投げ飛ばした。

だが、そのたびに俺が時間を戻して背後を取り直す。


俺は まるで女子の背中に へばりついたスッポンストーカーだ。


やがて、三条は抵抗を止めた。

今にも泣きだしそうだ。



三条が集中力を欠き、エーテルの力が尽きたのか

風景が変わり時間が動き始めた。


(おい、ここで動き始めるのか!)


まわりの人も動き出してしまう。

俺は三条に抱き着いたままだ。


このままでは、まずい。


俺が三条にセクハラして、泣かせているみたいじゃないか!


相手は学園のアイドルだ。

中二病どころか、変態野郎として人生が詰んでしまう。


俺は急いで三条から離れた。

しかし、間に合わなかった。


周りがざわつく。


(やばい…、明らかに勘違いされた)


「三条、あそこにいこう」


俺は玄関から少し離れたベンチを指さした。

とにかくこの場を離れるしかない。


三条はうなだれながら、後ろをついてきた。


明日、俺は学校中で「変態野郎」のレッテルが広がるだろう。


こんな時に江良がいてくれたら、、、。



俺がスッポンストーカーの必殺技を出していた頃、


観光客でにぎわうお台場で、外国人に混じり、

黄色いリボンが揺れていた。


「たまらんなー。この焼き加減、最高や」


「あんた、わかるんかいな」


「わかるわかる、外はカリカリ、中はジューっや。」

「何これ?たこ焼きの上に半熟玉子かいな。」

「やばい、これうますぎー、むりーーーー」


リボンの少女は、たこ焼き屋が並ぶビルの中を

ゴキブリのようにカサカサ動き、次々と店を物色していた。


「ここは最高や、ほんまの天国やー」



俺は野郎どもの刺す視線を浴びながら三条が泣き止むのを待っていた。


「それじゃあ、お前の正体を話してもらおうか。

 いったい何者なんだ?

 インスペクターという奴らの仲間なのか?」


俺はベンチにつくと話を切り出した。

さっきの動きは、どうみても人間じゃない。


「どうせミア様から聞くのでしょうから、

 ここで話しても差し支えないでしょう。

 私はガーディアンに属する眷属です」


「やはりそうか」


「同じ眷属でもインスペクターと一緒にしないで。

 私たちは君たちヒト族が間違えた方向に走らないように

 サポートをする役割なの」


「サポートをする奴が、ヒトを殺そうとするのか?」


「あれは、キミが予想外の動きを見せるからよ。

 キミこそ何者なのよ?

 ヒトがあんなことをできるわけ?」


「普通の高校生だよ。

 俺だって、何が何だか訳が分からないんだ」


「普通の高校生が、私の後ろを取れるわけないでしょ。

 それにあんなことをするなんて・・・」


ここで何かを思い出したのか、三条が真っ赤に頬を染めて

下を向いてしまった。


「あっ、あれはごめん」


俺の指先にはまだ三条の唇の感触が残っている。


「まったくキミと話していると調子が狂うわ。

 今日の借りはいつか返させてもらうわ。覚えていなさい。」

「………、いや今日のことは今すぐ忘れなさい!」


恥ずかしそうにしていると思ったら、

急に怒り出して、三条は帰っていった。


まわりの生徒には、三条がスッポン男に

キレて立ち去ったように見えたらしい。


「ほんとサイテーな奴

 どこのクラスの奴かしら?」

「俺たちの茜ちゃんに、あんなことしやがって。

 絶対に許せねー」


早くも俺に対する過激な声援が飛び始めている。

おいそこ!LINEで広めるのは止めてくれ。


明日からは地獄の毎日だ。

せめて、江良がいてくれたら。。。

゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,


今回もお読み頂きありがとうございます。


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