2、おうちにかえりたい
さっむ、なんぞこの寒さ。今は夏、それもくっそ暑い8月だというのになんでこんな寒くて凍えなきゃならんのか。
あー、なんかおしっこしたい。流石に女子捨てられないからトイレトイレ…っと。
私が目を開くとそこはトンネルの出口でした。あれ、なんだっけ…私昨日確か取材で山鳴トンネルに来た筈だよね。いつトンネルから出たっけ?というか、なんか明るくない?今何時だろ。
ポケットからスマホを取り出して時間を見ると、既に午前七時。おかしいな、丑三つ時に来て私五時間も此処にいたのに記憶無い。
え、怖っ!?ヤバくない!?ありえんありえん。とりあえず先輩に電話しよ。…えっ、圏外?あれ、おかしいな…確か電波来てた筈なのに。トンネルの向こう側なら入るかな。
そうして私はトンネルを戻ろうとしたが、何か足が重い。いや重いというかなんか見えない壁がある様な。…うっそだぁ。これは無いわ~めっちゃ明るいのに怪奇現象とか無いわ~。
とりあえずその見えない空気の壁に向かって体当たり。うん、包み込む様な優しさと進めないのを除けば何も問題ない。
…へるぷ!!!こっわ!ちょ、おま、待て!これはあかん!あかん奴!!
ダメだ、落ち着け山野杏奈。こういう時は素数を数えるんだ。1、2、さぁん!…違う、それは3の数字の時ちょっと変になる芸だ。でも落ち着いてきた、よし…深呼吸。すぅーはぁー、ひぃーはぁー。
なあ、おうちかえりたい。杏奈、おうちかえりたいねん。誰か助けて…。
「くくく…なんで3を言う時だけおかしいんですか?」
思い切り振り返るとそこにはとても怪しい黒のシルクハットに黒いマントを付けた黒スーツのイケメンが立ってました。あ、これはあれだわ。吸血鬼かメフィスト2世だわこいつ。
「あ、あのあの、こ、こ、ここれと、と、とおりぇにゃい」
めっちゃ挙動不審にトンネルを指差して怪しげなお兄さんに現状を話すも取り乱した私は言葉が辿々しく、更に噛むという失態。だが杏奈は負けない、まだ就職したてだ、初任給もまだなのだ。なんとしても帰らなければいけない。
「落ち着いて。とりあえずあなたは困っている。そして私に助けてほしいと?」
大きくかぶりを振って同意を示す。イケメン話わかるやん。惚れそう。彼氏いたことないけどめっちゃ惚れそう。これが所謂胸キュンって奴?運命の出会い??
「あー…すいません。残念なお知らせですが、あなたはここでちょっとした事をしなければ帰れません。ですが安心してください、私が帰るお手伝いしますので。」
「ちょっとした事?というか帰れないって…」
「申し遅れました。私は山の神。そうですね、山ちゃんとでも呼んで貰えたら。」