7、一の怪談、トイレの花沢さんその三
昔々、そのまた昔。私はどこにでもいる普通の学生でした。特に語ることもない学生生活、友達と楽しく遊んだり授業に出て居眠りしたり。それこそ恋だって、喧嘩だってしました。
そんな私、花沢花子は今や世に言うトイレの花子さんです。知らない人は初めまして。知ってる人は改めてよろしくお願いします。これからするお話は私の誕生日秘話、なんて大それたものではないですがお話しします。
ある日の事です。授業も終わり放課後、部活をしている友達を教室で待ちながら私は勉強していました。時間潰しに宿題をしていると、ふとお手洗いに行きたくなり席を立ちました。
教室から出て右側にある突き当たりのトイレ、いつもの場所も放課後だからかやや薄暗く日常からそこだけを切り取ったかの様に静かで少しだけ恐いなと思いながらも私は用を足しました。
洗面所で手を洗っていると、ふと正面の鏡から声が聞こえます。
「見つけた」
トイレに言葉が響き顔を上げると、どことなく違和感を感じました。気のせいだろうとトイレを出て教室に戻ろうと左に曲がるとすぐ違和感に気付きました。
…左に曲がってすぐそこには教室ではなく突き当たりがありました。混乱し振り返ると、真逆の位置に教室が並んでいます。まるで、鏡の中にいるかの様に。
ところで、突き当たりの壁面にはポスターが貼ってあります。私はそのポスターを見て口元を抑えました。“文字が真逆”なのです。
「驚いた?」
先程響いた声がまた聞こえます。周囲を見渡すも誰もその場にはいません、ですが…一ヶ所確認していませんでした。私は恐る恐る上を見ると、天井から逆さに吊り下がる女性と目が合いました。真っ赤に染まった顔、まるで私と鏡合わせの様に天井から下がる彼女は声を掛けてきました。
「おめでとう、あなたは今日からトイレの花沢さんです」
唐突に宣言する彼女、非日常なその状態に私は驚きその場に尻餅を突きました。すると彼女は反転しながらゆっくりと地面へと降り立ち、私に向けて手を伸ばします。
「勿論拒否は出来ません、そしてこれから私があなたになります」
彼女は笑っていました。大きく口を横に広げ笑っていました。まるで罠に掛かった獲物を漸く得たと言わんばかりに。そして私は手を取られ…引き継ぎ完了。その瞬間分かったのです。トイレの花沢さんは引き継がれていると。そして、代わりの者として入れ替わり解放されるのだと。