7話 年齢の壁
望めば、誰でも冒険者になれるというわけではない。
冒険者は危険と隣り合わせの仕事。
誰でも彼でも受け入れていたら、死人が続出してしまう。
そうなるとギルドの信頼低下に繋がってしまう。
最悪、国の監査が入り、冒険者ギルドそのものが解体されてしまう。
故に、資格を取るために試験が必要となる。
一定の力、技能を持つことを証明しなければいけないのだ。
受付嬢は、ハウリングベアーを倒し、クルーガーとかいう冒険者を簡単にあしらう力があるため、俺なら絶対に合格できると言ってくれた。
ただ、その前に問題が一つあった。
年齢制限だ。
冒険者資格を得るための最低年齢が十二歳以上なのだ。
今の俺は、見た目は六歳の幼女。
これじゃあ仕方ないと、引き下がるしかない。
「はぁ……せっかく、冒険者になれると思ったんだけどなー」
村に唯一の食堂兼宿で、果実ジュースを飲みつつ、ぼやく。
「まさか、年齢制限なんてあるとは」
「ごめんなさい。アリアちゃんなら、絶対合格間違いなしと思っていたから、年齢制限のことをすっかり忘れていました……」
「ミリーが謝ることじゃねーさ。理不尽に断られたわけじゃねーし、一応、救済措置もあるからな」
基本的に、十一歳以下は冒険者になれないらしいが、例外があるという。
この者なら問題ない、という推薦状を特定の人に書いてもらうことで、特例として冒険者資格を得ることができるという。
「俺の場合、試験はほぼほぼ免除。推薦状さえあれば冒険者資格をくれるっていうんだから、まあまあ、アリの話じゃねーか?」
「んー、そうですね。とても優遇されていると思います。ただ……三級以上の冒険者の推薦状が必要なんて。うぅ……八級ですみません」
「だーかーら、ミリーが謝ることじゃねーよ。この場合、どちらかというと、非があるのは俺の方だろ。六歳なのに冒険者になりたい、って無茶言ってんだから。なんで、気にするな」
「うぅ、アリアちゃんはかわいいだけじゃなくて、すごく優しいんですね。お姉さん、感激です」
「別に怒ってねーが……事あるごとに抱きつこうするの、やめろ」
「残念」
ミリーとパートナーになるの、はやまったかもしれん。
「とりあえず、三級以上の冒険者を探さないといけねーな。あと、貴族とか偉い人の推薦状でもいいんだろ? ミリーは、居場所に心当たりないか?」
「うーん……難しいですね。ここは辺境だから、まずいないと思います。人のいる街に出たとしても、三級以上に出会えるかどうか、なかなかに難しいかと。貴族の方になると、コネが必要になりますから、ますます……」
「だよなー」
三十年が過ぎて、色々と変わっているが、変わらないところもある。
冒険者のランクに応じた人数もその一つ。
上のランクになるほど人数が少なくなる、というところは変わっていないらしい。
三級の資格を持つ冒険者は、一つの国に千人ほど。
わりと多い? と思われるかもしれないが、俺が今いるアルカシア王国の人口は百万人らしい。
その数字を聞けば、千人がいかに少ないか理解してもらえるだろう。
海に逃げたメダカを見つけるようなものだ。
相当に運がよくないと、遭遇することは叶わないだろう。
ただ、俺は運が良かったらしい。
「なあ。なんか、表が騒がしくねーか?」
「言われてみればそうですね」
たくさんの人が集まっている様子で、ざわつきが聞こえてくる。
建物の中にいても聞こえるほどの声量だ。
「行ってみます?」
「そうだな」
ジュースの代金を支払い、外に出る。
村の入口の方に人だかりができていた。
「しっかりして、ヨシュア! ダメ、目を開けて!」
「……」
十歳くらいの男の子を支えて、泣いている母の姿があった。
男の子の顔色は悪く、呼吸はひどく浅い。
「あぁ、神父さま。お願いです。お金はいくらでも払いますから、どうかこの子を助けてください!」
「むぅ……」
神父が男の子の容態を見ているようだけど、その表情はとても厳しい。
ややあって、神父は申しわけなさそうに首を横に振る。
「申しわけありません。これだけ衰弱してしまうと、私の力ではどうにも……」
「そんな……!? あぁ、ヨシュア、ヨシュア!」
我が子を助けられないと知り、母が泣き崩れる。
その光景を見た俺は、自然と足が動いていた。
「なあ、ちといいか?」
「え? あなたは……」
「俺にみせてみろ」
「みせる? でも、あなたのような子供に……」
「いいから」
「は、はい」
強く言うと、母は素直に男の子を俺に預けた。
ちと強い口調で言ってしまったが、今は一刻を争うため、仕方ない。
母の反応は無視して、男の子の容態を見る。
「……なるほど、黒熱か」
黒い痣が浮かび上がり、高熱を発して、やがて死に至る。
厄介な病だ。
「わかるのですか!?」
「ああ。ついでに……傷よ癒えろ」
回復魔術を男の子に使用する。
苦しそうに顔を歪めていた男の子は、次第に穏やかな表情になり、呼吸が落ち着いていく。
「あぁ!? ヨシュアの顔色が……!」
「そ、そんな!? 不治の病と言われている黒熱を癒やしてしまうなんて、なんていう……これは奇跡だ! 神の御業だ!」
母は喜びに息子を抱きしめて、神父は驚天動地という言葉がぴったりの顔をしていた。
黒熱病は確かに厄介な病ではあるが、不治の病というわけではない。
術で治療可能だ。
もっとも、それなりの力が要求されるため、なかなかに難しい。
まあ、その点、俺ならなにも問題はないけどな。
「ありがとうございます! ありがとうございます! ヨシュアの命を……私の息子の命を救っていただき、本当にありがとうございます!!!」
「キミは、もしかして神の使徒なのですか!? その容姿、その力……あぁ、間違いない。使徒に違いない。どうか、私を導いてください!!!」
「え、いや。俺は別に……」
ものすごく感謝されて、一方では、ものすごく崇められてしまう。
極端な反応に、どうしていいかわからず、困惑する。
「ふふっ、アリアちゃんは、やっぱり優しい子ですね」
そんな俺を見て、ミリーは自分のことのようにうれしそうに笑うのだった。
19時にもう一度更新します。
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




