35、奇跡も魔法も無くても神ってのはいるんだよ
山野ちゃんによって救われた俺は黒スーツに黒マント、シルクハットを被るどう見ても怪しい男との邂逅を果たしていた。
これを怪しく思えないのなら現代人とは言えない。だが俺も大人、しかも山野ちゃんから見ると頼れる上司。まずはご挨拶からだ。
「えー…初めまして。私は志賀直哉と申します。こちら名刺で…」
社会人的には初対面の相手には名刺、これはマストだろう。三流出版社とはいえきちんとした身分の提示が出来るのは本当に大切である。
「これこれはご丁寧に…私は山の神と申します。気軽に山ちゃんとでも呼んでください」
格好も中々だが軽さも侮れないな、怪しげな雰囲気はあるがまあ悪意は無いのだろう。しかし山の神なんかいるのだろ…「ええ、いますよ?」
えっ?今俺のシンキングタイムだよね?なんでカットインしてんの!?
「あ、先輩。神様こと山ちゃん普通に人の心読めっからねー」
遅い、こいつは本当にそういう大事な情報を言わないから俺が怒るのを何故分からないのか、最近の若いものは…っと読まれるなら下手なおためごかしは無しで良いか。
「ええっと…山ちゃんさん?山野がお世話になってるみたいですが、俺…私としてはうちの社員が危険な目に遭うのは極力避けたいんですよね。死亡事故とかあるとほら…会社が責められちゃいますし」
「ちょっと!私が心配とかもっとそういう優しさがあるんじゃないですかね!」
まあそれもあるにはあるが、実際社会的には仕事中に従業員が亡くなると色々と面倒な訳で。ふと山の神の方を向くと少しだけ微笑むのが見えた。
「良い御関係の様ですね。そうですね…いきなり亡くなるとかは無いですね。呪詛や毒による死は…まあ無きにしもあらずですが、大概のものは私が何とか出来ますので」
「ここに来て始めて聞かされたんだけど!!?そんな危険があったの!?」
山野…お前の骨は拾ってやるよ。俺は心の中で手を合わせてそう呟くのであった。




