16.加護の中の鳥
アクア国の首都、アクアの郊外の高級な住宅街。大きな門に囲まれた鉄筋の建物。近代的な家が敷地に2棟建っている。片方は落ち着いた茶色を基調とした家。もう片方は薄い黄色を基調としたモダンな家だった。
表の郵便受けには、コサイン=モリコーネ、アール=モリコーネ、とそれぞれに記されている。
「まだかなぁ……」
リュウは朝黄色い建物の2階の窓から、外を覗いていた。待ち人を待っているのだ。
「久利生さん……」
アールの船を降りてから、この家に来て1週間は経っている。
船の操縦室にいた時に、こっそり久利生のダイレクトメールにメッセージを送った。百合友が大変なことになったこと、アクア国に連れて行かれること。助けが欲しいこと。念のために船の情報も送った。
久利生なら、調べてここに来てくれるはずだ。
「メッセージ見てくれたかな…」
思いの外、自分が無力だと思い知ったリュウ。頼みの百合友も覇気が貯まらない。
「リュウ!リュウ!」
珍しく百合友が下から大きな声で呼んでいる。何かあったのかもしれない!
リュウは部屋を出ると階段を駆け降りる、リビングで百合友がテレビを見ていた。そして、それを指差している。
「ロナウド…」
テレビ画面にロナウドが映っていた。
「ロナウドがこの国に居るんだ!アクア大学を訪問して、クリミア王子に会っているらしい」
リュウの心が踊った。まさか、この国にいるとは思わなかった。ロナウドに会えれば、助けてもらえる。
「アクア大学に行けば、会えるかも……」
リュウの呟きに、百合友は不安な表情を浮かべる。
「いや、俺が行くべきだ。この国はリュウにとって安全ではない」
リュウは頭を振った。女性の姿のままの百合友は、式神の力を使えない。ちらり、と部屋の向こうに目をやった。
「アールは?」
「さっき、買い物に出かけたよ」
いつもの百合友だったら、2人で今出ていけば良かった。しかし、今は難しい。
「百合友、猫になれる?」
リュウの問いに、百合友は唇を噛んで頭を振った。
「俺、足引っ張ってるよな」
「そうだね。めちゃめちゃ」
リュウはニッコリと笑う。
「でも、僕はそれも含めて、百合友がいてくれて心強いよ」
「リュウはホントすげー心に効く言葉言うよね」
百合友もニッコリと笑う。
「何とかして、ロナウドに連絡とれないかな?」
リュウは近くにあった端末を触る。ここの国の情報網はかなり発達している。いけないこともないのでは?
「国賓として招かれたみたいだよ。見てよ、あれ。周りをガチガチに固められてるよ」
黒いSPに囲まれながら移動している……。報道関係者が山ほどいた。学者を扱うのにしては大掛かりだった。
2人がロナウドに釘付けになっていると、いきなり大声が玄関から聞こえてきた。
「煩いな!関係ないだろ!入ってくるなよ!!」
アールの声だった。
「我が家に、女を連れ込んで挨拶もないとは、礼儀知らずだな!」
聞いたことのない男の声が近づく。何となく、アールに似た声だった。
バタバタと、争いながら進む足音が響く。罵声の応戦が響く。
リュウとロナウドは思わず手を取り合った。
バン!
リビングのドアを力任せに開けたのは、白髪混じりの男だった。その男を抑えるアール。2人の顔はよく似ていた。
「父さん!やめろよ!驚かせるなよ!」
アールの父はまず、百合友に目をやった。
「まっ、まともそうな女だな……」
百合友の清楚な風貌に、安堵のため息をついた。歴代の見てきた中で、1番まともだった。
面食いの息子らしく、凄く美人な女だ。賢さはわからないが、化粧もほとんせず、品のある服を着ていた。控えめに頭を下げる仕草からは高慢さは感じない。むしろ、好感を感じさせる。
しかし、傍の子供に目をやって動きが止まる。顔色が一気に変わった。口を大きく歪ませる。
「なぜ…なぜ…お前が……」
カッ!と息子を睨んだ。
「ケイ=タンジェント!お前がなぜここにいる!」
リュウは、ビクリと震えた。




