5話 あれから……
冒険者達が冷静になるまで、俺は何度も胴上げをされた。
途中で、ミリーが止めてくれなければ、一時間くらいは胴上げされていたような気がする。
その後、ミリーから事情を聞いた。
一週間ほど前から、村の近くにハウリングベアーが現れるようになり、家畜に被害が出るように。
相手は魔獣。
いずれ、家畜だけではなくて、人にも被害が出るだろう。
そうなる前に討伐が考えられたのだけど……
しかし、ハウリングベアーを討伐できるような、高位の冒険者はいない。
一番ランクの高いミリーも、八級。
ハウリングベアー討伐に必要とされている、六級に足りていない。
しかし、放置することはできない。
ミリーは決死の覚悟で、ハウリングベアーの討伐に向かい……
「……そこでアリアちゃんと出会った、というわけなんです」
「なるほどな。しかし、災難だったな」
「はい……アリアちゃんがいなかったら、私、死んでいたと思います。本当に命の恩人です。お礼に、ぎゅーってしてもいいですか?」
「それは、ミリーがしたいだけだろうが」
しかし、意外だ。
ミリーは冒険者というが……
失礼な話ではあるが、初級か十級くらいだと思っていた。
ちなみに、冒険者のランクは以下のように分かれている。
見習い、及び成り立ては初級。
次に十級。
そして、九、八、七と上がり……一、特級、零級という風に、全部で十三のランクに分類されている。
冒険者になったことはないが、賢者なんてものをやっていたため、多少の知識はある。
ミリーは八級。
ベテランとは言えないが、初心者は脱却して、独り立ちするランクだ。
それなりに強かったんだな。
「あ、その顔は意外だな、ってことを考えていますね?」
「……考えてねーよ」
「嘘です。私の顔を見て、ちゃんと言ってください」
「ったく……悪かった、悪かったよ。考えてた」
「まったくもう、アリアちゃんはひどいです。でもでも、そんなキツイところもかわいらしくて、ギャップがあって素敵です」
めげないヤツだ、と心底感心してしまう。
「そういえば、ミリーは何歳なんだ? 十五歳くらいに見えるが……」
「はい、その通りですよ。十五年生まれの十五歳です」
「やっぱりか。俺の見た通り……いや、待て。今、なんて?」
「だから、十五歳ですよ?」
「その前だ」
「十五年生まれ?」
「……ちなみに、今は何年だ?」
「え? 三十年に決まっているじゃないですか」
俺の前世の最後の記憶は、星暦一ニ三五年だった。
ということは、あれから百年近くが経っているというわけか……?
バカな。
転生術は、同じ年代か、もしくは数年の誤差に設定しておいたはずだ。
いくらか失敗したようだが、まさか、百年近い誤差を生み出してしまうなんて……
大きなミスをしたと、俺は内心で動揺するのだけど……
ミリーの次の言葉で、さらに動揺することになる。
「今は、聖光国歴三十年ですよ」
「……なんだと?」
聖光国歴って、どういうことだ?
なんで、あのクソ勇者の祖国の名前が暦になっている?
「ちょっと待て。星歴じゃないのか? 聖光国歴ってなんだ?」
「あれ? アリアちゃん、前の暦を知っているんですね。その歳で偉いですね」
「いや、そういうのはいいから。前の暦っていうことは、途中で変わったのか?」
「はい。魔王を倒した、ルーファス・ヴァン・エルドアーク様は知っていますか?」
「……嫌ってくらいにな」
「? そのルーファス様の祖国が、エルドアークで……三十年前に、聖エルドアーク光国が世界を統一したんです」
「はぁ!?」
あのクソ勇者の祖国が世界を統一?
