表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/28

6話 当面の目的は?

「それじゃあ、これからどうしますか? まずは、目的を決めないとですね」

「ってか、俺についてきて、ホントにいいのか? そんな簡単に決めていいのか?」

「いいんですよ」

「でも、家族とかになんて言うつもりなんだよ?」

「家族はいませんよ。ずっと前に、みんな、亡くなりました」

「……わりい」


 失敗した。


 バカか、俺は。

 ミリーのような若い女が、冒険者なんて荒事やっているんだ。

 なにかしら事情があるに違いないだろ。


 それなのに、そのことに気づかないで、バカな質問をして……

 はぁ。

 配慮のない自分がイヤになる。


「私は、別に気にしていませんよ。もう心の整理はついていますし……それに、アリアちゃんの落ち込む顔は見たくないです」

「……ミリーは優しいんだな」

「アリアちゃんがかわいいので♪」

「ははっ」


 また気をつかってもらっている。

 ただ、そこまでしてもらっておいて、いつまでもうじうじとしてられない。


「わかった。じゃあ、ミリーはなにも問題ない、っていうことでいいな?」

「はい」

「となると、これからについては俺次第か」


 考えるものの、なにも思い浮かばない。

 前世では、魔王の討伐だけを考えていたからな。

 その目的がなくなり、どうしていいか、自分でもわからない。


 前世の恨みとして、クソ勇者を一発ぶん殴ってやろうか?

 いや、しかし、それはどうだろうか?

 ヤツが世界の王になっている以上、下手に手を出すことはできない。


 せっかく生きながらえた命だ。

 無駄に捨てるようなことはしたくない。

 あまり生に執着はないが……かといって、自殺願望があるわけでもないからな。


「まずは、アリアちゃんの記憶を探してみる、というのはどうですか?」


 迷う俺を見て、ミリーがそんな提案をした。


 記憶喪失っていうのは嘘なんだが……

 ただ、俺の今の体の持ち主について、調べておくことは必要だろうな。


 魔獣の徘徊する森の中で、自殺か他殺かわからないが、死んでいた。

 着ているものはボロボロで、しかし、その容姿は貴族のよう。


 トラブルの匂いがする。

 きちんと知っておかないと、思わぬところで思わぬ事件に巻き込まれるかもしれないな。


「そうだな。俺のことは知りたいが……ただ、それを目的にするってのは、ちと、違う気がするな」

「と、いうと?」

「なんつーかな。生きる目的ってのは、明るい方がいいだろ? 自分だけの店を持ちたいとか、すごい学者になりてーとか。せっかくの人生だ。そういう明るい目的の方がいいんじゃねえか、って思ったわけさ」

「なるほど、なるほど。確かに、その通りですね。じゃあ、明るい目的を設定しましょう! そうですね……アリアちゃんなら、王子さまに見初められて、お姫さまになる、とか似合いそうですね」

「それはやめてくれ……」


 見た目は幼女だが、中身は男なのだ。

 王子さまに嫁ぐなんて、まっぴらごめんだ。


「そうだな……せっかくだから、好き勝手、自由気ままに楽しく生きてみてーな。そう……冒険者なんていいかもしれねー」

「冒険者ですか?」


 ミリーが不思議そうな顔に。

 ただ、その反応も仕方ない。


 冒険者というのは、決して楽な稼業ではない。

 むしろ、常に危険が付きまとうような、荒事が基本の仕事なのだ。


 魔獣退治。

 盗賊からの商隊の護衛。

 未知の地の探検。


 下手をすれば、命を落としてしまうようなものばかり。

 しかし、俺にとっては、それが魅力的に映る。

 前世の俺は、ホント、戦うことしか知らなかったからな。

 だから、色々なことができる冒険者は、輝いているように見える。


 実際、ミリーのことも、わりと羨ましく思っていた。


「なあ、俺とミリーでコンビを結成しねーか? それで、あちらこちら旅をしつつ、冒険者として活動するんだ。冒険者としての最終目的は……それはまあ、また今度考えるとして。けっこう楽しそうだと思うんだが、どうだ?」

「いいですね!」


 二つ返事で食いついてきた。

 俺を気遣っているわけではなくて、本気の声だ。

 その証拠に、目がキラキラと輝いている。


「アリアちゃんとコンビを組むことができるなんて、すごく幸せです。毎日が眼福です」

「お、おう」


 ミリーの喜びっぷりに、ちょっと引く俺だった。


「じゃあ、ひとまずの目的は、冒険者になってあちらこちらを旅する、ってことでいいな?」

「はい、問題ありません! 異議なし、です」

「よし、決まりだ。じゃあ、冒険者登録の方法を教えてくれねーか? そういうの、詳しく知らねーんだよな」

「冒険者登録も大事ですけど、今は、それよりも大事なことがあります」


 ミリーがひどく真面目な顔で、そう言う。

 あまりの迫力に押されてしまい、ごくりと息を飲んだ。


「大事なこと、ってのは……?」

「それは……」

「それは?」

「アリアちゃんを、もっとかわいくすることです!」

「……は?」


 今、なんて言った?


