こんな力を持ったばかりに
俺の胸には、なぜか江良のナイフが刺さっている。
なんて、女だ。
痛さを通り越して声が出ない。
刺された胸から血がにじんできた、
このままでは確実に死ぬ…。
早く時間を戻さなくては…。
俺は目をつぶり念じた。
身体が不思議な空気に包まれる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
胸に刺さったはずのナイフがない。
無事にタイムリープできたようだ。
・・・。
「そうよね。突然言われても困るわよね」
「じゃあ、その理由を教えてあげる」
さっき聞いた江良のセリフだ。
ここでアイツは胸元に飛び込んでくる。
二度と刺されるものか。
俺は後ろに下がって江良のナイフをかわした。
狙いが外れた江良がニコリと笑った。
・・・。
「わかった? これがきみの力よ。」
「???」
「時間を戻せること、タイムリープができる事には
自分でも気がついてるんでしょ。」
「ちょっと待て!!」
「それを伝えるためにナイフで刺したのか?」
江良は悪びれるでもなく、うなづいた。
こいつだけは、グーで殴りたい。
いや、絶対に殴る。
そんな俺の怒りMAXのオーラに、
鈍感な江良もようやく気が付いたようだ。
「ごめんなさい。でも、痛いのは一瞬でしょ?
どうせタイムリープしたら、痛みは消えるわ」
俺は怒りのため、
江良が俺の力を知っていることを忘れていた。
俺は誰にもこのことを話していない。
それなのに・・・。
冷静さを取り戻すと、江良のことが不気味に思えてきた。
さっきの奴らも普通じゃなかったし。
「お前、いったい何者なんだ?」
「私、江良みあよ」
江良は小さな体を背伸びして、
どうだ!とばかりに胸を張った。
黄色いリボンが揺れている。
………。
「いやいや、名前じゃない。
俺、この力のこと、誰にも話していないぞ。
それにさっきの奴らは誰なんだよ?」
「私は私よ。それ以上じゃないし、それ以下でもないわ。」
「それにキミの力だけど、前に同じ力を持っていた人を知っていたの。
だから、分かったし、特に驚かなかったわ。」
「俺と同じ力って、ザンの他にもいたのかよ」
つい、俺は夢で見た男の名前をつぶやいてしまった。
江良が一瞬、驚く。
「そのザンって誰?どこで会ったの?」
「いや、俺の夢に出てきただけだ…」
「何それ?夢って、、、ちょーウケる。
面白いからその話を聞かせてよ?」
江良が目をキラキラ輝かせている。
そんなに人の夢に興味があるのか?
最初は恥ずかしかったが、グイグイくる江良の視線に負けた。
しかたなく俺は夢のことを話すことにした。
◇
「そう。」
俺の説明を聞き終わると、江良は暖かいまなざしで
俺の中の、何かを見つめた。
「キミの中にザンの記憶が宿っていたのね」
え、、、?
俺は江良の意外な反応に驚いた。
「お前も同じ夢を見たのか?」
「違うわ」
「でも、、、
キミになら話しても良いわね。
私がザンにタイムリープの力を与えたの」
「ありえない、ありえない!」
俺は首を振った。
しかし、こいつは俺の力を知っていた。
「本当なのか?
じゃあ、隣にいたのは、まさか」
「そう、私よ」
「だって、あの時の女性は大人だったし
時代だって、大昔に見えたけど」
「今から2500年ぐらい前のことよ」
「おまえ、、、いったいいくつだ?」
江良は笑って首を傾げた。
そして真顔になると、俺の質問をさえぎった。
「私の話はここまで」
「それよりキミよ。
キミはインスペクターに目をつけられたようね」
「インベーダー?」
「インスペクターよ。彼らは観察官。」
「2万年ぐらい前から、ヒトの世界を監視しているの。
そして、キミのように特殊な人間が生まれたら
自分たちの害にならないか?すっと見張っているのよ。」
「もし、邪魔になったら?」
「即、排除するわ」
江良は指を立てて、首を切るような仕草をした。
「排除って・・・もしかして?」
「命を奪って、いなかったことにするのよ」
「そんなことをしたら警察につかまるだろ」
日本は法治国家だ。
いざとなれば憲法が俺を守ってくれるはずだ。
「無理ね。彼らはキミたちの数百倍のスピードで動けるわ。
そして記憶を書き換えることもできる。」
「目の前で君が消されても、家族や友達、誰の記憶にも残らないの。
ライブカメラの映像も瞬時に消されるでしょうね。」
江良の可愛い顔から淡々と恐ろしい話を聞かされた。
まるで俺に対する死刑宣告だ。
「俺は消されるのか?」
「すぐに消されることはないと思う」
「ただ、キミが彼らの敵と判断されたら、間違いなく消されるわ」
「俺は奴らの敵なのか?」
「説明が必要ね。
でも、今日は時間がないの。
大切なあの日だし」
時計を見て、江良の表情が明らかに焦っている。
(何か大切な用事があるらしい。
俺の生命の危機と同等の、何かに追い詰められているようだ)
「分かった。だけど、何かヒントだけでもくれないか?
俺の命がかかっているんだろ?」
江良は俺の話を聞く前に
公園から出ていこうとしている。
「やっぱ、ごめーん。
きょう、8時から観たいテレビがあるのよ。」
「ちょ、待てよ。テレビだと?
俺の命がかかっているんだろ。ふざけんなよ」
「私だって『大阪たこ焼きNo.1決定戦』を
先月から楽しみにしていたのよ。こればかりは譲れないわ」
さんざん、人を脅かしておいてこの幕切れはないだろ。
しかも、なんで逆切れされるんだよ。
ムカつくやら、不安になるやら、
何とも言えない気持ちになった。
そんな俺を見て、江良は立ち止った。
「だいじょーぶ。キミは私が守るわ。
とにかく今は目立たないこと。
その力をやたらと使わないこと、わかった?」
江良は、そう言い残すと、商店街に向かって走り出した。
「おっちゃーん、あと2つ持ち帰りで頂戴」
「ねーちゃん、また来たの? 本当に好きだねー」
焼きたてのたこ焼きを大事に抱えると、
満面の笑みを浮かべながら、雑踏の中に消えていった。
◇
「なに?それは本当か?」
「ミア様の気まぐれには、困ったものだ」
作戦本部の巨大モニターに江良と俺が映し出されている。
幹部らしい男が2人組の報告を聞き、頭を抱えていた。
「あのお方にもお伝えしておきなさい」
「それから上級エージェントがこちらの世界に来ます。
ネームドです。名前はコールドビューティ」
その名前を聞いて、
作戦本部のあちこちからどよめきがおこった。
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