6話 当面の目的は?
「それじゃあ、これからどうしますか? まずは、目的を決めないとですね」
「ってか、俺についてきて、ホントにいいのか? そんな簡単に決めていいのか?」
「いいんですよ」
「でも、家族とかになんて言うつもりなんだよ?」
「家族はいませんよ。ずっと前に、みんな、亡くなりました」
「……わりい」
失敗した。
バカか、俺は。
ミリーのような若い女が、冒険者なんて荒事やっているんだ。
なにかしら事情があるに違いないだろ。
それなのに、そのことに気づかないで、バカな質問をして……
はぁ。
配慮のない自分がイヤになる。
「私は、別に気にしていませんよ。もう心の整理はついていますし……それに、アリアちゃんの落ち込む顔は見たくないです」
「……ミリーは優しいんだな」
「アリアちゃんがかわいいので♪」
「ははっ」
また気をつかってもらっている。
ただ、そこまでしてもらっておいて、いつまでもうじうじとしてられない。
「わかった。じゃあ、ミリーはなにも問題ない、っていうことでいいな?」
「はい」
「となると、これからについては俺次第か」
考えるものの、なにも思い浮かばない。
前世では、魔王の討伐だけを考えていたからな。
その目的がなくなり、どうしていいか、自分でもわからない。
前世の恨みとして、クソ勇者を一発ぶん殴ってやろうか?
いや、しかし、それはどうだろうか?
ヤツが世界の王になっている以上、下手に手を出すことはできない。
せっかく生きながらえた命だ。
無駄に捨てるようなことはしたくない。
あまり生に執着はないが……かといって、自殺願望があるわけでもないからな。
「まずは、アリアちゃんの記憶を探してみる、というのはどうですか?」
迷う俺を見て、ミリーがそんな提案をした。
記憶喪失っていうのは嘘なんだが……
ただ、俺の今の体の持ち主について、調べておくことは必要だろうな。
魔獣の徘徊する森の中で、自殺か他殺かわからないが、死んでいた。
着ているものはボロボロで、しかし、その容姿は貴族のよう。
トラブルの匂いがする。
きちんと知っておかないと、思わぬところで思わぬ事件に巻き込まれるかもしれないな。
「そうだな。俺のことは知りたいが……ただ、それを目的にするってのは、ちと、違う気がするな」
「と、いうと?」
「なんつーかな。生きる目的ってのは、明るい方がいいだろ? 自分だけの店を持ちたいとか、すごい学者になりてーとか。せっかくの人生だ。そういう明るい目的の方がいいんじゃねえか、って思ったわけさ」
「なるほど、なるほど。確かに、その通りですね。じゃあ、明るい目的を設定しましょう! そうですね……アリアちゃんなら、王子さまに見初められて、お姫さまになる、とか似合いそうですね」
「それはやめてくれ……」
見た目は幼女だが、中身は男なのだ。
王子さまに嫁ぐなんて、まっぴらごめんだ。
「そうだな……せっかくだから、好き勝手、自由気ままに楽しく生きてみてーな。そう……冒険者なんていいかもしれねー」
「冒険者ですか?」
ミリーが不思議そうな顔に。
ただ、その反応も仕方ない。
冒険者というのは、決して楽な稼業ではない。
むしろ、常に危険が付きまとうような、荒事が基本の仕事なのだ。
魔獣退治。
盗賊からの商隊の護衛。
未知の地の探検。
下手をすれば、命を落としてしまうようなものばかり。
しかし、俺にとっては、それが魅力的に映る。
前世の俺は、ホント、戦うことしか知らなかったからな。
だから、色々なことができる冒険者は、輝いているように見える。
実際、ミリーのことも、わりと羨ましく思っていた。
「なあ、俺とミリーでコンビを結成しねーか? それで、あちらこちら旅をしつつ、冒険者として活動するんだ。冒険者としての最終目的は……それはまあ、また今度考えるとして。けっこう楽しそうだと思うんだが、どうだ?」
「いいですね!」
二つ返事で食いついてきた。
俺を気遣っているわけではなくて、本気の声だ。
その証拠に、目がキラキラと輝いている。
「アリアちゃんとコンビを組むことができるなんて、すごく幸せです。毎日が眼福です」
「お、おう」
ミリーの喜びっぷりに、ちょっと引く俺だった。
「じゃあ、ひとまずの目的は、冒険者になってあちらこちらを旅する、ってことでいいな?」
「はい、問題ありません! 異議なし、です」
「よし、決まりだ。じゃあ、冒険者登録の方法を教えてくれねーか? そういうの、詳しく知らねーんだよな」
「冒険者登録も大事ですけど、今は、それよりも大事なことがあります」
ミリーがひどく真面目な顔で、そう言う。
あまりの迫力に押されてしまい、ごくりと息を飲んだ。
「大事なこと、ってのは……?」
「それは……」
「それは?」
「アリアちゃんを、もっとかわいくすることです!」
「……は?」
今、なんて言った?
