3、トイレの神様?
「と、とりあえずその前にお願いあるんですけども」
よし、さっきより普通に喋れてる。そして訳分かんないことよりまず優先すべきは…トイレだ。私は乙女として漏らす訳にはいかない。それこそイケメンの前だ。自分を神とか言っちゃうちょっとヤバめの方かもしれないけどイケメンだから許す。
「ああ、それでしたら…少々古いですがそちらにトイレが…」
「あざっす!」
こう見えて私、山野杏奈は我慢強い子である。でも限界は近かった。話もそこそこに急ぎ示された場所に走った私。この後普通に漏らします。え?何でって?話は最後まで聞かなかったからね!
「…ちょっと怪異的なものに出くわすかもしれません、って聞こえてないですね」
そうしてトイレに走った私。ザ・公衆トイレ(公園バージョン)を見つけて駆け込むとその中は朝なのに思わず息を呑む暗さと陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
うっへ…マジか、こりゃ夜とかビビっちゃうね。でも朝だから平気!とばかりに閉まっていた扉を開くと中に血を流しこちらを睨むおかっぱの女の子がいた。
「入ってます…」
数秒の静止の後、私はへたりこんだ…その場に水溜まりを作りながら。さようなら羞恥心。こんにちは怪現象。
「うっし、何もなかった」
扉をそっと閉めてから私はズボンを脱ぎ下着を下ろした。そして洗面台で下着を洗った後ズボンを履き下着はポケットへと捩じ込んだ。大人になって久しぶりに泣いた。
ズボンもなんとか乾いてさっきのイケメンのところに戻る。もちろん彼に渾身のリバーブローを叩き込むためだ。あんなのいるなんて何故言わないのか。
「もしや、あの子いましたか?」
こいつ、私を見て何か察したのか聞いてきた。よーし、もう少し、あと一歩近付いたら私の右ストレートがその腹に埋まってるからな。
「とりあえずその殴ろうとしてる手を納めてください。私を殴るのは構いませんが、帰れなくなりますよ?」
私は理性を総動員して相手の言葉に唇を噛む。大丈夫、杏奈は我慢出来る子だ。
「なんで…なんであんなのいるって言ってくれなかったんですか!!!」