マジかよ。
なにかの冗談だろう。
しかし、ミリーは真面目な顔で解説を続ける。
「エルドアークは元々大きな国で、他国を牽引するほどの力を持ち、世界のリーダーとなる素質は十分にありました。そして、三十年前に、エルドアークの王子で勇者でもあるルーファスさまが、魔王を討伐しました。その功績を全ての国から認められて……多少の紆余曲折はありますが、エルドアークを頂点とした統一国家が誕生したんですよ。それと同時に、暦も変えることになり……」
「エルドアークの暦……聖光国歴、ってなったわけか?」
「はい」
ってことは……
俺は、三十年後に転生してしまった、っていうわけか。
しかも、幼女の体で。
転生術は初めて使うとはいえ、ここまで盛大に失敗してしまうとは。
くそ、賢者の名前が泣くな。
「まいったな……まさか、んなことになってるなんて」
「どうしたんですか?」
「……ちなみに、統一国家の王は?」
「ルーファスさまですよ」
「だよな」
あのクソ勇者が世界の王に?
なんてふざけた展開だ。
前世で殺された恨み。
一発ぐらいはぶん殴ってやりたいが……
世界の王となった今、それも難しいだろうな。
というか、逆に俺が殺されかねない。
俺が転生したことをヤツが知ったら、絶対に殺そうとするだろう。
それくらいに用心深く、容赦のないヤツだ。
「はぁ……これから、どうすっかな?」
転生術を用意しておいたのは、魔王討伐という悲願の前に倒れてしまった時のため。
しかし、本来の目的で使用されることはなくて……
仲間に裏切られて殺されて、使用するという始末。
挙げ句、幼女に転生。
気がつけば三十年が過ぎていて、俺を殺したクソ勇者が世界のトップに君臨するという、悪夢以外でもなんでもない世界に。
目的がなにもない。
一気に、全て失われた。
生きる意味が……ない。
「俺……なんで、生きているんだろうな」
ついつい、そんな言葉がこぼれてしまう。
それくらいに、思いも寄らない現実に打ちのめされて、俺の心は弱っていた。
「そんな寂しいこと、言わないでください」
「ミリー?」
ミリーがすごく悲しそうな顔をして、俺の手を両手で握る。
触れた手は……とても温かい。
「私はアリアちゃんのこと、ぜんぜん知りません。アリアちゃんも、記憶喪失ということで、すごく不安だと思います。でも、今を諦める必要はないんです。誰にだって、前を向いて歩いていく権利があるんです」
「……前を……」
「それなのに、もうなにもないなんて……そんなことは言わないでほしいです。アリアちゃんは、これから先、色々なことができると思います。できるんです。だから、諦めることは早いです」
「色々と失ったのに?」
「また作ればいいです」
「予定外のことだらけなのに?」
「また予定を立てましょう」
「……一人なのに?」
「私がいます!」
まっすぐな瞳を向けられた。
とても澄んだ瞳で、宝石のように綺麗だ。
その純粋な色に、心を掴まれたかのように、目を離すことができない。
「出会ったばかりですけど、でも、私はアリアちゃんの隣にいたいと思いますよ。絶対に一人にしません」
「それは……いつまで?」
「いつまでも、です!」
「……軽くそんなこと言うものじゃねーだろ」
「私は本気ですよ?」
そう言うミリーは、確かに本気の顔をしていた。
一時、俺を慰めるための嘘とか、そういうわけではなくて……
心の底からの言葉に思えた。
でも、どうして?
「どうして、そこまでするんだよ? 俺は、赤の他人なんだぞ。そりゃ、魔獣から助けたからかもしれねーけど、それだけだ。他になにもしてねー。なにも関わりがねー。それなのに、なんてミリーは……」
「一緒にいたいと思うことに、理由なんて必要ないですよ」
「……」
思わずぽかんとしてしまう。
まさか、そんな言葉を返されるなんて……
「アリアちゃんがイヤって言うまで……いいえ。イヤって言っても、私はついていきますからね」
「……ストーカーかよ」
「はい。アリアちゃん、専用のストーカーです」
「ったく、誇らしげに言うことかよ」
苦笑する。
しかし。
なんだ、こう……
悪い気分じゃないな。
「あー」
「……」
「なら、まあ……よろしくな」
「はいっ!」
うれしそうに……
本当にうれしそうに、ミリーはにっこりと笑う。
その笑顔に、暗く沈んでいた俺の心は、いつの間にか晴れ渡っているのだった。
19時にもう一度更新します。
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