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天の雫  作者: 紘仲 哉弛
第1章 嵐の前の静けさ
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8.双子の彼等

 同じ顔をした男が2人、荷物の整理をしていた。


 落ち着いた茶色の模様が入った絨毯に鞄を並べ、服やら本やら色々を詰め込んでいる。


 金髪に碧眼の彼等は、社交界ではちょっと知れた家柄の兄弟だ。その家柄は高貴、叔母が現王妃であり、父は内務長官を務めている。代々の公爵家、ロイド家だ。


「ロナウド、軍が国境を閉め始めたらしいぞ。アクアに逃したかったけど、無理だ。ヤマトにしよう」


 弟のレオナルドが早口で話し続ける。


「父さんが手を回したから、出国の記録は残らない。あと、荷物は足がつくから、信頼できる親戚を経由して送るから」


 ロナウドはレオナルドの仕事の速さに、さすがだと感嘆する。


 昨日の夕方、大学から戻り、トン師からの命令を弟に話した。この国から出ること、大切な本を守って身を隠すことを。

 

 弟は1つ返事で引き受けた。


‘ちょうどいいじゃない、俺達双子だし。時々、ロナウドをやればいいんでしょ?’


 そんな訳にはいかんだろ、と突っこみたくなったが。勝手ばかりする兄に協力的な弟は、心強かった。


「しかし、困ったことになった。フィリアが心配だよ」


 レオナルドは王と一緒に幽閉されているという叔母を心配する。


「お前のとここそ大丈夫なのか?」


 ロナウドは弟を心配する。レオナルドは官職についており、所属する部署は王の直属だが、存在は知られていない。レイ室と噂されているが、自分はメンバーは弟しか知らない。誰がトップで動かし、何をしてるのか?何となく、諜報機関なのではないかと思ってはいるが……。


「そうだな、しばらくは暇そうだよ。ロナウドとして動ければ、俺も都合がいいかな」


 レオナルドは貴族ではあるが、社交界から離れ、目立ったこともせず。存在感を消すような生活をしている。よく旅行には出ていると思ってはいたが。


「異国にいても、俺が見守ってるよ」


 それにしても不思議に思う。研究者でもない弟、兄がよくわからない本を1冊守るために、人生を賭けようとしていることに疑問に思っている様子はない。むしろ、異様に協力的だ。


 もともと家族に手厚い奴だが、手筈が半端なく。とても単なる世話好きのレベルではない。なんだろうか、この違和感。逃亡の手伝いという特殊なことを普通にやってのける。


「俺達家族のことは心配するなよ。帰って来れるように何んとかするから」


 ロナウドは、自分と同じ顔を眺める。双子というのはやはり繋がっているのだろうか?弟が自分とシンクロしているような気がする。


「レオ、ありがとな。ほとんどお前にやってもらったな」


 床に置かれた鞄の数々を見る。


 完璧な仕分け、内容もそうだが。使用頻度も考え、経由先の事情や軍の検閲のことも考え、無難にまとめられている。


 持っていく荷物は1つのみ。当面の資金、いくつかの身分証、各国の信頼できる人脈、それらを一夜にして準備してくれた。


「まぁ、アクアが理想だったけど。ヤマトも悪くないかもな。面白い国だし。エイキチを頼るといいよ」


 ロナウドは人脈リストを思い出す。


 確か、商会で働く男だったはず。レオナルドが唱えてくれた情報は全て覚えていた。


 この双子の記憶力は底知らずなのだ。この兄弟のやりとりは紙を使わない。幼い頃から、口頭でやりとりをしている。長々とした数式の宿題の時も、文学の宿題の作文の添削も……。


「人生は予想できないものだな。ロナウド」


 まさか兄がこんな人生を選ぶとは思わなかった。大学に根を生やして、人生を終えると思っていた。

 

(まさか、国を出て、大学すら去るとは……)


「俺は何かに動かされているような気がするんだ。ロナウドとその本をこの国から出さないといけない気がするんだ」


 29才の弟。同じ大学で学んだ学友でもある。直感に優れた男だった。大学に残ることを望まれたが、あっさりと卒業し、叔母の願いを聞いて官職に就いた。


‘それが必要だと思うから’


 自分にはその時わからなかったが。今になって思うと、国政に何か陰りがあったのかもしれない。


 レオナルドは大きな鞄を兄の手に握らせる。


「出発だ」


 兄を玄関に促した。






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