目覚め
「ヒカルー!、あっちゃんが迎えに来たわよー」
「ごめんねー、ヒカルすぐに来るからね」
「おばさん、おはようございます」
「おはよ、あっちゃん」
「ヒカル、おは」
翌朝、あっちゃんは普段通りだった。
ただし、言葉数が少ない。
昨日の事故が頭から離れないのだろう。
学校に向かう途中で同じ色の車がすれ違った。
違う車と分かっていても、自然と体がこわばる。
そういえば事故の時、
デジャブのように感じたのは何だったんだろう?
どうしても思い出せない。
「…ル、ヒカル!」
「おい、ヒカル、聞いてるのかよ」
先を走っていた自転車を止めて
あっちゃんが、こちらを見てる。
「ごめん、なに?」
「ヒカル今度の週末何してる?」
「特に予定はないよ」
「それならアキバのイベント行こうぜ、
来週またやるらしいよ。」
(あんなことがあったのに、また、イベントをやるのか?)
俺は主催者の常識を疑った。
しかし、俺の前のカードオタクは、もっと変だ。
あんな死にそうな目にあったのに
またイベントに行くと言っている。
でも、ここで誘いを断ったら、
事故にビビッて推し活から逃げたようだ。
それはもっと嫌だった。
「分かった。あっちゃん行くよ、絶対に行こうぜ!
諦めたらそこで試合終了だ!」
「何だよそれ!古いなー(笑)
集合時間は、あとでLINEするよ!」
あっちゃんとは別の学校なので、この交差点が分かれ道だ。
俺はあっちゃんの後ろ姿を見送り、再びペダルを踏みだした。
ここからは下り坂が続く。
4月の風が気持ちいい。
それにしても、昨日の事故が気になる。
俺は確かに、ひかれたような気がする。
でも、間一髪で助かった記憶もある。
いったい何なのだろう。
坂の途中の公園で、ラジオ体操の声が聞こえる。
俺は、ぼんやりとお年寄りたちを見ながら、
昨日のことを思い出していた。
(たしか、交差点で車が暴走していて…
そうしたら、大声で誰かが叫んで)
「おーい、そこ危ないぞ」
(そうそう、こんな感じだったな…)
「おい、とまれ、危ないぞ」
自転車の前が突然、青空になった。
(あれ、空と地面が逆さまだ…)
次の瞬間、俺は地面にたたきつけられた。
昨日から始まった道路工事で掘られた大きな穴に
自転車ごと落ちてしまったようだ。
「大丈夫か?すぐに救急車を呼ぶからな」
ラジオ体操をしていた老人たちが駆け寄ってくる。
(あれ?この感覚、前に味わったものだ)
手足が動かない、やがて俺は気を失っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
公園の向こうで、お年寄りたちがラジオ体操をしている。
自転車は坂を下り、風が気持ち良い。
(あれ?この風景、さっきも見た気がする)
「おーい、そこ危ないぞ」
お年寄りの1人が、俺に声をかけた。
目の前を見ると、道路工事中の看板が立っている。
俺は急いでブレーキをかけた。
(あぶない、あぶない、
もう少しで怪我をするところだった)
そういえば、さっきの声は聴いたことがある。
デジャブだ。
そして、俺は昨日のデジャブを思い出した。
『時間を自由に移動する力』
その瞬間、夢で聞いた言葉が脳内でリフレインした。
◇
「まさか…?」
「まさかねーーーーー」
「これはタイムリープ?」
「いやいやいや、それはない」
自転車に乗りながら、俺は独り言をつぶやく。
でも気になる。
本当に俺はタイムリープしたのだろうか?
でも、俺の中には確かに記憶が2つある。
こうなったら学校につく前に実験をしてみよう。
俺は誰も通りそうにない場所を探した。
ここは坂の上の神社前だ。ここなら大丈夫かもしれない。
よし。やるぞ。
でも、何と言えばいいんだ?
あの時は何も言わなかった。
とりあえず、何でもいいや。やってみよう。
俺はドキドキしながら、小さくつぶやいてみた。
「時間よ、戻れ!」
あたりが一瞬暗くなり、明るくなった。
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ん?ここはどこだ?
俺は、さっきと風景が違う場所にいる。
ここは、神社の下にある交差点じゃないか。
さっき通った場所だ。
確かに時間が戻っていた。
全てが飲み込めた。
これまでデジャブだと思ってたのは現実だったのだ。
俺はとんでもない力を手に入れた。
感動したのも束の間、向こうでチャイムが聞こえる。
先生が教室に来るまで、あと5分。
もう一度、神社前の激坂を登らなくてはならない。
さっき登ったよこれ。また登るのかよ!
「もーーーーーーーー!」
嬉しいんだが、自分のバカさ加減は嬉しくない。
実験するなら別の場所を選ぶべきだった。
必死にペダルを踏みながら、ワクワクは後悔へと変わっていた。
゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,
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