「アリアちゃん、天使みたいにかわいいのに、でも、着ているものはボロボロで、それにあちらこちら汚れていて……まずは、身なりをきちんとしなければいけません! 特零級のかわいさがもったいないです!!!」


 確かに、今の俺はボロボロだ。

 一応、ミリーに借りたローブを羽織っているが、その下はボロ布と間違えそうな服。髪も体も汚れていて、泥だらけ。ちなみに、靴もない。


 とはいえ、俺は気にしていない。

 前世では、一ヶ月、野宿なんて当たり前だったし……

 身なりを気にするほどの余裕は欠片もなく、いつしか、まったく気にならないように慣れていた。


「確かにボロボロだけどよ。別にいいんじゃね? 死ぬわけじゃねーし、これくらい放っておいても……」

「いいわけありませんっ!!!」


 ものすごい勢いで否定された。


「アリアちゃんのようなかわいい女の子が、そんなボロボロの格好をしているなんて、それはもはや罪です! いえ、アリアちゃんが悪いのではありません。そのままにしておく、周囲の方が悪いのです!」

「いや、そんな大げさな」

「いいえ、これは世界の真理です」


 ミリーは、どこまでも大真面目だった。

 そして、ちらりと見ると、周囲の冒険者連中も、同意見というかのようにコクコクと頷いていた。


「と、いうわけで……まずは、宿に言って体を綺麗にしましょうね。それから、服屋に行きましょう」

「っても、俺、服とかよく知らねーんだが」

「大丈夫です。お姉ちゃんに任せてくださいね♪」


 誰がお姉ちゃんか。




――――――――――




 まずは宿の風呂に入り、タオルが黒くならなくなるまで体を洗った。

 幼女の裸を見るという罪悪感があったものの、よくよく考えれば、今は自分の体なのだ。

 それに、精神が肉体に引っ張られているせいか、すぐに慣れて、なんとも思わなくなった。


 ちなみに、ミリーが俺の体を洗おうとしたものの、やばい目をしていたので断固として拒否しておいた。


 その後、服屋に移動して、下着から全部、身につけるものを揃えた。

 結果……ゴスロリ幼女が誕生した。


 フリルやリボンがたくさんついた、ゴシックロリータ服。

 頭には、メイドがつけるようなヘッドカチューシャに似たようなもの。

 正式名称は知らん。


 ちょっとしたおまけという感じで、猫柄のポーチ。

 そして最後に、水玉模様の日傘。


「どうだ?」


 着替えを終えた俺は、更衣室から出て、ミリーにお披露目した。

 彼女は、全身をぷるぷると震わせる。


「か、か……」

「か?」

「かわいいです!!! すごく、すごくかわいくて愛らしくて魅力で……きゃわわわ!」

「お、おい? 大丈夫か? 言語崩壊してるし、目がやべーぞ」

「そうなってしまうくらい、アリアちゃんがかわいいのがいけないんです! 罪です! かわいさ爆発罪で拘束しちゃいます!」

「ふぎゅ!?」


 いきなり抱きつかれて、思わず変な声がこぼれてしまう。

 くそ、恥ずい。

 やはり、精神が肉体年齢に引っ張られているらしく、たまに変な言動をとってしまう。


 まあ、本格的な精神汚染が始まっているわけじゃなさそうだから、こういうものと慣れるしかないな。


「はぁはぁ……アリアちゃん、本当にかわいいです……はぁはぁ」

「おい、やめろ。頼むから、吐息を荒げるのはやめてくれ。なんか知らんが、身の危険を感じる」

「はっ!? す、すみません。ちょっとだけ、我を見失っていたみたいです」

「今のが、ちょっと、なのか……?」


 やはり、ミリーと一緒にいるのをやめるべきだろうか?

 本気でそんなことを考えてしまう俺だった。


「それじゃあ、体も綺麗にして服も整えたし、冒険者ギルドに戻りましょうか」

「待った。ここの金は……」

「大丈夫です。全部、私のおごりです」

「しかしだな」

「私達、パートナーですよね? なら、そういうことは気にしないでください」

「……わかった。ただ、今度、別のなにかで返すぜ」

「なら、一緒に添い寝してください」

「お、おう」


 こいつ、実は自分の欲望にとことん正直なヤツなのか?

 接すれば接するほど、地が出てくるヤツだな。


「それじゃあ、行くか」


 冒険者ギルドの場所は、一度行っているため、もう覚えた。

 服屋の外に出る。

 それから、小さな村をまっすぐに移動して、冒険者ギルドへ戻るのだけど……


「す、すみません! アリアさんの冒険者登録を受け付けることはできません」


 ……なんてことを言われてしまうのだった。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