「アリアちゃん、天使みたいにかわいいのに、でも、着ているものはボロボロで、それにあちらこちら汚れていて……まずは、身なりをきちんとしなければいけません! 特零級のかわいさがもったいないです!!!」
確かに、今の俺はボロボロだ。
一応、ミリーに借りたローブを羽織っているが、その下はボロ布と間違えそうな服。髪も体も汚れていて、泥だらけ。ちなみに、靴もない。
とはいえ、俺は気にしていない。
前世では、一ヶ月、野宿なんて当たり前だったし……
身なりを気にするほどの余裕は欠片もなく、いつしか、まったく気にならないように慣れていた。
「確かにボロボロだけどよ。別にいいんじゃね? 死ぬわけじゃねーし、これくらい放っておいても……」
「いいわけありませんっ!!!」
ものすごい勢いで否定された。
「アリアちゃんのようなかわいい女の子が、そんなボロボロの格好をしているなんて、それはもはや罪です! いえ、アリアちゃんが悪いのではありません。そのままにしておく、周囲の方が悪いのです!」
「いや、そんな大げさな」
「いいえ、これは世界の真理です」
ミリーは、どこまでも大真面目だった。
そして、ちらりと見ると、周囲の冒険者連中も、同意見というかのようにコクコクと頷いていた。
「と、いうわけで……まずは、宿に言って体を綺麗にしましょうね。それから、服屋に行きましょう」
「っても、俺、服とかよく知らねーんだが」
「大丈夫です。お姉ちゃんに任せてくださいね♪」
誰がお姉ちゃんか。
――――――――――
まずは宿の風呂に入り、タオルが黒くならなくなるまで体を洗った。
幼女の裸を見るという罪悪感があったものの、よくよく考えれば、今は自分の体なのだ。
それに、精神が肉体に引っ張られているせいか、すぐに慣れて、なんとも思わなくなった。
ちなみに、ミリーが俺の体を洗おうとしたものの、やばい目をしていたので断固として拒否しておいた。
その後、服屋に移動して、下着から全部、身につけるものを揃えた。
結果……ゴスロリ幼女が誕生した。
フリルやリボンがたくさんついた、ゴシックロリータ服。
頭には、メイドがつけるようなヘッドカチューシャに似たようなもの。
正式名称は知らん。
ちょっとしたおまけという感じで、猫柄のポーチ。
そして最後に、水玉模様の日傘。
「どうだ?」
着替えを終えた俺は、更衣室から出て、ミリーにお披露目した。
彼女は、全身をぷるぷると震わせる。
「か、か……」
「か?」
「かわいいです!!! すごく、すごくかわいくて愛らしくて魅力で……きゃわわわ!」
「お、おい? 大丈夫か? 言語崩壊してるし、目がやべーぞ」
「そうなってしまうくらい、アリアちゃんがかわいいのがいけないんです! 罪です! かわいさ爆発罪で拘束しちゃいます!」
「ふぎゅ!?」
いきなり抱きつかれて、思わず変な声がこぼれてしまう。
くそ、恥ずい。
やはり、精神が肉体年齢に引っ張られているらしく、たまに変な言動をとってしまう。
まあ、本格的な精神汚染が始まっているわけじゃなさそうだから、こういうものと慣れるしかないな。
「はぁはぁ……アリアちゃん、本当にかわいいです……はぁはぁ」
「おい、やめろ。頼むから、吐息を荒げるのはやめてくれ。なんか知らんが、身の危険を感じる」
「はっ!? す、すみません。ちょっとだけ、我を見失っていたみたいです」
「今のが、ちょっと、なのか……?」
やはり、ミリーと一緒にいるのをやめるべきだろうか?
本気でそんなことを考えてしまう俺だった。
「それじゃあ、体も綺麗にして服も整えたし、冒険者ギルドに戻りましょうか」
「待った。ここの金は……」
「大丈夫です。全部、私のおごりです」
「しかしだな」
「私達、パートナーですよね? なら、そういうことは気にしないでください」
「……わかった。ただ、今度、別のなにかで返すぜ」
「なら、一緒に添い寝してください」
「お、おう」
こいつ、実は自分の欲望にとことん正直なヤツなのか?
接すれば接するほど、地が出てくるヤツだな。
「それじゃあ、行くか」
冒険者ギルドの場所は、一度行っているため、もう覚えた。
服屋の外に出る。
それから、小さな村をまっすぐに移動して、冒険者ギルドへ戻るのだけど……
「す、すみません! アリアさんの冒険者登録を受け付けることはできません」
……なんてことを言われてしまうのだった。
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