9話 作戦の意味がない
「それじゃあ、僕とマークスが前衛。レイとミリハウアさんとアリアさんが後衛で」
「俺は探知能力に長けているから、誰よりも早く魔獣の存在を察知できる。合図を送るから……」
「まずは、私達後衛が攻撃をしかける。そして、前衛のニヒトがトドメを刺す、っていう作戦ね」
ダンジョンの入り口に到着したところで、改めて作戦を確認する。
作戦は大事だ。
しっかりと組み立てておかないと、ふとしたことから、一気に崩壊してしまうことがある。
もちろん、臨機応変な対応は必要となるのだが……
基礎的な動きも大事なのだ。
「ミリハウアさんとアリアさんは、なにか問題は?」
「いや、なにもねーよ」
「はい、大丈夫です」
「よし。それじゃあ、さっそく攻略開始といこうか」
「おう!」
俺達は意気込み、ダンジョン攻略を開始した。
ダンジョンというのは、大地を流れるマナやプラーナの通り道……霊脈上に現れる、特殊なフィールドのことを指す。
霊脈の影響を受けて、一定時間毎に魔獣が出現する。
そのため、魔獣の素材を売ることで稼いでいる冒険者にとっては、宝の山のような場所なのだ。
まあ、ニヒトも言っていたように、油断すれば全滅なんてこともあるため、楽して稼げるというわけではないが。
今回攻略するダンジョンは、ウルフビーストの巣と呼ばれている。
名前の通り、ウルフビーストと呼ばれている、狼型の魔獣がメインに出没するダンジョンだ。
ウルフビーストは、皮、牙、肉と色々な素材が手に入るため、なかなかにおいしい。
「さて」
探知はマークスがやるというが、彼一人に任せるのもなんだ。
全五層の小さいダンジョンとはいえ、油断は禁物。
俺も探知を手伝うことにしよう。
「起動、龍眼」
東方に伝わる力、仙術を使う。
攻撃的な力は少なく、補助に特化した力が仙術だ。
己の体に干渉して、視力、聴覚。
ついでに嗅覚を増幅させた。
これでいつ魔獣が現れても問題はない。
事前に探知できるだろう。
「ん?」
ほどなくして、ウルフビーストの気配を探知した。
三、四、五……全部で五匹か。
行く先で待ち構えているらしく、こちらの様子をうかがいつつも、じっと動かない。
マークスは……気がついた様子はない。
「なあ、マークス」
「どうした?」
「この先、五十メートルくらいのところで、五匹のウルフビーストが待ち構えているぞ」
「な、なんだと!?」
やはり気がついていなかったか。
「アリアさん、それは本当かい?」
「当たり前だろ? こんな質のわりー嘘はつかねーよ」
「し、しかし、俺の探知にはなにも反応していないが……」
「マークスは、なにを使って探知しているんだ?」
「俺か? 俺は、陰術を使っているが……」
陰術とは、かなりメジャーな術の一つだ。
突出した能力はないものの、幅広い力を使うことができて、多くの人に重宝されている。
ただ、補助に特化した仙術と比べると、やはり探知能力は低い。
「あー、そのせいか。陰術を使ってるなら、そうだな……あと三十メートルくらい進めば探知できるだろ。それで確認すればいい」
「あ、ああ。わかった」
信じていいのかわからない様子で、マークスは頷いた。
それから、言われた通りに三十メートルほど前進。
「っ!? あ、あった……確かに、ウルフビーストの反応がある」
「だろ?」
「すごいな、キミは。あの距離で探知できるなんて、どのような術を使ったんだ?」
「それは……」
答えようとしたところで、ウルフビーストが動いた。
待ち伏せに気づかれたことを自覚したらしく、物陰から飛び出して、一斉に襲ってくる。
「マークス、話は後だ! 来るぞっ」
「だが、近い!? くっ……俺達が壁になるぞ」
「その必要はねーよ」
「「えっ」」
俺が前に出ると、ニヒトとマークスがぽかんとする。
彼らに構うことなく、俺はこの状況に適した術を使う。
「ディヴァイン・ライトニング」
陰術の対局に位置する、同じくメジャーな力である陽術だ。
陰術は補助的な力が多いが、陽術は攻撃のための力が多い。
こちらも突出した力はないものの、扱いやすく、やはりたくさんの人に利用されている。
紫電が駆け抜けて、五匹のウルフビースト全てを貫いた。
ブスブスと煙を立てて、悲鳴をあげることもなく、ウルフビーストの群れは地面に倒れて絶命した。
「なっ……た、たった一撃で……」
「いくらウルフビーストとはいえ、今の状況で、五匹同時に仕留めるなんて……いったい、どれだけの力があれば、そんなことが可能になるんだ?」
「っていうか、今の陽術よね? アリアさん、魔術だけじゃなくて、陽術も使えたの……? えっ、嘘。二つ以上の術を使える人なんて、限られた天才だけのはずなのに」
三人が唖然としていた。
その一方で、
「さすが、アリアちゃんです♪ 強くてかわいくて、かわいいです。はぁ、最高ですね。抱きしめていいですか?」
ミリーは、いつもと変わらない。
少し安心した。
「な、なあ……聞いてもいいか?」
「いいぜ」
「俺は陰術を使って探知をしていたが、それよりも先に、アリアはウルフビーストを見つけた。いったい、どうやったんだ?」
「あ、わりーな。マークスを信用してなかったわけじゃねーんだ。ただ、探知なら俺もできるから、念の為に仙術を使っておいたんだよ。龍眼、っていう仙術知っているか?」
「……聞いたことはある。己の五感を増幅させることで、範囲内の全ての生物を探知、観察することができる、探知系最大の術だ。その使用者は、国でも数えるほどしかいないと言われているが……ま、まさか、龍眼を?」
「ああ。昔、ちと仙術をかじっていたことがあってな。龍眼も使えるようになったから、念の為に使っておいたんだよ」
「うそ。アリアさん、仙術まで使えるの? 魔術に陽術に仙術……三つの術を使えるなんて人、私、聞いたことないんだけど」
「三つだけじゃねーぞ?」
「え?」
「武装術、魔術、陽術、陰術、仙術、占星術、召喚術、幻術、暗黒術……十天道のうち、この九つは使えるぞ。まあ、習熟の差はあるけどな」
使えないのは、あのクソ勇者の国専用の聖光術だけだ。
「な……な……」
こちらの答えが予想外だったらしく、レイが大きく口を開ける。
そのまま顎が外れるのではないか? と心配になる。
「な、なんていうか……すさまじいね。すごい女の子だとは思っていたけど、まさか、ここまでなんて」
「私の想像のはるか上を行くわ。もう、常識がおかしくなりそう」
「もしかしたら、アリアは、かの大賢者アーグニスさまの生まれ変わりなのかもしれないな」
っ!?
「んなことはねーよ。ほら、さっさと攻略を再開しようぜ」
今の俺、動揺が顔に出ていないよな?
ドキドキしつつ、俺は歩みを再開するのだった。
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