6、一の怪談、トイレの花沢さんその二
背後より掛けられた声に振り向くかどうかを悩む。間違いなく彼女がいるのだから。失禁した恐怖に手を握り込み拳を作り爪が掌に食い込むのを感じながら私は決めた。1、2の3で振り向くと。
「せーの…1、2の3!」
振り向きそこに立っていたのはこちらを見上げて微笑む少女だった。あの時見た様な流血も無く少しばかり悪戯が好きそうな、それでいて男子の初恋相手代表となってもおかしくない整った容姿の彼女に私は拍子抜けしてしまった。
「おはよう、お姉さん。私は花沢って呼ばれてるわ」
花子じゃないのかよと内心ツッコミをいれるが多分メジャーなあの子とは違うんだろう。そんなありきたりな怪談なんて求めてなかった、そう…オリジナリティは大切だから。
「ちなみに名前は花子よ?」
「花子さんじゃん!皆名前でしか呼ばないから花沢って名字初めて知ったよ!!」
こいつも心を読んでいるかの様に名前を明かされると私のツッコミの血が騒ぎ言葉にしてしまう。これに関しては私は何も悪くない、ノットギルティ。
「あら、幽霊だからって名前だけなんで前時代的ね。かの有名な鬼○郎も墓場とかゲゲゲとか名字あるじゃない」
「いや、あれ名字じゃなく二つ名でしょ。あなたで言うトイレのみたいな奴」
「ふふふ、あなたでいう失禁のお姉さんみたいな?」
的確に私の弱点を抉ってくる!人には触れてはいけない所があるんだ、そこに触れたら後はもう戦争だろうが!やってやるよ、霊感0%の私に見える奴は幽霊じゃないんだ、よしやってやる!
「怪談のカケラを出して、でないと幽霊だろうが差別や区別のない私の48の編集殺法が火を吹くことになるから!」
勿論、無い。ノリと勢いで言ってみたが正直どうやって得られるのかすらわからない。あの神様本当に説明不足だよ。次回からはチュートリアル経てから現場入りさせろと言おう。
「怪談のカケラ?ええ、これかしら?」
あっさり出してくる花沢さん。さすが不動産屋の娘だ、気前がいい。いや不動産屋の娘じゃなかった。落ち着け私。相手が差し出すそのカケラを手に取るとそれはすっと私の掌に飲み込まれた。
「えっ、なんか入ったけどこれ大丈夫?取れる?というか死なないよね??」
「お姉さんって良くうるさいって言われない?まあとりあえず渡したからには聞いて貰わないとね。トイレの花沢さんの怪談を」
怪談のカケラの動向に戸惑っていた私に花沢さんは彼女の怪談を私に語りかけ始めた。