8話 初めての依頼
偶然にも、俺が助けた母子は貴族だったらしい。
ぜひお礼をさせてほしいと言われたので、遠慮なくもらうことにした。
もちろん、求めたものは、冒険者になるための推薦状だ。
このようなものでよければいくらでも、と一筆したためてもらい……
その足で、俺とミリーは冒険者ギルドへ。
推薦状を提出して、
「……はい、承りました。こちら、アリア・テイルさんの冒険者ライセンスになります。どうぞ」
「おっしゃ!」
晴れて冒険者になることができた。
そのことはうれしいのだが……
「……なあ。この冒険者ライセンス、なんでピンク色のケースに入っているんだ?」
「えっと、ミリハウアさんのオーダーなのですが、間違っていたでしょうか?」
「おい、ミリー」
「だってだって、アリアちゃんはピンクがとても似合うと思うんです。だから、その色の方がきっと良いと思うんです。これは、絶対の絶対です」
「はぁ……もうなんでもいいや」
今のミリーになにを言っても無駄だ。
諦めた俺は、ピンクのケースに入った冒険者ライセンスを、収納術でしまう。
「アリアちゃん、さっそく依頼を請けますか?」
「そうだな。なんでもいいから、とにかく、冒険者ってもんを体験してみてーな」
依頼用紙が貼られた掲示板の前へ移動する。
依頼内容も初級から零級までにランク分けされている。
請けられる依頼は、自分のランクの前後一つまでというルールがある。
難しい依頼を請けて失敗するのを避けるためと、簡単な依頼ばかりこなして楽をさせないための措置だ。
俺は冒険者になりたて……初級なので、請けられる依頼は十級までだ。
しかし、パーティーメンバーのミリーが八級なので、七級までの依頼を請け負うことが可能だ。
「どうしますか?」
「そうだな……」
「すまない、少しいいだろうか?」
ミリーと一緒に掲示板を眺めていると、そんな声がかけられた。
振り返ると、三人組の男女が。
「突然、すまない。僕達は、六級ランクパーティーの『アイスエイジ』だ。僕は、ニヒト」
「俺は、マークス」
「私は、レイよ」
丁寧にお辞儀をしつつ、自己紹介をする三人。
こちらも礼を持って対応する。
「俺は、アリア・テイルだ」
「ミリハウア・グラーゼンです」
「おぉ! やはりキミが、噂の天使さまか」
「は? 天使さま?」
なぜかキラキラとした目を向けられて、おもいきり眉をひそめてしまう。
「なんですか、その天使さまって?」
「そこのアリアさんのことだよ。ハウリングベアーを討伐してこの村を救い、病に侵されていた少年の命を救う。天使の名前を持つにふさわしいと思わないかい?」
「思います! ものすごく思います! アリアちゃんのかわいさ、健気さ、優しさは、まさに天使級ですからね!」
ミリーがものすごい勢いで食いついた。
やめろ、恥ずかしい。
「それで、なんの用だ?」
「これからダンジョンの攻略に行く予定なんだけど……」
「俺らに手伝え、ってか?」
「手伝えというか、手伝ってほしいんだ。僕達だけでも攻略は可能だと思うんだけど、それでも、念には念を入れておきたいんだ」
「そこで、俺らに声をかけた、っていうわけか」
「そういうこと。ミリハウアさんは八級で、サポートに優れている、って聞いている。アリアさんは、言うまでもないかな?」
「安全を確保したい、ってのはわかるが、その分、分け前も減るだろ?」
「確かに。でも、絶対に安全と言い切れない以上、僕は、報酬が減っても安全を確保したいんだ。もしも全滅したら、報酬どころじゃないからね」
「まあ、その通りだな」
考える。
ただ、わからないことがあるため、小声でミリーに聞く。
「なあ、ミリー。ダンジョンの攻略って、今の俺達だけで可能なのか?」
「ダメですねー。ダンジョンは、最低でも七級からになっていますから。なので、攻略をしたいのなら、彼らの話に乗らないとダメですねー」
「そっか」
「どうするんですか?」
「せっかくの機会だ。悪巧みをするような連中には見えねーし、話に乗ってもいいと思う。ミリーは?」
「はい、私も同意見ですよ」
「決まりだな」
ミリーからニヒトに視線を移す。
こちらの話が終わるのを待っていたらしく、穏やかな顔をしていた。
狂犬とか名付けられている冒険者よりは力は劣るのだろうが、人格は、こちらの方が遥かに上だ。
冒険者全員が、こんなヤツならいいのに。
「わかった。その話、受けるぜ」
「よかった、ありがとう」
「それじゃあ、さっそく入場許可証を発行してくるよ。念の為の確認なんだけど、そちらは、ミリハウアさんとアリアさんの二人だけだよね?」
「ああ、そうだけど……なんだ? 入場許可証って?」
「知らないのかい? ギルドが管理しているダンジョンは、攻略する際に許可証が必要になるんだよ」
「へー」
初めて発見されたダンジョンは別として、すでに情報が登録されているダンジョンは、冒険者ギルドが管理しているらしい。
そうすることで、無謀な攻略を止めたり、ダンジョンの資源の枯渇を防いだりすることができるという。
ちなみに、誰も手をつけていないダンジョンが発見された場合は、緊急依頼が発行される。
複数のパーティーが合同で挑み、ダンジョンを攻略して、情報を持ち帰る。
それを何度か繰り返して、ダンジョンの情報を完全に掌握したところで、冒険者ギルドの管理下に置かれる、というシステムらしい。
そんなことをニヒトに教えてもらった。
「勉強になるな。ありがとよ」
「ううん、どういたしまして」
「ぐぎぎぎ」
「どうしたんだ、ミリー?」
「そういう説明は、私がやりたかったんです……それでそれで、アリアちゃんに、すごいお姉ちゃん! って、憧れの目でキラキラとしてほしかったんです」
「んなことしねーからな?」
やれやれとため息をこぼす。
とはいえ、ミリーとの会話は心地いい。
いつでもどこでも、ミリーらしくいてくれる。
こんな俺に対しても普通に接してくれる。
それは、どれだけうれしいことか。
「よし、それじゃあ行こうか」
「オッケー」
冒険者ギルドを後にした俺達は、まずは、村で唯一の宿兼食堂へ。
そこで作戦会議を行い……
きっちりと打ち合わせをした後、部屋を取り、体を休める。
そして翌日。
体力も気力も充実したところで、俺達はダンジョンへ向かうのだった。
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